三
「
「
光が弾け、二人は目の前に立ちふさがる人物を見て声を上げる。
「間に合ってよかった」
凛はぎこちない笑みを二人に見せる。
(え?なんで凛さんが?確か、
「
「裏切りものが、何のために来たんだ?」
「裏切りもの?最初からお前たちみたいな輩と組んだつもりはない」
「ふうん。あんたも傷を負ってるんだろ?あたいを甘くみると痛い目見るよ」
切り落とされた腕を抱える呆の前に立ち、
(そうだ、凛さんも背中に傷が……)
「残念ながら、傷はほぼ完治している。覚悟するのだな」
南の呪術師は刀を抜くと、構える。
「警備隊長。その娘の怪我の手当てを急いだ方がいい。ここは私に任せろ」
「……すまん」
「強様?凛さん?!」
嫌だと抵抗する藍を抱え、強がくるりと凛に背を向ける。
「強様!離して下さい!」
しかし警備隊長は愛しい女性の願いを無視して、走り出す。
「あらら、美しい友情だねぇ」
藍達から興味が薄れたのか、桂は二人を追おうともせず、凛に対峙する。南の呪術師の傷が完全に癒えていないことはわかっていた。しかも、その傷だらけの様子から、誰かと戦闘をした上でこちらに来たようだった。
桂は今日こそは自分に勝機が回ってきたと満悦な笑みを浮かべる。
「さあ。始めようか。南の呪術師様」
闇の呪術師は舐めまかしい唇をちろりと赤い舌でなめると、懐から小刀を出し、構えた。
「強様、離してください!」
藍は強の腕の中でもがく。
しかし強の腕の力が弱まることはなかった。
(凛さんも怪我してるし、そんな……)
「お願いです!」
「駄目だ。君に死んでほしくない。頼む。おとなしくしてくれ。動くと出血する」
ぎゅっと抱きしめられ、かすれるような声で懇願され、藍は押し黙る。
「大丈夫。凛はやられはしない。典も術を成功させるだろう」
それは祈りのような言葉に聞こえた。
「だから藍殿。君は君のことだけを考えてくれ。頼む」
傷がじくじく痛み、正直眩暈がしていた。こんな状態あの場にいても役に立たないことはわかっていた。しかし、戦場から逃げるようなことはしたくなかった。
自分を抱いて走る強の顔は強張っていた。自分を本当に心配しているのがわかる。
「……わかりました」
藍は唇を噛みしめるとそう答える。
「ありがとう」
強は、にこりを微笑む。
(ありがとう……って、それは私の台詞なのに……なんで、強様が……)
「俺は君に生きていてほしい。だから……これは俺のわがままだ」
そう言った彼の顔がすこし赤らんでいるように見えた。
藍はその胸に顔をうずめる。彼の想いが伝わり、どう答えていいかわからなかった。
沈黙が流れ、二人は医部にたどりついた。
「医所!」
そう叫び強は藍を連れ、一階の医室に駆けこんだ。
*
刀が振り下ろされた。
しかし、それは典に届く前に止まる。
空気が張り詰めていた。
音が聞こえなかった。
宮の呪術師は前帝の弟の姿のまま、ゆっくりと立ち上がる。
「紺殿。力を貸してくれたんですね」
「気まぐれだ」
そこで動いているものは二人だけだった。
すべてのものが時を止めていた。
飛んでいた鳥はそのまま宙で動きをとめ、帝達がこちらに視線をむけたまま身じろぎもしない。
「こんなことが可能だとはな」
「あなたの力のおかげです。私一人では力不足でした。さあ、早く身代わりを作りましょう。この状態も半刻しか持ちません」
「さすがですね。じゃ、次は私の番ですね」
典は
すると紙は
「さあ、ここからが私の腕の見せ所です」
空の顔で自信たっぷり微笑む様子に紺が口をゆがめる。
典はそれに構わず、宙に両手を掲げて、空気を掴むように動作をした。すると紙から二人の姿に化けたものは動き出した。
「空様のそんな姿など見たくはないのだがな」
「仕方ありませんよ。こうしないと空様は一生、宮に追われます」
身代わりの二つの体は刀が振り下ろされるはずの場所に膝をつけ、頭を垂れる。
「さ、こんなものでしょうか。後は私達ですね」
「何に化けるつもりだ?」
「
「それはいい考えだな」
「え、あ。私が
「そうだ。俺は女などになる気はない」
紺は皮肉な笑みを浮かべる。
「はあ。しょうがないですね。それじゃ、あなたが
典は目を閉じると、手の平を紺に向ける。すると、紺の姿が毛むくじゃらな猿男の姿に変化した。
「さあ、術を解きましょう」
呆の姿になり、ぎこちない動きを見せる紺に笑いかけると、桂の姿の典は両手を合わせる。
その動きは本人と異なり上品なもので、毒香のない色香が漂う。
(中身が違うとこうも印象が違うのだな)
「紺(コン)殿?」
自分の動きに呼応しようとしない紺に典が呼びかける。
「ああ、術を解こう」
そんな馬鹿げたことを考えた自分を冷笑し、紺は目を閉じる。
パシンっと音がして、光が弾けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます