第689話 嫉視反目

 万和6(1581)年5月5日。

 与免が回復後、大河は出羽国(現・山形県、秋田県)に行くことを決めた。

 松姫が問う。

「真田様、全員で行くんですよね?」

「そうだよ」

 既に朝顔たちは、出羽国に到着し、観光兼公務で忙しい。

 早馬の話では「歓迎会が行く先々で行われ、最上氏の氏族があちらこちらで開くものだから一所ひとところに1刻も留まらない」とのことだ。

「最上殿が張り切りすぎて、必要以上に料理を用意して朝顔たちがその対応に追われているんだって」

「それはそれは……」

 最上義光が、奮発ふんぱつするのは、分からないではない。

 なにせ愛娘の里帰りと、上皇が私的プライベートとはいえ御幸ごこうだ。

 一族総出で歓待に励んでいるのだろう。

 2人は布団の中で語り合う。

 与免が倒れて以降、面会謝絶だった為、その時間を取り戻すかのように愛し合っているのだ。

「兄者、与免と添い寝したんだよね?」

「そうだよ」

 久々に会ったお江は、不満げだ。

「私にも添い寝してよね? それで御相子おあいこ♡」

「了解」

 大河が腕を広げると、お江はそれを枕にする。

「兄者、ずっと介護してたの?」

「そうだよ」

「じゃあ、私が風邪になってもしてくれる?」

「良いよ」

「やった♡」

 お江はガッツポーズし、大河に抱き着く。

 松姫とお江を左右に侍った状態で、

「ふわぁ~」

 大河は、大あくび。

「兄者?」

「ごめん。ちょっと寝不足だから」

「え~。母上、初姉様、阿国様ももうすぐ来るよ?」

「眠いんだよ。ごめんね」

 詫びて大河は、2人を抱き枕のように抱擁すると、就寝するのであった。


 翌朝。

 大河は、違和感を覚えて起床する。

「……ん?」

 胸部が重たい。

 視線を落とすと、胸部には前田家三姉妹が眠っていた。

(……来たのか)

 昨晩、3人は快復した報告を両親・前田利家、芳春院の夫妻に伝えに行ってそのままその部屋で宿泊した筈なのだが。

 未明に帰って来たようだ。

 もしくは、両親の指示で帰って来たのか。

 どちらにせよ、3人がここに居るのは事実である。

「……」

 部屋を見渡すと、

・お市

・心愛

・茶々

・お初

・猿夜叉丸

・早川殿

・ナチュラ

・橋姫

・立花誾千代

・阿国

・鶫

・風魔小太郎

・幸姫

・甲斐姫

・アプト

・井伊直虎

・珠

・楠

・姫路殿

・与祢

・綾午前

・小少将

・稲姫

 と、居残り組全員集合だ。

 3人の重量を感じつつ、大河は再び目を閉じる。

 出発は、昼頃。

 そこまで二度寝だ。


 昼頃。

 京都駅の屋上に在る空港から、エアバス機が飛び立つ。

 京都空港から山形空港までは、約1時間。

 夕方に離陸しても、間に合うほどの近さだ。

 機内でも与免はべったり。

「さなださま♡ 『あにうえ』って呼んでいい?」

「良いよ」

「あにうえ~♡」

 大河に抱き着く。

 まるで小さいお江だ。

「そこ、私の位置なんだけど?」

 お江は膝を奪われ、超不機嫌だ。

「お江、怒るな。未来の妹だぞ?」

「そうだけど……」

 嫉妬心を隠せないお江は、大河の隣に座ると離れない。

「甘えん坊ねぇ」

 心愛を抱っこしつつ、お市は微笑む。

「もう夫婦なんだから、もう少し自重出来ない?」

「母上。私はこれでも我慢している方だよ?」

「そう?」

 山城真田家の女性陣は最初、嫉妬心を剥き出しにしているが、出産すれば愛情の大部分が子供に変わる為、お江が穏やかになる方法は出産が最善策だろう。

「じゃあ、早くに産むしかないわね? ねぇ、心愛?」

「うん♡」

 心愛はお市の体をベタベタ。

 大河譲りのセクハラ癖だ。

 今回の旅は、4人の妊婦―――誾千代、早川殿、アプト、橋姫も同行している。

 あまり外出出来ていない分、久しぶりの遠出だ。

 4人は、大河の向かい席に座っていた。

「「「「……」」」」

 全員、笑顔で大河を見つめている。

 妊娠している為、以前のような嫉妬心は身を潜め、穏やかな気持ちなのであった。

「ぎんさま~。おごうねえさまがいじめる~」

「お江。正妻なんだからもう少し自信を持ちなさい」

「誾様?」

「ほら」

「え?」

 振り返ると、大河はお江の手を握る。

「兄者?」

「一度もお江を忘れた事は無いよ」

 そして力を込める。

「! 兄者?」

「愛してるよ」

 頬に接吻すると、大河はその腰に手を回し、抱き寄せる。

「兄者……♡」

 現在は安定状態に入った為、安全帯シートベルトは外して自由に動ける時間帯だ。

 大河の肩膝に座り、抱き着く。

「兄者♪ 兄者♪ 兄者♪」

 押し退けるようにして領土テリトリーの半分を奪われた与免は、不満げだ。

「あにうえ……」

 ジト目を向けるも、やはり離れない。

「にぃにぃ。ひかるげんじだね」

「そうだね」

 豪姫とお初は、苦笑しながら妹と夫のイチャイチャを見守るのであった。


 

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