第17話 念動六刀流・小野小町

 日之出ひのでの国。

 かの場所がそう呼ばれるようになったのは、グリム大陸において最初に朝日を浴びる土地だからです。

 他国の人々はそこから太陽が昇るさまを見ます。ゆえに日之出の国なのです。

 日之出の国を治める帝には玉藻前たまものまえという大変美しく、また賢いお妃様がいました。

 帝は玉藻前を深く信頼しており、彼女を自分の補佐として重用するようになりました。

 ですが、帝は次第に玉藻前へ依存するようになり、彼女なしでな何も考えを出せなくなってしまったのです。

 玉藻前に実権を握られた日之出の国は荒れていきました。

 

「玉藻前を打ち取り、帝を正気に戻す!」


 国を憂いた武士たちはついに立ち上がり、帝と玉藻前がいる皇居へ向かったのです。

 武士たちの中には天下無双と謳われる剣豪がいました。

 

「我が刀は天誅の刃としれ!」


 皇居は玉藻前の息がかかった兵士たちが守っていました。彼らはみな優秀でしたが、剣豪はまるで赤子を相手にするかのように次々と切り捨てていきます。

 そしてついに皇居の最奥である、帝の寝所へとたどり着きます。玉藻前討伐はもはや目前。ですが、そこに一人の女侍が立ちはだかりました。

 

「何奴! 名を名乗れ!」


 剣豪の一人が鋭く詰問します。

 

「うちは小野小町。よろしなぁ」


 小野小町と名乗った女侍は、侍と呼ぶにはあまりに異様でした。彼女は6本もの刀を持っていたのです。

 

「馬鹿め、人の腕は二本のみ! そんなに刀を持ったところで扱いきれまい!」

「クスクス。ほんまの馬鹿はどっちでっしゃろか」


 その時、小野小町の刀がカタカタと揺れだしたと思うと、ひとりでに鞘から抜き放たれます。

 六本の刀はどうやら魔法の類で操られているようで、小野小町を守るかのように宙に浮いていました。

 

「ほら、この通り、うちの流派は念動六刀流。念動の魔法で全ての刀を扱えますえ」

「それがどうした! 魔法に頼ること自体、剣の腕に自信がない証拠!」


 剣豪は小野小町に斬りかかろうとします。


「救いようのあらへん人どすなぁ」


 剣豪の一人の言葉に、小野小町は可愛そうな人を見るような顔をします。

 

「死なはったらよろしおす」


 その瞬間、その剣豪は動きを止めます。武士たちはなぜ彼が敵を前にして動きを止めてしまったのか困惑した様子でした。


「はい、おしまいどす」


 彼女がパンと手を叩くと、それをきっかけに剣豪の体がバラバラに崩れ落ちたのです。

 

「うちの太刀筋見えへんのに天下無双の剣豪やなんて、冗談がお上手どすなぁ」


 小野小町がコロコロと鈴のように笑うと、武士たちはそろって悲鳴を上げました。

 

「あ、あいつは武闘姫プリンセスだ!」

「今更気づいても、もう遅いどすえ」


 小野小町の六本の刀が武士たちに襲いかかります。

 程なくして小野小町の前に屍の山が築かれました。武士たちは切り刻まれ、手足が誰のものであるのかわからなくなるほどです。

 この恐ろしい行いを、小野小町は一歩も動くことなくやり遂げてしまったのです。

 

「賊は片付いたかしら」


 帝の寝所から玉藻前が現れます。

 

「はい、玉藻前様。この通り」


 小野小町は屍の山を誇らしげに見せます。

 

「偉いわ。あなたは一番頼りになる子ね」


 玉藻前は小野小町を抱きしめ、頭を優しくなでてあげます。まるで姉が妹を褒めてあげるようでした。

 

「まだまだ私に逆らうものは多い。今日のようなことは何度もあるでしょう。でも、あなたさえいれば何も心配する必要はないわ」

「ああ、玉藻前様。もったいなきお言葉。うちを拾うてくれた恩を返すためなら、命すら惜しゅうあらしまへん」


 小野小町の心はすべて玉藻前にありました。

 それからも、玉藻前を倒そうとする者は何度も現れますが、その全員が小野小町によって殺されてしまいます。

 

 やがて逆らうものは一人もいなくなり、日之出の国は玉藻前のものとなってしまいました。

 国一つを手中に治めた玉藻前ですが、しかし彼女の野望は尽きることがありません。

 次の狙いは不思議の国でした。

 

「私のために武闘会で優勝し、不思議の国の女王になってくれるかしら?」

「もちろんどす。あの国を玉藻前様に捧げます」


 こうして小野小町は不思議の国を玉藻前に献上すべく、武闘会に参加したのでした。

 


 シンデレラと対戦することと引き換えに、かぐや姫は王子から日之出の国からやってきた武闘姫プリンセスの情報、すなわち小野小町の現在地を教えてもらえるようになりました。

 彼女の居場所は使い魔のハピネスを通じて定期的に教えてもらっていますが、かぐや姫は即座に倒しに行きませんでした。

 

 武闘会に優勝して不思議の国を侵略しようとするなら、小野小町は間違いなく日之出の国において最強の武闘姫プリンセス! 必勝を期すために少しでも情報を集めたいと考えたのです。

 かぐや姫は竹取流門下の忍者である鋼治と鳩美に小野小町の監視を命じました。

 

「小野小町は魔法の類で六本もの刀を操ります。その剣速は凄まじく、生半可な武闘姫プリンセスでは太刀筋を見切るのは不可能でしょう」

武闘礼装ドレスの特性はシンプルな身体強化型ですが、彼女の戦いぶりには余裕を感じられました。おそらく何か切り札を隠しているかと思われます」


 鋼治と鳩美の報告を聞き、かぐや姫は相手の強さをあらためて認識しました。おそらく小野小町は以前倒した望月千代女を超えるでしょう。

 

「武闘会の期間もあと僅か。情報収集はここで切り上げ、私はこれから小野小町に戦いを挑みます」

「では、例の件が終わったのですね」

「ええ、そうよ鳩美。私が用意した切り札。これをもって彼女を倒す」

「ご武運を祈っております」

「どうか命だけはお大事にしてください。竹取流はあなたがいてこそです」


 かぐや姫は鋼治と鳩美の言葉に温かいものを感じました。

 竹取流忍法の家元となってから、かぐや姫に対して部下という立場で接する二人ですが、しかしその心には兄と姉としての気持ちがこもっていることが分かります。

 

 二人のためにも決して負けられないと決意したかぐや姫が選んだ戦場は、魔物によって滅びた村の跡地でした。

 その村は魔物の巣となってしまい、復興がままらない状況にありました。ですがこの日は、不思議な事に魔物の姿が一匹も見当たらいないのです。

 勘の鋭い読者ならすでにその理由がおわかりでしょう。


 そう! かぐや姫がいるからです!

 忍者であり武闘姫プリンセス! そのような存在がいれば、魔物たちは恐れをなして逃げ出すのも道理です!

 駆け出しの戦士ですら倒せる弱い魔物にいたってはその場で発狂死し、骸を晒しているほどでした。

 

 本来ならば忍者は自分の超人的な存在感を隠すものです。しかしかぐや姫はあえてそれを隠さず、むき出しの闘志を発していました。

 これから戦う小野小町は超一流の侍! 失敗の危険を抱えながら小細工を弄するよりは、真っ向勝負のほうがより勝ち目が高いと判断したのです。

 かぐや姫が廃村の中心部で待っていると、やがて小野小町が現れました。

 

「おんやぁ、ハピネスが近くに武闘姫プリンセスがおる言うさかい向かってみれば、これまた大物がいてはったね」


 小野小町は薄い笑みを浮かべながらいいます。


「あなたにこの国は渡さない」

「何言うてるんどすか。あんたも日之出の国の人やったら、うちに手ぇ貸すのが筋ちゃいますか?」

「私が生まれ育ったのはこの国よ。あなたの国じゃない」


 無数のかぐや姫の分身が小野小町を一瞬で取り囲みます。

 

「あらら。忍者に取り囲まれたてしもうたら、恐ろしおして恐ろしおして一歩も動けまへん」


 言葉とは裏腹に小野小町は余裕の表情でした。どうやら彼女はこの無数の分身が、実体のない幻であるとすでに見抜いているようです。

 

「「これより試合を始めるよ」」

 

 かぐや姫と小野小町についているハピネスがそれぞれ空に飛び上がり、試合開始を告げます。


 

 まずは様子見としてかぐや姫は幻の分身に紛れながら手裏剣を投げます。

 すると小野小町が持つ刀がひとりでに動き出して、かぐや姫が放った手裏剣を防御しました。

 

 小野小町は手裏剣が飛来してきた方向を見ます。そこには無人となった家屋がありました。

 六本の刀の内、1本が動きました。それは小野小町が見ている家屋、おそらく本物のかぐや姫が隠れているであろう場所を横一文字に薙ぎ払いました。

 家屋は盛大な音を立てながらあっという間に崩れ落ちました。

 

「ふーん」


 手応えはなく、小野小町はすでにかぐや姫が別の場所に移動していると分かりました。

 直後、小野小町の背後から十数枚もの手裏剣が襲いかかります!

 しかし、中に浮く刀たちがそれを全て叩き落とします!

 

「これではうちは倒せまへんよ」

 

 幻影分身に紛れながらの手裏剣攻撃は通用しないと判断し、かぐや姫は分身を解除して小野小町の前に現れます。

 かぐや姫はチョップを構えます。


「そうこな。いっぺん忍者とは死合をしたかったんどす。望月千代女はんは玉藻前様に仕える身内同士やさかい、本気で戦えまへんどした」

「小野小町、覚悟!」


 刀をしかも六本も持つ相手に徒手空拳で挑むのはあまりに無謀に思えるでしょう。

 しかし! かぐや姫は忍者なのです! 忍者である彼女の肉体は魔力を通すことで鋼よりも強靭になるのです!

 鋼すら切り裂きうるかぐや姫のチョップが小野小町に打ち込まれます!

 小野小町の刀がそれを受け止めると、金属がぶつかりあった硬い音が鳴り響きます。

 

「むっ!?」


 かぐや姫は小野小町の刀を叩き折るつもりでチョップを打ち込みました。しかし実際にはヒビ一つはいっていません。

 

「この六本の刀は玉藻前様から賜うた名刀どす。そこらのなまくらとはちゃいますで……それに!」


 別の刀が小野小町の背後に回ったかと思うと、何らかの攻撃を受け止めた音が返ってきました。

 

「ほら、思たとおりどすなぁ」


 小野小町を後ろから攻撃してきたのは、もうひとりのかぐや姫……いえ! 実体を持った分身のほうです!

 

「水面の月どしたっけ? 幻じゃなくて実体のある分身を生み出せるなんてすごい忍法ですね。それで千代女はん出し抜いのは知ってますで」


 おそらくはかぐや姫が望月千代女と戦ったときのことが、何らかの形で日之出の国に伝わったのでしょう。

 あの場に望月千代女以外の気配をかぐや姫は感じ取っていませんでしたが、とくに意外と思いませんでした。なぜなら魔法を使えば遠くの場所の出来事を見られるからです。

 そのため、かぐや姫は竹取流忍法の奥義とも言える、水面の月はすでに知られている前提でこの戦いに挑んでいます。


 そして、奥義を知らてもなお勝つために用意したのが例の”切り札”なのです。

 小野小町はかぐや姫と実体分身の二人を相手に、刀を巧みに操って対応しています。

 その時、全くの別方向から手裏剣が放たれたではありませんか!

 

「なんどす!?」


 常に余裕を保っていた小野小町が一瞬だけうろたえます。

 

「ハピネス! 誰かが私達の戦いに乱入とります! 違反行為ちゃうんどすか?!」


 かぐや姫と実体分身、そして謎の人物による手裏剣攻撃をしのぎながらも、小野小町は上空にいる自分のハピネスを問いただします。

 水面の月で出せる実体分身は一つのみ。本人と分身が目の前にいる以上、謎の手裏剣攻撃はかぐや姫の仲間が行っていると小野小町は考えました。

 

「かぐや姫は一切規則に違反していないよ」


 それを聞いた小野小町は厄介だと思いました。味方を利用した単純な違反行為なら、隠れているその者を始末すればよいのです。しかし、これが正道であるというのなら、かぐや姫は小野小町にとって未知の技を使っているということになります。

 

「こら戦い方を変えたほうが良さそうどすなぁ」


 小野小町は空中を舞う自分の刀の一本を掴み、それを両手でしっかりと構えます。

 空気が変わった。相対するかぐや姫はそれを機敏に察知します。


「まずはあんたからどす!」


 小野小町は二人のかぐや姫の片方に斬りかかりました。そして、もう一方のかぐや姫と手裏剣攻撃は残り五本の刀で対応します。

 いま目の前にいるのはかぐや姫本人か実体分身かは分かりませんが、小野小町は相手の数を減らすのに専念するようです。


 刀を直接扱う小野小町の太刀筋は、先程まで念動の魔法で操っていたのとは全くの別物でした。

 より早く! さらに鋭い!

 忍者にして武闘姫プリンセスであるかぐや姫を持っても、一瞬の気の緩みが死に繋がることは必定!

 

 この時、かぐや姫は紙一重で回避し、即座に反撃に移ろうとしました。しかし、背筋が凍るような不気味な殺気を感じ取ると、必要以上に間合いをとって避けたのです。

 それは半ば本能的な行動であり、同時に間違いではありませんでした。

 小野小町が刀を奮った瞬間、複数の斬撃が発生したのです!

 

「……さすがかぐや姫。この技を避けたのはあんたが初めてどすえ」

「切断の魔法の応用ね」

「ご明察。一振りで六度斬る。これが念動六刀流の技、六華閃どす。まぐれで避けられたようどすが、次はどうでっしゃろか」

「確かに今のはまぐれよ。でも、一度見た技に遅れは取らない」


 かぐや姫が言った瞬間、小野小町の顔から笑みが消えました。

 これまでの余裕を捨てていました。かぐや姫は次に繰り出される攻撃は全力であると察知します。

 

「キエェェ!!」


 凄まじい気合と共に繰り出された六華閃は先程よりも更に鋭さを増していました。

 しかし! かぐや姫とて忍者です!

 魔力を宿したチョップで、刀と魔法による六連撃を全て弾いたのです!

 

「……!?」


 小野小町の両目が驚愕に見開かれます。

 その瞬間をかぐや姫は見逃しませんでした!

 かぐや姫がチョップを繰り出すのと、小野小町が回避するのはほぼ同時でした。

 直後、小野小町の胸元に小さな切り傷が生じ、真っ赤な血が流れます。チョップがかすめていたのです。

 

 小野小町の顔が青ざめているのは、出血しているだけではないでしょう。得意技を防がれた挙げ句、反撃まで受けてしまった事実は、彼女の自信を大きく揺さぶっていました。

 この時、小野小町の心にあったのは玉藻前と出会った日のことでした

 当時の彼女は親を失って路頭に迷い、もし玉藻前に拾われていなかったらそのまま野良犬のように死んでいたことでしょう。

 

 負けたくない。これまで一度も苦戦したことがなかった小野小町に初めて生まれた感情でした。負けて玉藻前の失望されるのをとても恐れました。

 小野小町はもう一人のかぐや姫と手裏剣の対応させていた五本の刀を自分の元へ呼び戻します。

 

「玉藻前様、どうかうちに力を……」


 祈るようにつぶやいた小野小町は六本全てに切断の魔法の力を込めます。一本のみならともかく、本来の彼女の魔力総量では到底足りません。なので自らの命を魔力に変えて補ったのです。

 対するかぐや姫は小野小町がなにかとてつもない攻撃を放ってくると察知して身構えます。

 

「六度斬る六華閃を六つ。合わせて三十六華閃!」


 小野小町がかぐや姫と実体分身に向かって斬りかかり、他の刀もそれに追随します。

 襲いかかる三十六の斬撃!

 忍者といえども全てを凌ぐのは不可能! かぐや姫と実体分身は刃の嵐に飲み込まれます!

 

 やった! 小野小町はそう思いました。望月千代女すら叶わなかった竹取流忍法の家元を討ち取ったことを玉藻前はきっと褒めてくれる。命を削ったかいがあったと。

 ですがその瞬間、かぐや姫と実体分身は両方とも霧が晴れるように消滅しました。

 

「え……」


 かぐや姫は実体分身を一つしか作れないはずです。なら、片方は倒れれば死体が残るはずです。にもかかわらず、本体すら実体分身と同じように消えたのです。それが意味するところは……

 

 小野小町がその可能性に気づいた瞬間、背後に気配が現れました。

 彼女は振り向きざまに刀をふるおうとしますが、三十六華閃のために命を削ったせいで、その動きは明らかに鈍っています。

 

 正真正銘、本物のかぐや姫の拳が小野小町のみぞおちに突き刺さります。

 空高く打ち上げられる小野小町!

 即座に小野小町に追いついたかぐや姫は、そこから空中回し蹴りを叩き込みます。

 二度も、しかも忍者の全力攻撃を受けた彼女は受け身を取れぬまま地面に叩きつけられます。

 

「なんで……水面の月生み出す実体分身は……一人だけのはずどす」

「理由は単純よ。私はお前を倒すために修行を重ねて、水面の月が生み出す実体分身を二体までに増やした」


 小野小町が今まで戦ってきた二人のかぐや姫はどちらも分身に過ぎなかったのです。

 本物のかぐや姫は廃村の建物に隠れながら手裏剣攻撃で分身たちを援護していました。

 これこそがかぐや姫が鋼治と鳩美に言っていた”切り札”の正体!

 

 二体の分身を戦わせ、本体はすきを伺う。奇しくもシンデレラと戦っときと似たような戦法でした。

 そしてシンデレラとの戦いこそが、かぐや姫に自分の力不足を痛感させ、水面の月を強化する修行に至ったのです。

 

 もとより女王になるのではなく他国の侵略者を倒すために武闘会に参加したのです。関係ない武闘姫プリンセスと戦う必要などなく、シンデレラとの戦いの後、かぐや姫はずっと修行していました。

 小野小町の居場所を知りながら、武闘会の終了間際まで戦わなかったのも修行をしていたのが理由です。


「ははは……なんどすかそれ……うちは間抜けやったてこっとすか。玉藻前様にあわせる顔があらしまへん」


 小野小町は立ち上がります。

 

「よしなさい。先ほどの大技の反動でまともに動けないはずよ。あなたに武闘会の参加を命じた黒幕のことを教えるなら、命は助ける」

「お断りどす。負けた挙げ句、情報を漏らしたら玉藻前様に失望される。せやったら……死んだほうがましどす!」


 小野小町は念動の魔法で刀を操り、自分の体に突き刺しました。

 どさりと倒れ、亡骸となった小野小町。その時、彼女の体から輝く何かが現れました。それはものすごい速さで空の彼方へと消えていきます。

 

「家元、無事でしたか」

「先程の光はいったい?」


 戦いが終わったのを知った鋼治と鳩美がやってきました。

 

「おそらくあれは、小野小町の魂よ。何者かが、彼女の体から抜き取ったようね」



 密かに不思議の国に潜入していた玉藻前は、飛来してきた小野小町の魂を受け止めました。

 

「よく頑張ったわね。ご褒美に、あなたの魂を私が取り込んであげる」

『うちが玉藻前様の一部に? ああ、嬉しい』


 玉藻前が魂を食らうと、小野小町の意識は歓喜と共に消滅しました。

 そして小野小町が培ってきた戦いの経験や魔力といったものが玉藻前の力として取り込まれます。

 

「期待以上に育ってくれたわね。さて、クレオパトラと楊貴妃の方はどうかしらね? 勝っていれば良し。負けても……フフフ……私の糧になるから損はない」


 玉藻前は邪悪なキツネのようにおぞましい笑みを浮かべました。

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