第753話 天上天下唯我独尊

 誾千代、早川殿、アプト、橋姫の出産を祝い、橋姫を除くそれぞれの出身地では祝賀ムードに包まれていた。

 誾千代が生まれた筑後国山本郡(現・福岡県久留米市田主丸町竹野)の問本といもと城周辺では、久留米の名物である、

豚骨拉麺とんこつラーメン(*1)

・餃子(*1)

・焼き鳥(*1)

うなぎ(*1)

筑後饂飩ちくごうどん(*1)

・日本酒(*1)

・洋酒(*1)

 などが無料で振舞われる。

「遂にお姫様に子供が生まれたかぁ」

「それも男児だと。山城真田家の正式な跡継ぎだろうな」

「いやいや。その前に立花姓を名乗るのが筋では?」

 民衆はそれぞれの料理を食べ、酒を飲み、出産を祝う。

 長らく子供に恵まれなかったことは、地元でも周知の事実だ。

 それが遂に生まれたのだ。

 我がことのように喜ぶ民衆も多いのは、当然の話だろう。

 早川殿の地元である相模国(現・神奈川県)の小田原城でも、記念の銅像が造られていた。

 早川殿が赤ちゃんを抱えるそれは、妊娠時から計画されていたもので、出産を機にお披露目となったのだ。

「ありがたやぁ。ありがたやぁ」

「ご利益がありますように」

 参拝するのは、婦人たち。

 早川殿はこれまで、4男1女を儲けている(*2)のだが、今回で6人目を産んだことになる。

 そういう訳で、不妊や出産を望む婦人には、多産の女神に見えているのかもしれない。

 実際、効果があるのかは分からないのだが、「お披露目された後、不妊に悩み、拝みに来た婦人が銅像を撫でた後、陣痛が始まり、その場で出産した」という噂もあり、一気に安産祈願の聖地と化したのは事実である。

 後にこの話を聞いた大河は「偽薬プラシーボ効果じゃね?」と元も子もないことを言ったのだが、兎にも角にも、妊娠や出産したい女性には、心の励みになっている為、問題は無いだろう。

 アプトの地元、蝦夷地でも祝賀ムードだ。

 福山(現・北海道松前町松城)の松前城では、日本人代官とアイヌ人の指導者が宴会していた。

 双方とも武装はしていない。

「アプト様が男児をご出産とは……生まれたばかりの子供には悪いが、彼には将来的に蝦夷地の平和に尽力していただきたいですね?」

「そうですね」

 松江氏とアイヌ人の戦争は、相当悲惨なものであったが、大河が調停に乗り出し、双方に武装解除させた為、現在、蝦夷地は平和だ。

 長年に渡る戦争を一瞬にして平和に導いたのは、大河が放った暗殺部隊が双方の過激派を殲滅せんめつし、荒業であるが、火種を消したのが理由である。

 その際、過激派の死体をさらしたことにより、松前氏、アイヌ人共に恐怖し、武装解除した。

 人権的には話し合いで解決した方が1番良いのだが、話し合っても分からない勢力は存在する為、大河はユーゴスラビアの指導者、チトー(1892~1980)が過激派を弾圧し、同国を平和に導いた事例を模範にした。

 その結果が、上述の荒業である。

 チトーの時は、その類まれなるバランス感覚とカリスマ性で、彼が存命中、国内が混乱することは無かった。

 しかし、その死後、ユーゴスラビアでは、民族主義が台頭し、国家は消滅してしまう。

 弾圧というのは人権的には問題があるだろうが、実際問題、チトーが居る間、ユーゴスラビアは安定していた為、その手段は正解と言える。

 また、死後、均衡が崩れ、国家が消滅するほどの自体にもなったことから、猶更なおさらチトーの統治方法は、評価すべきである。

 そんな中、京都新城では、異常事態が起きていた。

「……貴女あなた、喋れるの?」

「せやねん」

 橋姫から貰った羽衣はごろもまとうのは、彼女の長子・璃子りこ

 お昼寝中に突如、覚醒し、7歩進んだ後、右手で天を、左手で地をそれぞれ示し、「天上天下唯我独尊てんじょうてんがゆいがどくそん」と言ってのけたのだ。

 釈迦しゃかは誕生直後だった分、璃子の場合は時間がかかったが、それでも天才なのは変わらないだろう。

「「「……」」」

 京都弁で流暢に喋る璃子に、誾千代たちも唖然だ。

「おかん、おとんはどこや?」

「おとん?」

「あんさんのだんなや。挨拶しに行こうかと」

「……多分、私室かと」

「あんがと」

 首もわっていないのだが、璃子は手を合わせると、文字通り消失。

(……あれ、若しかしてあやかしの遺伝、強い感じ?)

 この時、橋姫は自分が天狗と鬼の混血であることを思い出すのであった。


[参考文献・出典]

*1:久留米公式観光サイト

*2:『系図纂要』《けいずさんよう》

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