第701話 報仇雪恥

 宇津長成は所払いの刑を受け、京を出ていく。

「……」

 行先は、網走あばしりだ。

 大河によって大和民族とアイヌ人は、友好的な関係が構築され、蝦夷えぞ(現・北海道)には日ノ本の施設が多く建設されている。

 その内の一つが、網走刑務所だ。

 大和民族だけでなく、アイヌ人の犯罪者も収容され、斬首刑等の死刑も執行されている。

 脱獄を企ても都市圏から離れており、野山のやまにはひぐまも居り、逃走途中に食い殺される可能性もある危険な場所である。

 もっとも死刑囚は全員、両目をり貫かれ、膝の皿は割られ、アキレス腱は斬られている為、脱獄すら企てる元気すら無いのだが。

「……」

 沢山の薬を打ち込まれ、人間としての感情を失った長成は、鉄格子てつごうしが施された警察車両に乗っていた。

 同席している死刑囚も、

・強盗殺人

・婦女暴行

・放火

・不敬罪

 等の大罪を犯した者達だ。

「「「……」」」

 全員やはり長成同様、薬の実験台にさせられ、正気を失っている。

 ある者は、虚空を見つめてはブツブツと呟き。

 ある者は、失禁しながらゲラゲラと大笑い。

 長成の様に静かにしている者の方が少数派だ。

 警察車両が、伊賀国(現・三重県西部)の山中に入る。

 暫く進んだ後、急停止。

 そして、運転手と助手席の刑務官が下りて来た。

 2人は、後部座席の死刑囚を一瞥いちべつする。

 それから、山中を見ては……

 直後、木々の影から伊賀忍者達が現れる。

 皆、年若く、最年少では15歳。

 最年長でも22歳と言った所だろうか。

 忍者集団は、

手甲鉤てっこうかぎ(*1)

・吹き矢(*1)

双刃鎌そうじんがま(*1)

鎖鎌くさりがま(*1)

忍者刀にんじゃとう(*1)

 等で死刑囚に攻撃を始めた。

 長成も忍者刀で胸を突かれる。

「ぐふ」

 悲鳴は出ない。

 薬の影響で、痛覚が麻痺しているからだ。

 他の死刑囚も同じで、皆、無抵抗で殺されていく。

 その間、運転手と刑務官は煙草を吸って談笑していた。

「相変わらず、凄いですね」

「近衛大将の発案だからな」

 網走に行かせず近江で殺害するのは、大河が時々、死刑囚に行う方法だ。

 忍者達は、遺族からお金を貰い、処刑の代行を行う。

 通常、死刑執行は刑務官の仕事なのだが、刑務官とて人間だ。

 仕事とはいえども、殺人に抵抗がある者も多い。

 日ノ本では、殺人に慣れている武士が刑務官に転身し行っているのだが、遺族の中には、「自分の手で下したい」という者も居る。

 復讐は言わずもがな、現代日本の刑法では禁じられているのだが、日ノ本では遺族の悲しみが少しでも癒えるように、『目には目を歯には歯を』を条件付きで認めている。

 だが、直接手を下すのは、流石に法治国家としては不味い為、殺人に慣れている代行業者に頼むのだ。

 その内の一つが、忍者である。

 戦国時代には仕事が豊富にあった彼らだが、安土桃山時代に入ると仕事は激減。

 武士に多数の浪人が出た様に、彼らもまたその多くが浪人化した。

 特に伊賀忍者は、天正伊賀の乱(1578~1579、1581年)で激しく織田信長と争ったように、反織田感情が強い。

 戦で伊賀国を荒廃させられた上に、仕事も無くなった彼らが犯罪者に落ちるのは時間の問題であった。

 そこで大河は伊賀忍者達を「指定管理者」とし、死刑執行の一部を認める代行業者として活動することを認めた。

 その結果、伊賀忍者達は無職になる事は無くなり、遺族からの依頼を受け、死刑囚を殺害する。

 指定管理者なので、表向きには死刑執行として世間に報道される。

 其々それぞれ

 伊賀忍者  →仕事で生活可能

 刑務官、遺族→精神的負担減少

 政府    →死刑囚の生活費節約

 と、長所しかない為、国民からの評判も良い。

 全てが終わった後、忍者集団は2人に一礼し、山林の中に帰っていく。

 2人もまた車に再び乗車し、きびすを返す。

 死体は、虫や熊等が食いつくす為、骨しか残らない。

 その骨も時間が経てば土にかえっていく。

 国家による完全犯罪の成立であった。


 長成の死亡報告書を受け取った大河は、

「……」

 松姫、甲斐姫に前後を挟まれた状態で、ごみ箱に放る。

「若殿?」

「済んだことだ。興味無いよ」

 そういうと、鶫の手を握る。

「若殿♡」

「お疲れ様」

 労いつつ、大河は鶫に接吻する。

 そして、松姫と甲斐姫と共に暑い夜を過ごすのであった。

 

[参考文献・出典]

*1:忍者オフィシャルサイト HP

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