第752話 燕雀相賀

「ひな! りこ! はると! りゅーせー!」

「おお、よく言えたね」

「えへへへへ♡」

 累は、大河に頭を撫でられ笑顔を見せる。

 弟妹ていまいの誕生に、長子ちょうしは満足気だ。

「いつあえる?」

「主治医次第だから分からないね。早く会いたい?」

「もちろん」

 大河に膝に飛び乗り、累は甘えに甘える。

 大河の子供たちは、保守的な他家と比べると自由主義、放任主義的である為か、子供たちが親を怖がったり、萎縮いしゅくした日々を送ってない。

 その為、子供たちは21世紀で言う所の「親ラブ族」に当たるだろう。

 親ラブ族とはその名との居り、親のことが好きな子供たちを指す用語だ(*1)。

 昭和の時は親子の間で距離があったが、平成に入ると、それは縮まっている傾向にある。

 ―——

 例『中学生・高校生の生活と意識調査』 調査機関:NHK放送文化研究所

 Q.「悩みを相談する相手と想定される人物」

 A.「母親」

          中学生 高校生

 昭和57(1982)年 20%  11%

 昭和62(1987)年 22%  10%

 平成4 (1992)年 20%  11%

 平成14(2002)年 25%  17%

 平成24(2012)年 38%  25%

 ―——(*2)

 山城真田家はその傾向が強いようだ。

 心愛もいで膝に乗る。

「ちち」

「うん?」

「からあげ、たべたい」

「ちょいまち」

 心愛の頭を撫でつつ、大河は侍女を見た。

「伊万、夕食は?」

「本日の夕食は、焼き魚定食です」

「だって?」

「からあげ……」

 好きな物ではなかったのに、心愛はショックを受けた。

「また今度な?」

「たべたい……」

「昼にいっぱい食べたろ? 流石に2食続けては―――」

「(若殿)」

 与祢が耳打ち。

「(残念ながら心愛様は、朝食にも唐揚げを2個食べました)」

「(おいおい? 朝も昼も食べたのか?)」

「(昼のは、昼食担当の侍女が朝食の件を知らずに心愛様のおねだりを受けて、ご提供した模様です)」

「(連携不足だな。今後は無いようにな?)」

「(はい。分かっています)」

 朝顔、ヨハンナ、ラナは専属の栄養士が居る為、それぞれの体格や体質に合わせた1日分の摂取カロリーの範囲内でしか食べることができない。

「なぁに?」

 与祢とひそひそ話をしていると、心愛が不機嫌になる。

 大好きな父親が、侍女と親密なのは面白くないらしい。

「なんでもないよ?」

「ちちのうそつき」

 強い言葉で非難すると、心愛は大河に抱き着く。

 累も加わり、大河は愛娘2人から厳しい視線を受ける。

「心愛、父上は、無類の女好きだから」

「ちち、うわきしょー」

「どこでそんな言葉、覚えたんだよ?」

 苦笑いしつつ、大河は2人の頭を力強く撫でる。

 保守的な父親なら、そんな言葉を飛ばした子供をたこ殴りされるだろう。

 しかし、大河は体罰反対派だ。

 説教はあっても、直接暴力を行うことはない。

 軍人なので、力次第では簡単に人を殴殺おうさつ出来るのだ。

 その為、体罰を行えば、イヴァン4世(1530~1584)が息子のイヴァン(1554~1581)を殴殺した時のような、悲劇的なことになるだろう。

めごさまのえほんに書いてあったよ?」

「ちちにのおとこのひとに、しゅじんこーがいってた」

「……分かった」

 表現の自由を尊重し、あまり検閲けんえつはしていないかったのだが、愛姫めごひめの作品には、色々と問題があるようだ。

 2人を抱き締めつつ、大河は指示した。

「鶫、念の為、今後は検閲頼むな?」

「は」

 大河の渋面に鶫は、苦笑いで応じるのであった。


[参考文献・出典]

*1:ウィキペディア

*2:『親子共依存』 尾木直樹 ポプラ社 2015年

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