読書紀行

唯ノ 鳥

不死身の特攻兵~軍神はなぜ上官に反抗したか~ 著者.鴻上尚史

この本との出会いは偶然だった。

これから大学生となるにも関わらず、自堕落な生活を送っていた僕は、卓上カレンダーを探しに入った書店で所狭しと棚に並ぶ新書を見て、「文学部に所属する者は一週間に二、三冊は新書を読むべきである」と自宅に送り付けられた大学の資料に書かれていた偉そうな文言をはたと思い出した。

思い立ったが吉日ならぬ思い出したら吉日と、何か面白そうな新書はないかと棚を見渡すも、なんとか哲学やなんちゃら論など読書から長らく離れていた僕には敷居が高そうな本ばかりであった。

そんな時ふとある文に目を引き付けられました。

「死ななくていいと思います。死ぬまで何度でも行って、爆弾を命中させます」

この言葉は通常より結構太い本の帯に書かれており、気になった僕は題名に目をやると「不死身」や「軍神」というなんというか中二病っぽい言葉と「9回の出撃命令に背き生還を果たした特攻兵」に対し純粋な興味が湧き、これなら読めるかもしれないぞと思い、すぐに購入することを決めた。

最初は自室に戻って読もうかと考えていたが、部屋に入ると不思議とだらけてしまい読まずに積読コレクションの一部となる恐れがあることに気づき、真面目な僕は近くのマクドナルドで読むことに決めた。


本書は四章に分けて筋書きされており、第一章では筆者の本書の執筆に至るまでの経緯を一冊の本との出会いから本書の主人公である「佐々木友次」さんとの出会いまでを時系列に沿って、紹介されている。

次の第二章では佐々木さんの人生、特に特攻兵時代の三年余りを本書の半分ほどのページ数で余すことなく描写し、第三章では、それまでとは打って変わって92歳となった佐々木さんと著者が対談形式で第二章を補完し、よりその内容に現実味を持たせていた。

最後の第四章では、特攻というもの自体に注目しその是非から特攻というものが表す日本人の性質や宗教までをも関連付けて述べていた。

僕は本書のポイントは大きく分けて二つあると思います。

一つは主に第二章を中心とした大河ドラマ風に描かれた佐々木さんの特攻兵時代。

もう一つが特攻に対し理知的な検証を行い、その結果から導かれる日本人の特性を示した第三章。

どちらもそれぞれ興味深い内容であり、前者は手に汗握るシーンも多くあり僕の好みであったが、今回は特に後者の方について述べたいと思う。

後者のキーワードとして「命令した側」という言葉があります。

これはもちろん特攻を命令した上層部を指している言葉で、特攻兵は「命令された側」と定義づけられます。

このように「命令」という言葉を軸に考えることで、特攻という異常な作戦の責任から「命令した側」を逃さないように言葉で縛っており上手い言い方だと勝手ながら感心しました。

それだけでなく、筆者は「命令を見ていた側」という第三者の実体を簡潔の言葉で表すことで、特攻が神話となり実態とはそぐわない英雄像もしくは神を創り上げる原因を導くことに成功しておいます。

また、筆者は特攻という方法をなぜ日本人が採用するに至ったのかにさえ時代を遡り地理的条件を用いながら他国と対比することで説得力のある説明をし、日本人の性質や宗教観に結び付けているのにも驚愕しました。

これらをすべて踏まえて私は特攻という問題に対してもっと積極的にかかわる必要があるのだと感じた。

今年で終戦から75年が経とうとしている。

日本人として特攻いわんや戦争自体を単に過去のこととするのでなく世界的に様々な問題を抱える今だからこそ学びなおし、深く思考する必要があると気づかされた一冊でした。

もし、この感想を読んで少しでも興味をひかれたなら本書を読まれることを強くお勧めする。


今日の本

出版社:講談社現代新書 著者:鴻上尚史 題名:「不死身の特攻兵~軍神はなぜ上官に反抗したか~ 」



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