第446話 頂上作戦

 暴力団組員は、組織を辞めても5年間は、現役の扱いを受ける。

 所謂、『元暴5年条項』だ。

 これによって、離脱しても5年間は、


・銀行口座が作れない

・カードが作れない

・携帯電話の契約ができない

・自分の名義で家を借りることができない


 等を被る。

 これが元暴力団組員の社会復帰を妨げている、という意見があり、実際、元組員の再就職は、極めて厳しい(*1)。


 年度     :暴力団離脱者(人):就職者数(人)

 平成22(2010):630       :7       

 平成23(2011):690       :3       

 平成23(2012):600       :5

 平成24(2013):520       :9

 平成25(2014):490       :21

 平成26(2015):600       :18

 平成27(2016):640       :27

 平成28(2017):640       :37

 平成29(2018):643       :38


 この結果、再び犯罪に走る元組員も居る程だ。

 元組員が再び罪を犯せば、世間の風当たりは益々厳しくなる事は、必至だ。

 まさに悪循環だろう。

 これについては、人権派から廃止案が出されているが、令和3(2021)年現在、国会でその動きは無い。

 その事情を知りつつも、大河は法案書に加える。

(流罪があるからな。蝦夷地の発展に尽力させ様)

 それから、筆を置き、地下室に向かうのであった。

 

 地下室では、既に2人の拷問が行われていた。

「綺麗だな」

 ホルマリン漬けにされたに大河は、満足する。

 全身びっしり入った天女の刺青は、人によっては芸術品として評価するかもしれない。

「上手く出来たな?」

「はい。外科医から習った御蔭です」

「若殿、これどうするんです?」

 の鶫、小太郎は、メスを洗っていた。

 白衣を真っ赤に染めて。

「そうだな……」

 大河は、屠殺された豚の様に天井から吊り下げられた2人を見た。

「「……」」

 微かに呼吸音がするだけで、ほぼ死に体だ。

「……1人は餌に。1人は、泳がせてやれ」

「「は」」

 鶫と小太郎は、それぞれ、下し、1人は豚小屋へ。

 もう1人は座らせて、箱に足を入れ、そこに混凝土コンクリートを流し込む。

『セメント・シューズ』なるアメリカのマフィアが考案した処刑方法だ。

 被害者は、

・敵対者

・内通者

・裏切者

 等。

 足をコンクリートブロックとセメントで固め、河や海に投げ込み、溺死させる。

 その為、稀にこの手の遺体が漂着し、事件が判明する場合がある。


 例:『【足元コンクリート詰め、ギャングの遺体が漂着 米NY海岸】』(*2)


 足がした後、両手首は、結束バンドで縛られる。

「若殿、終わりました」

 鶫が帰って来た。

 豚は、骨まで食べる動物だ。

 実際にマフィアが犠牲になり、海外ドラマでも、その処刑方法が描写されている事がある。


 例:『【マフィアの血生臭い復讐劇。ゴッドファーザー生きたまま豚に食われる。

    (伊)】』(*3)


 最初に皮剥ぎに遭っていた為、神経が剥き出しとなり、男は激痛のまま逝った事だろう。

「御苦労。小太郎、大坂港に放り込め」

「は」

 この男も皮膚が無い為、海水は酷く応える筈だ。

「……」

 一部始終を見ていた和装の女性が、大河と目が合うと会釈した。

「この度は、夫の無念を晴らさせて頂き有難う御座います」

「いえいえ。『目には目を歯には歯を』ですから」

「報酬は、いかほどでしょうか?」

 歯科医の遺産もあるだろう。

 身形みなりの良い寡婦は、尋ねた。

「必要ありませんよ。これは、自分の妻の為ですから」

「え?」

「貴女は貴女の為に復讐を実行して下さい」

 にっこりと笑う大河。

 現代日本では、復讐は認められていないが、日ノ本では、遺族の感情を優先させて、復讐を認める場合がある。

 人権を掲げているが、それは法律を遵守している者が対象であって、殺人等の凶悪犯罪者は例外、という考え方だ。

 寡婦は一部始終を見せてくれたことに頭を下げた。

「有難う御座います」

 と。


「兄者、湿布貼って♡」

「あいよ」

 大河の部屋で、お江は、思う存分、甘える。

 与祢や伊万が居てもお構い無しだ。

 流石に朝顔には、遠慮するが、兎にも角にも、怪我の功名というべきか。

 大河が、いつもよりも10割増しで優しくて甘い為、居心地が良い。

「お江は、真田が大好きなのね?」

「はい♡」

 指摘した朝顔も甘えている。

 大河の手を握り、厠以外は、ほぼ離さない。

 握力が無くなっても尚、この状況だから、愛の深さが分かるだろう。

 幸姫、阿国、松姫も居る。

 3人は、お初の看病だ。

 と言っても、軽傷なのでほぼ不必要なのだが、大河の部屋に合法的に常駐出来る事から、買って出た。

「兄者兄者。今日は、背中流して?」

「いや、それは、3人の仕事だろ?」

「私は、兄者にして欲しいなぁ……チラチラ」

 チラチラって言う人、初めて見た。

「お江、流石に甘え過ぎよ」

「……陛下が仰るなら」

 嫌々だが、朝顔の苦言には、素直に受け入れるしかない。

「全くもう……」 

 呆れつつも朝顔は、大河の膝に乗る。

「松、幸も御出で」

「「は」」

「阿国は後ろ」

「は」

 指示を出し、陣形を作る。

 大河の膝を3人が占拠し、背後に阿国があすなろ抱きで完成だ。

「何これ?」

「冬だからね。くら饅頭まんじゅうだよ」

「……そうか」

 炬燵あるじゃん、という突っ込みは喉まで出かかるが、何とか耐える。

 大河は、大きく手を広げ、3人を抱き締める。

「……うん、良い匂い」

「変態」

 幸姫が突っ込む。

「貴方の所為で、毎日、貴方と会う前に体臭を確認しないといけないのよ」

「そんな弊害が? 済まんな」

 適当に謝りつつ、今度は、松姫の首筋に口付け。

「それで、年末年始は、何処に行きたい?」

「あは♡ 真田様の仰せのままに♡」

「なら、上田に来ませんか?」

 そう提案したのは、阿国であった。

「上田城?」

「はい。お勧めは、別所温泉(現・長野県上田市)です。信州最古の温泉の一つでもありますから」

「成程」

 朝顔も食いつく。

「御先祖様も入った記録があるらしいから、行ってみたいね」

 鶴の一声だ。

 対案は無い。

「与祢、別所温泉を予定に入れてくれ」

「はい」

「しゃんだ様、わたしもいっていい?」

「伊万も? 良いけど、御両親の許可が出たらな?」

 名目上、伊万は人質だが、大河が実子の様に可愛がっている為、来ても構わない。

 それに伴い、マリア、ヨハンナにも声をかける必要が出て来た。

(大所帯になるな)

 身から出た錆なのだが、大河は3人を抱き締め、阿国に頬擦りされつつ、お江と接吻するのであった。


 全権委任法に基づき、大河は、与党の議員を使って暴力団対策法案を提出。

 賛成多数により、その日の内に可決。

 都議会でも暴力団排除条例が可決され、全国の地方議会に広まっていく。

 犯罪組織は、国内の治安に悪影響をもたらす為、例え必要悪だろうが、犯罪者である以上、危険視しなければならない。

 法律が成立すると同時に、頂上作戦が実行された。

 動員されたのは、全国の武家だ。

 久々に剣術が披露出来るだけあって、士気は滅茶苦茶高い。

「ぶっ殺せ!」

「「「応!」」」

 左近の命令に、山城真田家の兵達も叫ぶ。

 万和4(1579)年12月24日。

 キリスト教圏では、クリスマス・イブ。

 その日の午前0時。

 攻撃が始まった。

 事前に解散届を提出していた山王会は、標的ターゲットから外され、事なきを得ている為、心配は無いのだが、他の組織は大打撃だ。

 京以外でもそれぞれ、現在の大坂、神戸、広島、福岡、沖縄でも事務所が襲われる。

 まずは問答無用で、扉を手榴弾で爆破。

 夜勤の組員が出て来るも、M16で射殺し、侵入。

 夜襲だった為、即応出来ず、1人残らず射殺されていく。

 これ程、大河が非情になるのは、犯罪組織が国家に与える影響が、深刻だからだ。

 史実で議員が、暴力団組員に殺害される事件が起きているし、イタリアでは、反マフィアの裁判官と判事が爆殺される、所謂、『カパーチの虐殺』が起きている。

 国会議員や司法関係者が殺害されるのは、国家への攻撃だろう。

 民主主義国家である以上、ナチスの様な武力行使は避けたい所だが、危険分子は、早めに摘む必要がある。

 神の軍隊掃討も忘れていない。

 キリスト教過激派である彼等は、その残虐性から将来、IS自称「イスラム国」になる可能性がある。

 キリスト教の聖なる日を彼等の忌日にするのは、大河のであろう。

 左近が指揮を執る。

「燃やせ! 燃やせ!」

 捕らえられた切支丹過激派は、どんどん火刑に処されていく。

 人狩りマン・ハントには、新教プロテスタントも参加している。

 日ノ本では、旧教カトリックより新教に好意的だ。

 旧教と比べると、まだ話が分かる部類だから。

 参加者には、フランスでサン・バルテルミの虐殺(1572年8月24日)の生存者も居た。

 同胞を殺された彼等は、態々わざわざ、日ノ本まで来て、反旧教政策に加担しているのだ。

 日ノ本も彼等の復讐心を利用し、参加を許している。

「5人が改宗を希望しています」

 孫六が腰縄で繋がれた5人を連れて来た。

「改宗か」

「はい」

「……では、絵踏だ」

 5人の前にイエスが描かれた絵が置かれる。

「「「……」」」

 5人は、息を飲む。

 目の前にすると、躊躇うのが、人間のさがだ。

「……出来ぬか?」

「……!」

 1人が目を見開き、隠し持っていた短刀を、左近に向ける。

「糞! 異教徒めが!」

「止めとけ!」

「煩い!」

 叫んで突っ込む。

 が、次の瞬間、男の頭が柘榴ざくろの様に吹き飛ぶ。

「だから言ったのに」

 左近は、溜息を吐いた後、狙撃手を見た。

「相変わらず、見事な腕だな? 孫六」

ろく分の働きをしただけですよ」

 笑って、銃口から出る煙を吹くのであった。


[参考文献・出典]

*1:JBpress 2020年3月10日

*2:CNN.co.jp 2016年5月7日

*3:TechinsightJapan 2013年11月30日

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