第660話 衣香襟影
万和6(1581)年3月10日。
甲斐姫たちが無事卒業したことで山城真田家は、一段落だ。
そして、半月程度の春休みに突入する。
「ねぇねぇ。兄者。何処か行こうよ~」
「何処って?」
姫路殿に膝に頭を預け、耳かきをしてもらいつつ、大河は尋ねた。
「温泉とかぁ。食べ物屋さんとか」
「遊園地は?」
「人多いし、もうそんなに幼くないよ」
昔は遊園地をよく所望していたが、今は、そのブームはお江の中には無いようだ。
花より団子、もしくは温泉なのだろう。
初めて会った時、お江は12歳であった。
しかし、今では、立派な高校生。
大河の感覚は、
「良いけど、皆は?」
「茶々姉さまは、母上と買物。初姉さまは、豪と与免と散歩に行ったよ」
「花が見頃だからな」
京都新城の近くにある散歩道は、都内屈指の花見で有名なスポットの為、よく人が来る。
現在咲いているのは、以下の通り。
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・梅
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・菜の花
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・桃
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この他、
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・芝桜
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・栗
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・百合
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・金の成る木
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なども時期によっては、見頃を迎える為、花の愛好家には聖地のような場所だろう。
「お江は行かなかった?」
「うん。花より団子だから」
「……そうか」
お江らしさに大河は、苦笑いだ。
お江と手を繋ぐ。
「陛下は誘わないの?」
「朝顔は、ヨハンナ、ラナ、ナチュラと一緒に進学の準備で居ないよ」
「買い物?」
「ああ。制服とか教科書、鞄など買う物が沢山あるし、女子会もしたいんだと」
「なるほど」
春休みは、短い。
あっという間だ。
家族以外にも逢いたい友達は、大勢居るだろう。
「! じゃあ、兄者、今、自由?」
「そうだよ」
「なら、逢引~」
大河の腕を掴む。
しかし、
「お江様」
「ごめんあそばせ」
大河の両側を謙信、綾御前の義姉妹が挟む。
「今日は、私達が逢引なんですよ」
「ごめんなさいね?」
「え~。予約してたの?」
「「はい。今」」
謙信は申し訳なさそうに。
綾御前は、笑顔で。
それぞれ、大河に寄りかかる。
「ずるい! 私も!」
犬歯を剥き出しにしたお江は、パルクールのように壁を蹴って大河の肩に着地する。
「へっへ~。真田山登頂成功なり~」
それから、頭にしがみ付いた。
「前、見えないけど?」
「兄者が逢引してくれないと、このままだよ?」
「……分かったよ。2人も良いか?」
「良いよ」
「良いわよ」
2人は、最初から大河を独占する気はなかったようで、直ぐに優先権を譲った。
これだけの大所帯だと、荷物や警備上の観点から女官も必要になる。
(1人につき1人、付けたら良いかな?)
頑張れば、全員、大河が面倒を看ることも出来なくはないが、いつまでも女官を暇にさせておく訳にもいかない。
「……伊万、与祢、鶫、可い~?」
「「「は!」」」
呼ばれることを想定していた忠臣3人は元気良く返事し、
「え?」
名指しされた甲斐姫は、キョトンとしている。
「私もですか?」
「うん。逢引したいから」
「! ……ありがとうございます♡」
大河、お江、謙信、綾御前が一切、他者には触れなかった為、内心ではちょっと不貞腐れていた甲斐姫だが、サプライズ人事は嬉しいものだ。
女官と同列な立ち位置は思う所はあれど、
「じゃあ、準備しようか?」
お江の
ショッピングモールに行くと春休みということで、10代の客層は多い。
コーヒーショップやハンバーガーショップで、10代が集まり、友達や彼氏彼女と過ごしている。
大河一行も、
選定者は、お江だ。
「はんば~ぐ~♪」
大河の膝の上でハンバーグを
その
お江の頭に紙エプロンを乗せ、何とかハンバーグを食す。
左右には、謙信、綾御前。
向かい側には、甲斐姫、与祢、伊万、鶫。
それと稲姫も居る。
「お江様、
そう言って、身を乗り出し、頬に付着したソースを手巾で拭う。
千姫専属の護衛だが、彼女が江戸城に居る間、稲姫は自由だ。
なので、今はお江のお世話係に徹しているようだ。
謙信が寄りかかる。
「貴方、酒飲んで良い?」
「昨日、飲んだのに?」
「酒は毎日飲むものよ♡」
「分かった。禁酒法を制定し、謙信は一生、手錠での生活だな?」
「あら、嫉妬深い?」
「酒よりも俺に夢中になって欲しいからな」
謙信の唇に口づけし、しっかりと手を握る。
「もう♡ 嫉妬深いわね?」
食事中にも関わらず、2人は、接吻し合う。
「
綾御前の苦言も
2人は、食べさせあいっこしつつ、夫婦の時間を過ごすのであった。
ハンバーグ定食を堪能後、一行は買い物を楽しむ。
今回の目的は、服飾だ。
春を迎えることにあり、春をテーマにした最新の服飾が呉服屋に並べられていた。
「試着してくるねぇ~♡」
お江は数着選ぶと、稲姫と共に試着室に入っていく。
「鶫たちも選び」
「ありがとうございます。与祢、伊万」
「「は」」
鶫は2人を連れていく。
服飾にさほど興味がない大河は謙信、綾御前、甲斐姫と共に待つ。
「可いは行かないのか?」
「はい。今ので十分ですので」
甲斐姫は、大河の膝の上で甘える。
謙信、綾御前は先ほどの飲食店同様、左右だ。
甲斐姫の後ろ髪を撫でつつ、大河は、眼帯を上から
「痛みますか?」
「痛む、というか気になるな」
テロで伊達政宗同様、
「眼帯が合ってないんじゃない?」
謙信が心配そうに尋ねた。
「ん~。分からんが、その可能性もあるかもな―――」
「じゃあ、
「そうだね。じゃあ、貴方。待ってて」
「はい?」
「いいからいいから」
謙信は接吻し、綾御前は頭を撫でた後、2人で眼帯を探しに行く。
「取り残されちゃいましたね?」
「多分、俺たちに配慮したんだろ。卒業記念も兼ねて」
「え?」
「そういうことだ」
甲斐姫を抱き締めたまま、大河は立ち上がる。
「可いのドレスも選ぶよ」
「いや、今のままで十分ですよ―――」
「卒業記念と就職祝いだよ。貰ってくれ」
真剣な眼差しで言われ、
「……はい♡」
甲斐姫は、笑顔で頷く。
その後、呉服屋から新しい眼帯を装着した大河と真っ黒なドレスを着飾った甲斐姫がイチャイチャする様子が、ショーウインドー越しに見られたのであった。
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