四
「やはり、
「宮の呪術司よ。これで勝機が訪れたな」
男は、息を乱し刀を杖代わりに立ち上がった典に視線を投げかける。
宮の美しき呪術師は金色の髪をかきあげると、刀を構える。男の言葉に偽りはなかった。自分一人では敵わない敵であることが戦ってみてわかった。
一人で戦いたいなどと思うような典ではなかった。凜そして草がいれば勝てる見込みがある。
典は凜に目配せする。
「草、油断をするな。あの男は私よりも上手だ。下手をすれば命を落とす」
南の呪術師は傷ついた宮の呪術師の視線を受け、弟子にそう釘をさす。紺の戦いで弟子を庇う余裕はなさそうだった。
草は師の言葉に頷くと息をのみ、刀を抜くと両手で握りしめた。
「さて、誰からだ?」
「私です」
典は息を整えると刀を捨てた。そして気を高め、男に向かって飛んだ。
「
しかし気を弾き飛ばされ、刀は賢の刀によって防がれる。
「これでどう?」
藍は空いた手で気を作ろうとするが、賢の手が先に動き、その手を封じる。
「!」
両手を使えない藍は足を上げ、その腹部に攻撃を加えると力が緩んだ隙に離れた。
(互角だわ。あんなにへらへらしてるのに、こんな強い人だとは思わなかった)
「!」
頭上に浮いた藍に間髪いれず、賢が気を放つ。
「このぉ!」
藍は刀で気を叩き切るとそのまま襲いかかった。
「帝!」
海―ー帝の無事な姿に一同はほっとする。
「空。
牢屋から出され、強に支えられながら
「さあ、生きていればいいけどね」
空は帝にちろっと舌を出すと笑った。
「あれは!」
上空に高く昇り、
警備兵に拘束されている
しかし、助けに入ろうとしたところで、
「慌ててるみたいですけど。何かあったのでしょうか」
金髪の呪術師は美しき微笑を浮かべ紺に問う。
「邪魔だ!」
紺は刀を握ると典に振り下ろした。
「
屋敷を出た帝は宙に浮く、草に声をかけた。
空(クウ)の楽しげな様子にいてもたってもいられず兵士が止めるのも聞かず駆けだした。
破壊された森が見え、上空で戦う呪術師達、地面に伏せる者達を見た。
「…帝…様」
草は緊張した面持ちながら、地面に降り立つと恐る恐る帝に近づく。
「これ!」
事情を知らない警備兵が草を止めようとしたが、
「草。すまない。
戸惑う草を帝は強く引き寄せると抱きしめた。
その緑色の瞳は愛しい女性と同じだった。
「お前には苦労をかけた。もう心配ない。これからはわしがお前を守る」
「……帝様」
草は涙声でそうつぶやく。
「草よ。父とは呼んでくれないか」
帝の言葉に兵士達に動揺が広がる。しかし警備隊長の無言の圧力で言葉を口にするものはなかった。
「と、父さん……」
「草。すまなかった」
帝はわが子を抱きしめるとそう謝罪した。
「…なにが…」
その場にいたものは皆油断していた。
空は両手を縄につながられまま、自分の前に立つ兵士の刀を奪った。そしてその刀を掴むと草に襲いかかる。強がその動きに気づき、空を止めようとする。しかし、間に合わなかった。帝が反射的に草を庇う。
「っつ!」
赤い血が飛び散った。
「……凜?」
「凜様!」
草の悲鳴が森の中に響く。
空は自分を切ったものが草でも帝でもなく、凜だとわかり、目を見開く。
「…空。すまない。でも私は…」
凜は切られた傷口を手で押さえ、空を見つめる。
「どうして、凜…」
「凜様!」
草は帝の手を振り払い、凜に駆け寄る。
空はからんと刀を落とし、血を流してその場にうずくまる凛と側に付き添う草を呆然と見つめる。
「空様!」
ふいにそう声がしたかと思うと、風が吹き荒れる。風は空を包むと上空に舞い上がった。
「空!」
帝は
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