第611話 佳人薄命

 万和5(1580)年12月24日。

 この日も、毎年同様、みやこはホワイトクリスマスとなった。

 深々と降る雪の中、京都新城では、盛大な宴会が行われていた。

「楠、元気にしていたか?」

「はい。”惟新公いしんこう♡」

「珠、そのドレス、似合ってるよ?」

「有難う。父上♡」

「与祢、元気にしていたか?」

「うん。この通りだよ。母上も元気だった?」

「うん♡」

 各所では、家族同士の会話が行われていた。

「皆、元気だったか?」

「うん……」

「「「ちちうえ~♡」」」

 前田利家は、三姉妹を抱っこする。

 素っ気ない幸姫は、芳春院に捕まった。

「就職は如何するの?」

「そりゃあ、真田家に就職するよ」

「肩書は?」

「考えてない―――」

「もう!」

 それからは説教だ。

 浅井家三姉妹とお市は、久々に来た織田信長・濃姫と会っていた。

「「おお、心愛~♡」」

 信長、濃姫夫婦は、心愛にメロメロだ。

 お市から奪い取り、一緒に愛でる。

「兄上、赤子ですから。もう少し丁寧に―――」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 夫婦を怖がった心愛は、大泣き。

 天下人・信長でも姪には敵わない。

「あああ! 御免なぁ? わざとじゃないんだよ」

 伯父のその態度に呆れるのは、サンタクロースのコスプレをした三姉妹。

「「「……」」」

 3人は、離れて大河を探す。

 大河は、部屋の隅っこで鶫と小太郎、姫路殿と一緒に居た。

「兄者~」

「おお、お江。楽しんでるか?」

「うん。ばっちしよ」

 お江は、先程行われたビンゴカードを見せる。

「一等賞! お年玉10倍だって」

「そりゃあ凄いな」

「だから、車買って~♡」

 両頬に接吻を繰り出し、お江は甘えに甘える。

「まずは、免許だな」

「鶫ちゃんに運転手してもらうから」

「え? 私ですか?」

 いきなり名指しされ、鶫は戸惑った。

 主君の妻からの命令だ。

 余り嫌な態度は見せれない。

「駄目だよ。鶫は俺の部下なんだから」

 大河は、お江に奪われない様に鶫を抱き寄せる。

「あ♡」

「え~。お抱えの侍女、一杯居るのに?」

「鶫は、侍女兼側室。お江専属の運転手は出来ない」

「じゃあ。風魔ちゃんは?」

「侍女兼愛人」

「珠ちゃんは?」

「侍女兼側室」

「私は? 私は?」

 ドレスを着たナチュラがやって来た。

 役職では、大河の専属侍女だが、ナチュラはラナ王女の親族。

 この様な公的な場では、流石に侍女扱いはされない。

「愛人」

「え~。側室の方が良いです」

 しゅん、とナチュラは項垂れる。

「冗談だよ」

 大河は、ナチュラも抱き寄せる。

「真田様」

 猿夜叉丸を抱っこしていた茶々と、

「兄上」

 おめかししていたお初は、呆れて睨むのであった。


「おいたわしや」

「全くだ」

 隅っこの方で加藤清正、福島正則は、やけ酒をあおっていた。

 2人の視線の先に居るのは、姫路殿。

 羽柴秀吉の側室であったが、工作の為に離縁され、羽柴家改易案が出た際、大河の暗殺を図りも、逆に返り討ちに遭い、侍女から奴隷に落ちた悲劇の女性だ。

「……」

 流石に公の場の為、鎖や薬等は用いられていないが、それでも羽柴家の生殺与奪は、大河次第なので抵抗は出来ない。

 大河もお気に入りなのか、傍から離さない。

 時折、腰に手を添える程だ。

 珠等、侍女に手を出している例がある為、姫路殿もその経路ルートと思われる。

「……殿はこの事実を?」

「寧々様が報告しているので、知っているよ。奪還を一時、検討されたが、寧々様にしばかれた様だ」

「……いつもの事だな」

 2人の夫婦喧嘩は、よくある話だ。

 史実でも、関白就任後の時期、諸大名の目の前で、2人は口喧嘩を行ったという逸話(*1)もある程だ。

 それでも一生を添い遂げたのだから、何だかんだで結局は、鴛鴦おしどり夫婦だったのかもしれない。

「……」

 清正は、改めて姫路殿を見た。

(可哀想に)


 宴会には、当然だが、朝顔、ヨハンナ、ラナ、マリアも出席している。

 マリア以外は、三巨頭なので当然、話せる相手は、皇族や王族、高位な公家や大使等に限られる。

 三巨頭は身分に関係無く喋りたいのだが、基準を設けないと、殺到し、会場が混乱する可能性が考えられる為、秩序を重視するには、致しかた無い選択であった。

 この他、松姫は高僧や尼僧と。

 阿国は、谷町や舞踏家と会話に夢中だ。

「おじいさま、元康、疲れていますよ?」

「このまま江戸に連れて帰りたい」

「駄目です」

 千姫の問答無用の拒絶に、元康を抱っこする家康は、涙目。

 千姫に付き従う稲姫は、苦笑いだ。

「稲」

「あ、父上」

 本田忠勝も稲姫との再会に上機嫌だ。

「愛王丸、もっと食べなさい」

「母上、精進料理が食べたいのですが……」

「可い、化粧を覚えたのか?」

「真田様が化粧品を買って下さったのよ」

 そこかしこで親子の会話がなされている。

 上杉謙信、綾御前、上杉景勝、累の上杉家は、伊達政宗、愛姫の伊達家と歓談中だ。

「愛、仕事は順調?」

「うん。今は、父上の外伝を書いてるの」

「政宗様、ずんだ餅、御送りして下さり有難う御座います。この通り、累も喜んでいます」

「ずんだ♪ ずんだ♪」

 其々それぞれ、謙信と愛姫。

 綾御前と政宗と累の会話だ。

 唯一、会話に参加していない景勝だが、

「……」

 家族の仲睦まじい様子に何時もの無表情も少し崩れ、柔和になっている。

 そんな景勝も又、高貴な公家達に狙われていた。

 近衛大将代理を数度勤め、大河からの信任も厚い。

 更には、朝廷と近い上杉家の出身の為、当然、政略結婚の標的に成り易い。

「……」

 敏感にその空気を感じ取った景勝は、その場を謙信に任せて、大河に近付く。

「……」

 ―――義父上。

「おお、景勝。良いのか? 向こうは?」

「……」

 ―――大丈夫です。

「そうか。じゃあ、楽しめ」

「……」

 ―――はい。

 景勝は、先程以上の笑みになる。

 義父と義理の息子の関係であるが、景勝は、大河を尊敬して止まない。

 何せ義母を幸せにし、更に戦でも超有能なのだから、そんな男性が義父なのは、非常に心強い事だ。

(義父上を、助ける)

 そして、隅っこでチビチビ飲む、秀吉の旧臣・七本槍を睨みつけるのであった。


 姫路殿は、

「……」

 無心で大河に手を握られていた。

 誾千代が問う。

「姫子は、側室になる予定?」

「そうなるな」

「珍しいね。私に相談無く側室にするなんて」

「済まんな。家を守る為だから」

「分かってるよ」

 苦笑いで応じる誾千代は、空いていた大河の手を握る。

 大友宗麟や立花道雪が来ているにも関わらず、話半分で、大河の傍から離れないのは、夫婦の時間を大切にしたいのと、姫子に嫉妬している為だろう。

 姫子を大河が欲したのは、単純にその美貌は勿論だが、秀吉に対するとの意味合いもある。

「人妻好きね?」

「性癖だからな」

 大河は、胸を張って答え、2人の手を強く握るのであった。 


[参考文献・出典]

*1:ウィキペディア

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