名探偵、帝都にて。 -ナジリマ・ミッシングディタクティブ-

360words (あいだ れい)

1:推理力はすべて、ケトルのために。

天空城の陰から抜けて、窓から太陽の光が差し込んできました。

今日はとても、気持ちの良い天気です。


ここは、帝都のはずれにある、私立探偵事務所。

 所長のナジリマさんと、私の2人でやってます。


 私はEジョシュ。

 ポニーテールとパーカーがトレードマークの19歳です。

 ここで、女探偵助手をやってます!


 向こうで紅茶を飲みながら、新聞を読んでいるのが、ここの所長。

 ナジリマさんです。

 見た目は、ボブカットの似合う、スタイルの良い大人の女性、というイメージです。

 が、長い間ナジリマさんと過ごしている私は、彼女がとても可愛い人だということを知っています。

 彼女は、私の上司であり、憧れであり、恩人なのです!




「ナジリマさん、ナジリマさん」

「なんでしょう、Eジョシュさん。依頼でもありましたか?」

 もちろん現代において、探偵の需要などほとんどなく……。

「残念ながら、依頼はありませんでした。」

 ナジリマさんはしかめっ面をします。

「むむむ、困りましたね。これでは事務所の家賃が払えません」

 え?

「ナジリマさん、それは一体どういうことですか」

「そのままの意味です。依頼がなくて、事務所の家賃が払えないのですよ、Eジョシュさん」

「どうするんですか、ナジリマさん」

「どうしましょう、Eジョシュさん。これでは、今月で店じまいです」

 ナジリマさんは椅子から立ち上がり、部屋を歩き回ります。

「さて……、どうしたものか……」

 腕を組み、片手を顎に当てるという実に探偵らしい格好ポーズで、ナジリマさんは事務所内を右から左へうろうろ、うろうろ。


 特に何も思いつかなかったようで、ナジリマさんはそのままいつもの革張りの椅子に座ってしまいます。

「ふぅ……、Eジョシュさん。紅茶をいただけますか?」

「あ、はい」

 私が給湯室へ向かうと、先ほど火にかけておいたケトルが、ピィーッ!、と鳴きました。

 ガスを止めて、ポットに茶葉を3杯ほど。

 カタカタというケトルのふたを抑えながら、お湯をポットにそそぎます。

 蒸らしを終えて、もう一度お湯を注ぎ、85秒。

 ナジリマさんのコップと私のコップに、入れます。

 量はピッタリ。

 この仕事にも慣れたものです。


「はい、紅茶です」

「あぁ、ありがとうございます」

 ナジリマさんは、そのまま紅茶を1口。

「うん、とてもおいしいです。いつも助かります、Eジョシュさん」

「はい。ところで、ナジリマさん。」

「なんでしょう?」

「家賃の話、どうしますか?」

「あぁ、それでしたら私、いい案を思いつきました」

「えっ、本当ですか?」

「えぇ、本当です。この探偵、ナジリマに任せてください」

 ナジリマさんは珍しく、自信ありげに言いました。




「それで、その案とはどんなものなのですか?」

 私も、自分のデスクに座って紅茶をすする。

「ふっふっふ、それはですね」

 ナジリマさんは、一体どんな名案を思い付いたのでしょうか。

 どこか抜けてる印象のあるナジリマさんは、10回に1回、とても冴えたことを言います。

 もしかしたら、とても素晴らしい案を思いついたのかもしれません。

「それは?」

「旅行に行きます!Eジョシュさん!」

 あぁ、ダメでした。

 どうやら今回のナジリマさんも抜けてる9回の方みたいです。

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