第707話 五風十雨
6月に近づくにつれ、雨の日は多くなる。
「
縁側で姫路殿が、ボソッと呟いた。
『虎が雨』―――旧暦5月28日(現・6月下旬~7月中旬)の雨をそう呼ぶ(*1)。
その由来は、建久4(1193)年のこの日、鎌倉武士・
翌日、祐成は祐経の子・
この時、祐成の愛人・虎御前(1175? ~)の涙が雨となって降った(*1)。
この後、この時期に降る雨に『虎が雨』(『曽我の雨』とも)の名前がついた(*1)。
「虎が雨 涙で拭いし 袖の下」
「……良いな」
「ありがとうございます」
姫路殿を大河が抱き寄せた時、雨が強くなっていく。
「歌の意味は、やっぱり前夫?」
「いえ。戦で亡くなった方々を思い、
「……」
戦国時代、現代で言う所のソマリアのような事実上の無政府状態に陥った日ノ本が、
「祖父も曾祖父も極楽浄土で私達を見守っている筈です」
「……
姫路殿の祖父・
その為、その死の背景には、政敵・北畠氏の関与が疑われている(*3)。
確固たる証拠が無い為、あくまでも疑惑止まりだが、それでも父子が同じ日に亡くなるのは、きな臭さを感じざるを得ないだろう。
「恐らく安心している筈です」
「……そうだと良いが」
ゲリラ豪雨らしく、雨はどんどん酷くなっていく。
「そろそろ戻ろうか?」
「そうですね」
姫路殿が頷いた途端、背後でドタドタと激しい足音が。
振り返ると、豪姫と与免が追いかけっこをしていた。
「やぱあああああああああああああああああ♡」
「あははははははは♡」
鬼ごっこなのか、与免は俊敏な動きで豪姫の追走を
与免はやがて縁側まで来ると、大河と目が合う。
「あにうえ~♡」
そのまま突っ込む。
「おっと」
がっぷり
「にぃにぃ♡」
豪姫も後に続く。
膝の飛び乗ると、抱き着く。
「鬼ごっこしてた?」
「うん♡」
「にぃにぃもする?」
「じゃあ、しようか?」
「「ほんと?」」
意外と乗り気な大河に姉妹は、嬉しがる。
「でも、過度に走り回ったら駄目だよ? 人や壁にぶつかったり、こけたりするかもだからね?」
「「はーい♡」」
叱られるも優しい口調なので、2人にそれほどダメージは無い。
「鶫、
「は」
鶫に指示を出した後、大河は姉妹を両肩に乗せ、姫路殿と手を繋ぎ、屋内に避難するのであった。
京都は晴天でも観光客が多い。
それが雨天になっても、減ることは少ない。
何故なら雨に包まれた京都もまた、
「部屋干ししか出来ませんね?」
「そうだね。でも、外干しだと忘れちゃうちゃうから部屋干しの方が好き」
珠と楠は、仲良く洗濯物を干していく。
山城真田家では、夜間干しが禁じられている為、基本的に、昼間しか干すことができない。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
「お疲れ」
珠は平服し、楠は片手を上げて挨拶する。
大河は、楠に手を伸ばし、そのまま抱き締めた。
「もう何?」
「いや、可愛いなと」
もう片方の手では、珠の顎を撫でる。
「あは♡」
面倒臭い家事だが、大河に愛されるのは素直に嬉しい。
「それ終わったら休んで良いよ。残り時間は、
「「!」」
職務免除は、地方公務員法で定められている特殊な休暇だ。
―――
例
・休職、停職の場合(地方公務員法第27条 他)
・選挙権その他公民としての権利を行使する場合(労働基準法第7条)
・年次有給休暇(労働基準法第39条)
・産前産後休暇、育児休暇、生理休暇等(労働基準法第12条 他)
・校外研修、兼業、兼職(教育公務員特例法第17条・22条)
・育児休業、部分休業(育児休業法)
・災害救助従事及び協力(災害救助法)
―――
一般企業では
大河は2人に接吻後、姉妹と姫路殿を連れて天守に上がっていく。
「「……」」
楠、珠は見合わせハイタッチすると、士気を上げて洗濯物に挑むのであった。
[参考文献・出典]
*1:暮らしの~ HP 2021年7月20日
*2:坂井孝一『曽我物語の史的研究』吉川弘文館 2014年
*3:ウィキペディア
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