六
「
師匠にそう言われ、緊張しながらも草はうなずく。
雁山についた草と
そして二人は行動を始めた。
雁山の四方に結界用の文字が書かれた石を置く。屋敷の上空に飛んだ凛が気を高めると結界は完成する。それから二人は賢達に近づいた。
お茶会は進み、帝と空が楽しげに話をする様子が見えた。
凜は失敗したときのことも考え、身元がばれないように頭巾をかぶる。草も師にならい、紫色の頭巾をかぶった。
「!?」
ふいに賢の側の警備兵がなぎ倒される。
「甘くみないでほしいな!」
自分に放たれる気を賢が片手で払う。そして帝のいる茶室の中に飛んだ。
「何用だ?!」
帝が眉をひそめてそう尋ねる。
茶室には帝の姿しかなかった。いぶかしげに思いながらも賢は帝の前に立つ。
「下っていてください!」
賢は凛から繰り出される気を帝に当たらないように防ぐ。その隙に草が帝を狙って気を放つ。
「
そう賢が名を呼ぶと、金髪の巻き毛の色香のある呪術師が天井を突き破って降りてきて、帝の前に立つ。
草の気をはじくと、明は帝を連れて、屋敷の外に走り出す。
帝と明を追う草の姿が見え、賢が後を追おうとするが、それを凛がとめる。
「どこかで見たことある瞳だけど?」
頭巾から覗く青い瞳を見つめて、賢が皮肉気に笑う。
「話したくないんだね。僕の力を甘く見てもらっては困るんだよ。こう見えても東の呪術師なんだから!」
賢は腰から刀を抜くと凛に飛び掛る。氷の呪術師は脇差を二本抜くとその刀を防いだ。
賢とは十代のころ、宮の呪術部で数年共に学んだことがあった。その時典も同じように部に所属していた。凜は二年ほどで呪術部を出たので賢と
「何だって?帝が不在?」
「そうです。雁山にお茶会に出かけていますよ。賢様と明様もご一緒です」
宮に戻り、帝に報告をしようと思い宮部を訪ねると帝の秘書的な役割をこなす
(タイミングがよすぎだ)
典が不在の今、結界外の宮を出る。どう考えても罠のように思えた。
「強(キョウ)、悪いけどまた飛ぶよ。
「はい!」
「ああ」
宮に戻ってきたばかりだというのに呪術司は弟子と警備隊長を連れ、再び空を駆けた。
*
典に美しいだけの呪術師と言われようとも、その力は呪術を習い始めて数カ月の草の力を圧倒する。
帝を後方に守りながら、明は草に攻撃を加える。
「くそおお!!」
少年の叫びが森に響き、その体が木に衝突する。
「子供?」
明は自分を戦っていたのが子供であることがわかり、攻撃を止める。
「?!」
紫の頭巾をかぶった少年草に近づこうすると、黒い影がよぎる。
明は間一髪でその攻撃を避けた。
草は自分の前に現れた黒装束の男を見上げる。
その背格好から
「何者?!」
明は刀を抜くと男に切りかかった
紺が後方にいる草に目配せする。
「しまった!」
明は自分の行動を後悔した。男に刀を弾き飛ばされ、気を打ちこまれる。自分の体が宙を舞っているのがわかった。そして少年の魔の手が帝に迫っているのが見えた。
「喰らえ!」
草は刀を握ると帝に振り下ろす。帝は脇差を抜くとその刀を受け止めた。
「お前は何者だ?なぜ私を狙う?」
帝は頭巾の隙間から見える緑色の瞳に懐かしさを覚えながらそう問う。
「教えてやるよ!」
草は帝を押しやり、後方に飛ぶ。そして頭巾を取った。帝に自分の恨みをぶつけたかった。母の悲しさを教えてやりたかった。
「俺は草。麗とあんたの息子さ。覚えているか?俺を身ごもった母さんを捨てやがって、許さない!絶対に殺してやる!」
草は両手に気を溜めると、帝に放った。
「結界だ」
雁山の上空に辿りついた典は忌々しそうにそうつぶやいた。
「四方の結界ですね。かなり強力そうです」
「藍、とても嫌な予感がする。四方に結界用の石があるはずだ。それを破壊する。強、悪いけど山の麓で待っていて」
呪術司の指示がそうあり、藍は強を麓に降ろすと石を探し始める。
強は苛々してその場で待つのが耐えられず、麓を詮索し始めた。
「ひとつ」
「ふたつ」
「みっつ」
「よっつ」
呪術司と弟子により、全ての結界の石が破壊される。
硝子が砕ける様な音がして、結界が消滅した。
典、藍、強は一気に雁山に突入する。
雁山の頂上付近の屋敷に辿り着いた典は凜と賢が息を切らして戦う様子に対面する。
凜は結界が破壊された時点で、誰がここに辿り着くのは予想していた。そしてその予想が当たり典の姿を確認すると、賢の気を叩きこみ、上空に飛ぶ。
「待て!」
典が頭巾をかぶった女を追う。
「草くん!止めなさい!」
気を失った帝に止めを刺そうとする少年の姿を発見し、藍は叫び声を上げる。
(帝は多分、まだ麗さんを愛している。私を見る瞳は切なかった)
「殺したらだめ!」
藍は少し手加減をした気を作り、草に放つ。
「!?」
その気により草の体は吹き飛ばされる。その体はゆっくりと宙を舞い、草むらの中に倒れこんだ。
「帝様、大丈夫ですか?」
「麗…?違うな。藍か」
帝は目を開け、藍の姿を見ると皮肉気な笑みを浮かべた。
藍は胸がきゅっと痛くなる思いがしたが、目を閉じて草に向き直る。
「あれ?!」
しかし、草むらに倒れているはずの草の姿はそこにはなかった。
「?!」
凜を追い、宙を駆ける典に下から強力は気が放たれた。慌てて両手に気を溜め、それを防ぐ。手のひらがちりちりと痛み、気がぶつかりあうのがわかった。視界が白い靄に隠される。
靄が去り、周りを見渡す。
しかし、そこにはもう、凜の姿がなかった。
「明殿!」
麓から駆け登って
きた強は地面に伏せている女性の姿を見つけた。抱き起こすとそれが見知った宮の呪術師であることがわかる。色香が漂うなめまかしい明を強は苦手としていた。
「どうしたのだ?」
緊急事態に苦手とも言っていられないと強は明をじっと見つめてそう問う。
「強様…。帝が、帝を…」
明はそう言うと気を失う。
強は色香漂う呪術師を静かに地面に寝かせると、先を急いだ。
「藍…帝!」
典は眼下に帝と弟子の姿を見て安堵した。そしてゆっくりと着地し、帝の傷を確認する。
「典……。麗はわしの子供を身ごもっていたのだな。草か、あの少年、確かにそう名乗っていた」
着物を破り傷口に布を当てていた典はその言葉に顔色を変えると弟子を見る。そしてその表情を見て、帝が草に襲われたことを悟った。
「草か…。恨んでいるようだな。このわしを」
帝のつぶやきに誰も答えることはできなかった。
戦いが終わり、静寂が戻った山に鳥が戻ってきていた。穏やかな光が差し込む山の中に賑やかな鳥のさえずりだけが響いていた。
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