第678話 大衾長枕

「前田の娘たちは元気だね?」

「ああ、いい子たちだよ」

 昼時。

 食堂で大河は、朝顔と昼飯を摂っていた。

 2人とも、

・肉饂飩(300円)

・サラダ(100円)

・お握り(100円)

 と同じセットだ。

 500円で3品食べることが出来、朝顔も満足気だ。

 ちゅるちゅると吸いつつ、朝顔はサラダも頬張る。

 その間、向かい側の大河は御握りを食べつつ、膝の上に与祢、伊万のコンビを乗せ、左右に姫路殿と松姫を侍らせていた。

「高等部は楽しい?」

「ええ。皆優しいからね。もう親友沢山出来たよ」

「そりゃあ良かった」

 高等部は、

・遠足

・見学

 以外に修学旅行もある為、学生生活の中で最も華々しい期間と言えるだろう。

 大河は、饂飩の緬に悪戦苦闘する伊万の為にフーフーする。

「はい」

「あ、ありがとうございます。若殿♡」

「まだ熱いと思うから気を付け」

「はい♡」

「若殿、私にもして下さい♡」

「仕方ないなぁ」

 与祢にも同様に行う。

 主人と女官、という関係性だが、父娘のような光景だ。

 与祢と伊万は、校内でも大河の婚約者として有名である。

 その為、取り入ようと沢山の名家が取り巻きを送り込んでいるが、2人が認める素振りは無い。

 姫路殿、松姫は静かにリスのようにお握りを頬張っている。

 大河は松姫に寄りかかり、その手を握った。

「愛王丸が教え子だろ? ついていけてるかな?」

御聡明ごそうめいな方ですので、御卒業出来るかと」

「分かった。ありがとう」

 松姫は大学生だが、仏教の講師としても教壇に立っている。

 その為、愛王丸など、僧侶を志す者が受ける授業では、教鞭きょうべんを振るっているのだ。

 握り返し、松姫は甘える。

「ただ、どうしても在家の方々には精進料理が不評ですね」

「まぁな。舌が世俗せぞくに慣れているからな」

 出家しないまま、仏教に帰依する人々は、肉食に慣れている分、精進料理はそのがあまり受け入れられていない。

 こればかりは、しかないだろう。

 大河も精進料理は、何度か食べた事があるが、「好き」という訳ではない。

 松姫と話していると、

よ」

 途端、周囲は氷点下並の寒さに。

「松を優遇し過ぎではないか?」

「ああ、ごめん」

 謝った後、大河は、膝の2人を降ろし、朝顔の隣に座る。

 姫路殿、松姫もそれに続いた。

 朝顔は、頬を膨らませ呟く。

「(もう少し私も見てよ)」

「(ごめん)」

 膝に乗った朝顔を背後から抱き締める。

 野次馬の女子生徒が黄色い歓声を上げるが、2人はもう周りが見えていない。

「饂飩、切って♡」

「了解」

 人目を気にせず、朝顔は甘えに甘える。

 普段は伊万などの年少者に譲るも、今回は流石に我慢の限界だ。

 機嫌が直った所で、大河は尋ねた。

「気が早いが、修学旅行は何処か行きたい所ある?」

「1番人気は?」

「琉球と蝦夷だな」

 他の選択肢としては、保護領となったアラスカやオーストラリア大陸が在るが、流石に移動時間が長く、また保護者の心配も半端ない為、あまり現実的ではない。

 なので、夏は綺麗な海で泳げる琉球と、避暑地である蝦夷地が好まれやすい。

「真田はどっち派?」

「蝦夷だね。暑い時期に態々わざわざ暑い場所に行くのはちょっとね」

「暑いのは苦手?」

「そうだな。折角なら涼みたい」

「では、我が故郷の出羽国(現・秋田県、山形県)は如何ですか?」

 笑顔で伊万が提案する。

「陛下と若殿、お二人を可能な限り当家で、おもてなしさせていただきますよ?」

「伊万、山形城の夏はどのくらい?」

「は。大体20度くらいです」

「涼しいな」

 義父・最上義光、義母・釈妙英と直接、伊万のことを話したい為、出羽国に行くのも良い案だ。

 ただ……

「修学旅行を始め、学校行事は生徒に任せているから俺の一存では決められないがな」

「はい。存じ上げています」

 大河は国立校の最高責任者でありながら、基本的に人事や行事などには、一切干渉していない。

 所謂、『金は出すが、口は出さない』方針だ。

 この結果、教職員と生徒は責任感が増し、自主性を重んじた教育や行事が実施されている。

 悪く言えば放任主義、と言えるだろうが、束縛され不自由な生活よりかはマシだろう。

「出羽の話は、今夏か黄金週間にしようかな?」

「はい♡」

 実家に2人を招待出来るのは、名誉なことだ。

「出羽か。寒鱈汁どんがらじる食べたいな♡」

「是非、御用意させていただきます♡」

 の提案に朝顔は、微笑むのであった。

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