五
翌朝、宮の大門が開かれ、鮮やかな着物を着た者たちが大きな扇を持って出てきた。何事と街の人たちは視線を向ける。
すると
女性はもちろん
帝が正妻以外に愛妾を取ることはまれではなかった。現帝では初めてになるが、愛妾にふさわしい様相にそれが芝居であることを気づくものはなかった。
神輿の側には麗しい宮の呪術司が微笑を浮かべて付き添っていた。そしてその反対側には男前の警備隊長が凛々しい面持ちで歩いている。
神輿の後には警備兵たちが続き、その後ろには楽隊が続く。行列の後ろにはこれまた造形の美しい
「おい、ぼうっとしてないで、来いよ。帝様が愛妾を取ることになったみたいだぜ。今お披露目をしてるぞ」
「本当か?!」
朝食にと立ち寄った料理屋でそんな会話が聞こえ、男達がどかどかと外に出ていく。
「愛妾?」
運ばれてきた麺に手をつけようとしていた
「草!」
その表情に嫌な予感を感じたが、
「ちょっと、お嬢さん。飯代!」
弟子を追って店を出ようとする凜の腕を、小汚い前掛けをつけた男が掴む。
氷の呪術師はぎろりと睨みつけるとその腕を振り払い、懐から金の小さな塊を出す。
「毎度~」
男のにやけた顔を侮蔑し、凜は足早に店を出た。
周りを見渡し、少年が屋根の上に登り、通り過ぎる行列を見下ろしているのがわかった。凜は目立たないように、裏通りに回り込み、屋根に登る。
屋根の上の草は師がすぐ側に上がってきたのも気付かず、神輿を凝視していた。
神輿には帝と愛妾の姿がある。愛妾は少年の母と同じ姿の藍だ。美しく着飾り眩しいほどだった。
「草!」
飛び出そうとする草の動きがわかり、凜がその口を塞ぎ、体を屋根に押し付け押さえる。
神輿の傍には呪術司と警備隊長の姿があった。罠であるのは確かだった。このまま飛び込むと確実に掴まる。
南の呪術師は腕の中で暴れる少年の首元に手刀を叩きこむ。そして周りを見渡し、誰もみていないことを確認すると気を失ったその体を肩に担ぎ、屋根伝えに行列から離れた。
目覚めた草が怒り狂うのはわかっていたが、みすみす罠にはまるつもりはなかった。
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