二
「僕は
「私は
私が空を会ったのは偶然だった。街で絡まれていた空を助けた。黒い瞳に黒髪、白い肌の黒族の本来の姿をさらしていれば絡まれるはずはないのだが、その時空はなぜか髪の色を変え、歩いていた。
黒族だとわかると面倒だからと言っていた。どこか面倒なのだろうかと思いながらも、その時見た、寂しげな瞳に囚われた。
「凛。君はずっと僕の側にいてくれるよね」
空は時折そう聞き、私を抱いた。
女である自分が嫌いだった。
しかし空の前では女でよかったと思った。
空の言葉は私を呪縛する。
それはまるで呪いのようだった。
「凛。好きだよ」
甘い言葉は私に呪いをかけた。
それは私を束縛する呪いだった。
しかし、
そしてあの時も、刀を草に向かって振り下ろそうとする空の前に立ちふさがった。
「どうして、凜……」
そう言って黒い瞳を曇らせた空の様子を覚えている。
すまない。空。
あなたに人殺しをさせるわけにはいかない。
ましてや草。
あなたと草は似ている。
草を見ているとあなたの小さいころを知らないのに、見ているような錯覚に陥った。
だからこそ、あなたに彼を殺させるわけにはいかなかった。
空……
すまない。
でも私はあなたを愛してる。
忘れないで。
あなたは一人ではない。
*
「
部屋に入るとじっと師匠の顔を見ている少年の姿があった。
草にとって凜はある意味母親のような存在になっているようだった。
(だからって、ご飯抜くのはよくない)
「食べたくない」
机に置いた卵粥を一瞥して草はぼそっとつぶやく。
「好き嫌いはよくないよ~。美味しいから。大丈夫だって」
「そういう意味じゃないんだ。凛様が苦しんでいる時に俺だけがご飯とか食べている場合じゃないから」
「草くん。それは間違ってる。凛さんが起きたときに元気な姿を見せるのが大事なんだから。しっかり食べて寝る。わかったわね?」
「……できない」
「できないじゃないの、するの。強情張るなら呪いかけて無理やり食べさせるから」
呪術司の一番弟子にそう言われ、草はごくりと息を呑む。
(藍の腕の良さは知っていた。そしてその実行力も。拒否すると本当にやりかねなかった)
「……いただきます」
「よっし。いい子」
匙を持って食べ始めた草の頭を藍がよい子よい子と撫でる。
「子供扱いするな!」
「だってまだ子供じゃない」
「そういう藍だって、まだ子供だろう?」
「し、失礼ね!私はもう二十歳なの。君より六つも年上なの!」
「ふーん。おばさんなんだ」
「お、おばさん!」
怒鳴りつけようかと思ったが、御粥をおいしそうに食べる草を見てやめる。一人っ子で、呪術部でも一番年下だった藍は自分より年下とかかわる機会が少なかった。そんなわけで藍は草を弟のように思えて仕方なかった。
*
「
氷の呪術師と呼ばれる女は、僕の腕の中で熱を帯びた目で見つめる。
濡れた唇が僕を誘い、僕は目を閉じると唇を重ねた。
「!?」
乾いた唇だと思い、目を開けると僕の腕の中の彼女は血に染まっていた。
体は微動すらしない。
黒い血は僕の体にべっとりとつく。
お前が殺した。
お前が殺したんだ!
僕の影がそう僕に囁く。
そう、僕が殺したんだ。
凜……
「空様……」
紺は食べることを拒否した主人の名を呼ぶ。
主をあの場から連れ帰ってから一日がたった。
空はじっと窓の外をみたまま、なにも話そうとしなかった。
食べることも飲むことも拒否し、ただそこに座っていた。
「お願いです。なにか口にしてください」
紺は痺れを切らせて、そう懇願する。
「悪いけど。食べたくないんだ。もう。君も好きなことをしたらいい。僕はただここで死を待つつもりだ」
「空様!」
紺は叫び声に近い声を上げる。しかし、空は動じることなく、窓の外を見ていた。
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