四
「ははは。今日はあたい達の勝ちだね~」
「ほらよ!」
呆が左手に気を込めると放つ。右手を失いながらも、呆は桂に加勢をしており、凛は苦戦していた。
「くうう」
南の呪術師は苦痛に顔をゆがめるとそれを弾き飛ばす。間髪いれず桂の小刀が凛を襲い、ぎりぎりで体をそらす。しかし小刀が背中の古傷をえぐる。
「………っつ」
凛の背中から血が染み出る。
「惜しかったね~。次は外さないよ!」
背中を押えて、うずくまる凛に桂が勝利の笑みを浮かべる。止めを刺そうと小刀をかまえた時、何かが上空を通った。
「?!」
見上げるとそれは自分たちで、桂と呆はぎょっと目を見開く。
「いいところで会ったね!」
自分の姿をしたものが微笑んでにそう言い、腕に抱えていたものを放り投げる。
「ひぃぃい!」
それは首のない死体で、桂は体を縮こませる。
「あとは頼むな」
「!?」
呆の元にも同じような首のない死体が投げつけられる。
「あんたたち、誰だ!なんで俺達の姿をしてるんだ?!」
戸惑う二人を残し、もう二人は空をかける。
「待ちあがれ!」
「待ちな!」
しかし二人を追いかけようとしたところに、兵士が現れる。
「死体をもって逃げると、なんて悪趣味な奴らだ!」
兵士が二人を囲んで詰問する。
「だいたいお前たちは牢屋にいるはずだ!」
「うるさい!何、言ってるんだよ」
兵士に向かって
「呪術司様!」
ふいに現れ自分たちを守ってくれた金髪の美しき宮の呪術師に、兵士たちは歓声を上げる。
「君たちにこの二人は荷が重い。私が代わりに捕まえましょう」
典は艶やかな笑みを浮かべる。
兵士たちは噂に違わぬ、その麗しさに息を呑んだ。
「ふん。やれるもんならやってみろ」
「なんだかよくわかんないけど、頭にくるよ」
そうして、まんまと罠にかかったと知らない呆達は典と戦うことになった。
*
「
「ああ、まだ寝ているはずだ」
術を解き、時間が動き出した。紙で作られた二人の体は切断された。そしてその瞬間を狙い、呆と桂に化けた二人はその遺体を奪い、処刑場から逃げ出した。首が飛んだのを帝を始め、将軍、所司達は見ていた。空と紺は死んだものを認識されたはずだった。
遺体を抱え逃げる途中、本物の呆と桂と運よく、処刑場の外で会い、兵士の注意をそちらに向けた。元の姿に戻った典は兵士を助けるふりをして、呆達と対峙し紙で作った死体を同時に片付けるつもりだった。
その間に、紺は凛を連れ、宮を脱出していた。
「これで空様は自由なんだな」
「ああ、もう宮に追われることない」
「よかった……」
凛はその言葉を聞くと安堵し、同時に疲れに襲われる。
「凛!」
目を閉じ、力を失った凛に紺が驚いて呼びかける。
「大丈夫…だ。すこし無理をしすぎた」
「……死んでもらったら困るぞ。お前は空様の命を握る者なのだ。わかったな」
「……わかった」
空を思う紺の言葉に凛は苦笑する。しかし、紺に認めてもらったようで少し嬉しかった。
紺は偉大な呪術師だ。宮の呪術司でも敵わぬほどの。それほどの男が空を傍で空を守り続けていた。
空は知らないだろうが、空は孤独ではない。
私も、紺も空に生きていてほしいと思っている。
宮で死を願っていたのを知っている。
しかし、宮にいた空はもう死んだ。
(これからは黒族とではなく、普通の青年として私と共に生きてほしい)
凛は紺に抱かれ、飛びながらそんな想いに駆られていた。
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