免罪符
結城彼方
免罪符
永峯トウカは、連日ストーカー被害に悩まされていた。ストーカーは毎日のように自宅の最寄り駅の入り口で待ち伏せており、いつも自宅前まで一定の距離を保ってついて来た。降りる駅を変えたりもしたが、しばらくするとその駅にストーカーは現れるようになっている。そんな恐ろしい毎日が続いていた。
ある日の夜だった。その日もストーカーに家の前まで付き纏われた。そんな日が続いてるおかげでトウカは寝不足の日々を送っていた。いくら実害が無いとはいえ、その恐怖はトウカの精神を蝕んでいった。そうは言っても仕事を辞める事は出来ない。警察に相談しても、実害が無ければ力になってくれない。いつの間にかトウカはお酒の力を借りて眠るようになっていた。
その夜、トウカは夢を見た。いつものように仕事から帰る途中、最寄り駅からストーカーが後を付けてきた。でも今回はいつもと様子が違った。後を付けてくるストーカーの足踏みはいつもより力強く、そして徐々にトウカとの距離を詰めてきた。どんどん近づいてくる足音に驚き、トウカは駆け足で逃げ出した。
「だれか助けて!!!」
そう、叫ぼうとしても、何故か声が出なかった。振り返るとストーカーも走って追いかけてくる。このままでは捕まってしまう。そう思ったトウカは、近くのコンビニに逃げ込んだ。
「助けて下さい。ストーカーに追われているんです。」
店員に縋るように助けを求めた。だが、振り返った店員の姿はストーカーに変わっていた。トウカは後ずさりし、それに合わせてストーカーがジワジワと近づいてくる。すると、トウカの背中に冷たい空気が触れた。ドリンクコーナーの冷気だった。それに気づいたトウカは冷蔵庫を開き、缶ジュースをストーカーめがけて必死で投げ続けた。その内の一個がストーカーの頭に当たり、ストーカーはその場に倒れ込んだ。トウカは、うめき声をあげてうずくまるストーカーの前に、酒瓶を持って立っていた。そして、ストーカーの頭をめがけて酒瓶を振り下ろし叫んだ。
「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」
何度も、何度も、何度も、酒瓶をストーカーの頭に叩きつけた。気が付くと、ストーカーの顔は原型を留めていなかった。それを見て驚き、そして目が覚めた。
(なんで夢だ・・・・)
とんでもない悪夢にうなされて目覚めたトウカの下着は、汗でびしょ濡れだった。気持ちを切り替えようとシャワーを浴び、出勤の準備をしながらニュースを見ていた。するとそこには驚くべき映像が映っていた。なんと、あのストーカーが何者かにコンビニで撲殺され、犯人は未だに捕まっていないというのだ。当然、トウカは驚いた。自分が夢の中で行った事が、現実に反映されていたのだから。
ある日、トウカはいつものように仕事へ向かったが、その日の仕事は散々だった。上司に理不尽な八つ当たりを受け、他人の仕事を押し付けられたからだ。
(あのクソ上司、死ねば良いのに。)
そんな事を考えている内に、最寄り駅に到着した。当たりを見回しても、もうストーカーの姿は無かった。最近はお酒も飲まなくなり、よく眠れるようになっていた。帰宅して、食事をし、シャワーを浴びて、床についた。そしてボソッっと呟いた。
「今夜は
そう言って、部屋の明かりを消した。
免罪符 結城彼方 @yukikanata001
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