第713話 寡廉鮮恥
気象庁から本格的に梅雨入りが発表された万和6(1581)年6月6日。
山城真田家は、沈んでいた。
「……痛い」
「
「気持ち悪い……」
多くの妻妾や婚約者、女官の殆どが体調不良を訴える。
城内の医務室は、まるで野戦病院の如く、寝台がそこかしこに敷き詰められていた。
「……気象病か?」
「はい……」
大河の問いに答えた鶫も辛そうだ。
「病休休暇使って休み」
「ですが、若殿のお世話が―――」
「良いから休め。命令だ」
「……は」
ブラック企業だと体調不良でも精神論で出社させるが、大河は逆に休ませている。
体調不良では100%の能力が発揮出来ず事故に繋がりかねない―――という考え方なのだ。
鶫のような忠臣はそれでも尽くしたいのだが、残念ながら大河は意外とそういう所は厳しい。
鶫に接吻して送り出す。
「お世話は
「……はい♡」
接吻されたことで少し気が晴れたのか、鶫は笑顔で敬礼し、去っていく。
「さてと」
大河は、代替要員を呼ぶ。
「小太郎」
「は」
天井板が引っ繰り返り、小太郎が飛び降りる。
空中で綺麗に体操競技の如く、回転技を決めた後、大河の前に着地した。
「主、どうですか?」
「落第」
「え?」
ガーン、と小太郎は目に見えてショックを受ける。
「な、なぜです?」
「技はいいよ。だけど、メイド服じゃないのが失点だな」
「う」
自らの忍び装束を小太郎は、改めて見た。
大河の好みに合わせて露出度の高い衣装を着たのだが、残念ながら今の大河はそんな気分ではないようだ。
「メイド服で下着が見えるのが、
「……分かりました。次からはそうしま———わ!?」
シュンと
「ま、それでも好きだけどね」
「……主♡」
大河に頭を撫でられ、小太郎は
開発された彼女は、もう大河から離れられないほど、彼に全てを支配されていた。
(……ばーか)
「ぐへ」
気象病で苦しむ楠はその様子にイラっとして、大河にクナイを投げ込み、見事│
天守の大河の部屋には、ほぼ24時間365日、女性の誰かしらが居るのだが、
しかし、全員が全員発症する訳ではない為、女性が居ないことはない。
「元気だな。みんなは?」
「母は強し? だからかな?」
気象病の症状が全く出ず、ぴんぴんしている橋姫はケタケタと笑う。
後2か月なので、お腹はすっかり大きくなっている。
誾千代、早川殿、アプトも同様だ。
彼女たちも一切、その症状がない。
それだけではなく、お市や謙信、綾御前、小少将、直虎、茶々もだ。
サンプルが少ない為なんとも言えないが、少なくとも山城真田家の妊婦と経産婦は気象病に耐性があるのかもしれない。
大河は、膝の上のお市の肩甲骨辺りの背中に顔を埋める。
本当は誾千代、アプト、早川殿、橋姫を膝の乗せて愛し合いたいのだが、流石に妊婦なので、抱擁した拍子に流産の可能性もなくはない。
その辺の所を相当気を使っている愛妻家なのである。
お市に抱っこされていた心愛は、大河の頭を撫でる。
「ち、ち?」
「うん? ……あー、大丈夫だよ。元気だから」
「そう?」
「うん。ありがとうね」
「えへへへ♡」
頭を撫で返され、心愛は微笑む。
それから、心愛は大河の手を握り、お市のお腹に添える。
「何?」
「ちちうえとははうえ。ふ~ふ」
「うん」
「だから♡」
大河とお市は顔を見回す。
恐らく「仲良くね?」と言いたいのだろう。
言葉足らずで分かりにくいが、可愛いので何の問題もない。
心愛の可愛さに、誾千代たちもメロメロだ。
それぞれ、誾千代、橋姫、早川殿、アプトの反応である。
「心愛は可愛いね~♡」
「こんな子供が欲しいね♡」
「元気ですね。心愛様♡」
「心愛様、お菓子をどうぞ♡」
沢山の義母に囲まれ、心愛は有頂天だ。
それでも実母から離れないのは、その分別が分かっているのだろう。
心愛に4人が集まっている間、謙信、綾御前、小少将、直虎、茶々は大河にべったりだ。
「ほら、貴方。姉様のお腹、触って」
「綾も妊娠しますように」
「もう……♡」
綾御前は照れつつも、お腹を差し出す。
小少将、直虎もこれ見よがしに真似る。
「2人の子供もみたいな」
「はい♡」
「いつでも準備万端です♡」
千手観音のように大河は、3人のお腹を触りまくる。
それを見ていた茶々は、
「真田様」
乾いた笑顔で大河の背中に抱き着く。
「お
「嫉妬?」
「はい」
「交流だから」
「言い訳するくらいなら、私にもお願いしま―――むぐ!?」
大河に接吻され、茶々は二の次が言えなくなった。
数秒後、離れた後、大河は頬ずり。
「可愛い茶々には、もう10人くらい産んでもらおうかな」
「……ええっと、ちょっと用事が―――」
「だ~め♡」
甘えた声で大河は制すると、茶々を抱き寄せ、何度も接吻する。
お市(実母)や心愛(異父妹)が居る前で、だ。
綾御前たちは一斉に目をそらす。
この男を挑発すると、茶々のような末路が待っているからだ。
「……くきゅ」
変な声を上げて、失神するのであった。
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