第693話 行住坐臥

「ちちうえ、食べさせて~♡」

めごさま~。そこは私の席~!」

 大河の膝を与免と愛姫が奪い合っている。

 御蔭おかげで大河は、一向に朝食を食べれない。

 余談だが、お江、豪姫はその背後を綺麗に分け合っている為、参戦することはない。

 何だかんだで2人は、現実的なようだ。

(子供だけど、愛と与免は母娘なんだよなぁ)

 他人事ひとごとのように思いつつ、大河は2人が殴り合わないように、2人をぎゅっと抱き締める。

「ちちうえ~♡」

「あにうえ~♡」

 愛姫は養女。

 与免は婚約者。

 前者が11歳で後者が4歳だ。

 僅か7歳差の母娘など現代日本では、極めて珍しい例だろう。

「ん。ん」

 争いに累も参戦する。

 累は4歳。

 婚約者と実子が同い年なのも中々見れないだろう。

「喧嘩両成敗。喧嘩しちゃ駄目だよ?」

「ごめんなさい」

「あにうえ、ごめん」

 笑顔で怒ると2人は罵り合いを止める。

 女性(女子)に甘々な場合が多い大河だが、程度が過ぎると当然怒る。

 体罰禁止法がある為、流石に拳骨げんこつなどはしないが、それでも一応は”一騎当千”だ。

 その威圧感は、ラ〇ウを彷彿ほうふつさせるほど半端ない。

 3人は、膝の上で仲良く朝食を摂り始めた。

「累、味噌汁熱いよ?」

「ふーして♡」

「愛様、わたしにも~♡」

 先程まで大喧嘩していた癖に、一瞬にして仲直り。

 子供だからこそ出来る芸当だろう。

「兄者、平和に出来たね?」

「にぃにぃ、凄い♡」

 背中の2人が誉めそやす。

「言うても親だからね」

「ね? 兄者は『』だけじゃないでしょ?」

「にぃにぃのこと、そんけーするよ!」

 お江が胸を張って説明し、豪姫は興奮する。

 言葉から察するに2人は、大河を女に甘い男鼻毛と見ていたようだ。

 否定出来ない部分はあれど、流石に黙認は出来ない。

「お江、豪?」

「うん?」

「なあに? にぃにぃ?」

「今日はおやつ抜きだからね?」

「「なんでぇ~!?」」

 2人は頭に隕石が直撃した時並の衝撃を受ける。

 それから2人は泣きじゃくり、それがデイビッドなどにも伝播でんぱし、城内は朝から子供の泣き声の大合唱になるのであった。


 昨日は外に出まくった為、今日は城内で過ごす大河である。

 誾千代のお腹を擦りつつ、アプトの腰を抱き、早川殿と橋姫を膝に乗せている。

 背後には朝顔、ヨハンナ、ラナが寄りかかっている。

「体調は?」

「大丈夫。昨日は陛下、元聖下と殿下と一緒に蔵王温泉に行ってきたから」

「そうなんだ」

 蔵王温泉は、現在の山形市を代表とする温泉街だ。

「ゆっくり出来た?」

「勿論」

 朝顔は笑顔で言う。

「どう? 白い?」

「流石、『姫の湯』だな」

 蔵王温泉には強い酸性の硫黄泉があり、その効能の一つに、「肌を白くする」というものがある(*1)。

 その為、女性人気の高い場所だ。

 入浴した朝顔たちの肌は、1日経っても尚、艶々つやつやしている。

 効果は個人差があるのが、一般的なのだが、少なくとも山城真田家の女性陣の体質には合うのだろう。

 ラナが、お菓子の入った包みを渡す。

「蔵王温泉も良かったけど、はい」

稲花餅いがもち?」

「知ってたんだ?」

「蔵王温泉の名物だからね。後は、みやこでも食べれるし」

 蔵王温泉名物の稲花餅であるが、姿形すがたかたちに多少の差異あれど、山形県以外にも存在している。

 ―――

・石川県

 五色生菓子ごしきなまがしのいがら同様、餅米は黄色のみで五穀豊穣を願う。

・愛知県(「伊賀饅頭」)

 雛祭りの菓子として作られる。

 米粉で作った餅で餡を包み、赤・黄・緑の3色に着色された餅米を色別に乗せて蒸す(*2)。

・島根県

 主に雛祭ひなまつりの菓子として食べられる。

・愛媛県(「りんまん」と表記)

 旧雛祭(4月)頃に食べられている。

・滋賀県(湖東地域中心。「花餅」)

 家庭のおやつとする他、慶弔時に配ったり、お盆の時期に川に流すことも。

・三重県(「松阪餅」「けいらん」など)

 庄野宿や松阪市では江戸時代以前から作られている。

・京都府

 嘉祥かじょう菓子を原型とする。

・福井県

 祭日のみ作られる。

・広島県呉市

 主に10月に行われる亀山神社の大祭や、11月の小際の時期に作られる(*3)。

 しんこ餅で粒餡を包み、桃又は黄緑に着色した餅米を乗せて蒸す(*4)。

①麦、粟で作った団子を起源説(*5)

②明治時代に松山から来た人物が、『りんまん』の名称を改めて販売説(*3)

 と、県内でも出自に諸説がある。

 ―――(*6)

「何だ? 知ってたんだ?」

 ヨハンナは、唇を尖らせた。

 サプライズだったようだが、失敗した為である。

「京には、各地の国人会こくじんかい(現・県人会)ってのがあってね。お歳暮などで贈ってくれるんだよ」

「なるほど」

 早川殿が微笑む。

「春?」

「いや、ちゃんと把握しているんだな、って」

 事務仕事は、基本的に珠などが担当している為、全てを大河が把握しているとは限らない。

 それでも、贈り物は返礼などのことがある為、きちんと報告されているのだろう。

「言うても城主だからね」

 早川殿の頬に接吻し、アプトのお腹を撫で回す。

「元気に育ってくれよ」

「若殿……」

 恥ずかしそうにアプトは、目を逸らす。

 それでも嫌がることなく、大河の手を受け入れるのであった。


[参考文献・出典]

*1:じゃらん

*2: 農山漁村の郷土料理百選 一般財団法人 農村開発企画委員会

*3:『呉地方の方言辞典』

*4:観光navi

*5:『聞き書き広島の食事 日本の食生活全集34』農山漁村文化協会 1987年

   編・編集委員会「日本の食生活全集広島」

*6:ウィキペディア

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