第445話 暴対法

 万和4(1579)年12月下旬。

 長兵衛が、3人の男と共に登城した。

「この度は、奥様に御怪我をさせてしまい、誠に申し訳御座いませんでした」

「……」

 謝罪を大河は、会釈で応じる。

 無視ではない事に長兵衛は、安堵した。

 場所は、応接室。

 大河の後方には、6人の女性陣が座っている。

 向かって右側に愛人兼用心棒、左側が婚約者兼侍女だ。

「「「「「「……」」」」」」

 6人共、厳しい表情で居る。

 妻が居ないのは、大河の配慮であろう。

 否、犯罪者に会わせたくないのかもしれない。

 山田が抜けたとは言え、任侠団体は、6万人居る。

 頑張れば、少数精鋭の山城真田隊と戦えるかもしれないが、それでも危険性の方が大きい。

 何せ、相手はロシアやスペイン等を破った国の英雄だ。

 一介の犯罪組織に勝算は無い。

「謝罪は受け入れます」

「それでは―――」

「但し、その3人の身柄は、貰い受けます。?」

「は……はい……」

 強い口調で言われ、長兵衛は、受け入れるしかない。

 天文学的な賠償金を請求されるかと思っていたが、3人の命と引き換えに、組織が守れるならば安いものだろう。

「「「……」」」

 3人は、堪忍した様に俯いたままだ。

 刺客を行っている為、常日頃から覚悟が出来ていたのだろう。

「鶫」

「は」

 鶫が3人をどこかに連れて行く。

「……」

「心配ですか?」

「え、ええ……まぁ」

「御安心下さい。お返ししますから」

「……」

 大河は、珠とナチュラを抱き寄せる。

「1人は、司法に則り、裁きます。堅気の御遺族が納得しませんからね。もう2人は、こちらの方で処分します。?」

「……は」

 かなりの圧だ。

 長兵衛は、頷くしかない。

 これが生き残る道だ。


 何とか任侠団体の生存が決まるも、無事に済んだ訳ではない。

 堅気に死者が出た事で一気に世間の任侠団体含む犯罪組織に対する心象が急落する。

 連合赤軍事件の過激な内ゲバに、一気に感心が薄れていった様に。

 人々は、好意的に見ていても、一つの事件で騙された様に感じ、離れていき易いのだ。

 今回の任侠団体においても、元々は慈善団体だったのが、時代の流れと共に拝金主義的になり、犯罪組織化。

 慈善団体時代を知る一部の人々は、犯罪組織になっても黙認はしていたものの、今回の事件で擁護し切れない。

 政治家も怒っていた。

 信孝、光秀が登城し、大河の意見を仰ぐ。

「犯罪者の活動を制限したい法律を作りたいのだが、良い考えはあるかな?」

「都の条例でも作りたい」

 法律家でも無い大河がこれ程、頼られるのは、強権を用いているとはいえ、国民生活、ひいては、日ノ本の為になる法律を次々と成立させているからだ。

 そのスピード感は、田中角栄並である。

 彼は、衆議院議員として、33件もの議員立法を成立させた。

 これは、前人未到の記録だ(*1)。

 戦後、これ程、をした政治家は、居るだろうか。

 大河も彼同様、頼られる存在なのであった。

「法律ですか? 簡単な事です。犯罪者に生活をさせなければ良いんです」

「「は?」」

「鶫」

「は」

 鶫が2人に法案書を見せる。

「「!」」

 その内容は、以下の通り。


『【口止め料を要求する行為】

 人に対して、企業や団体の不正な経営内容や異性問題の醜聞等、人に知られていない事実の宣伝又は公表にかこつけて、口止め料として金品等を要求する行為。


【寄付金や賛助金等を要求する行為】

 人に対して、寄附金・賛助金、その他名目の如何を問わず、妄りに金品等の贈与を要求する行為。


【下請参入等を要求する行為】

 建設工事等の請負業務の発(受)注者に対して、その発(受)注者が拒絶しているにも関わらず、下請参入、資材の納入等の受入れを要求する行為。


【見ヶ〆料を要求する行為】

 縄張内で営業を営む者に対して、挨拶料、見ヶ〆料等名目の如何を問わず金品を要求する行為。


【用心棒料等を要求する行為】

 縄張内で営業を営む者に対して、日常業務用の物品購入、興行の入場券・宴会券等の購入、用心棒料等を要求する行為。


【利息制限法に違反する高金利の債権を取り立てる行為】

 金銭を目的とする消費貸借上債務で、利息制限法に定める利息の制限額を超える利息の支払を伴うものについて、債務者に対し、履行を要求する行為。


【不当な方法で債権を取り立てる行為】

 人から依頼を受け、報酬を得て又は報酬を得る約束をして、債務者に対し、乱暴な言動を交えたり、迷惑を覚えさせる様な方法で訪問したり、電話をかける等して債権を不当に取り立てる行為。


【借金の免除や借金返済の猶予を要求する行為】

 人に対して、金銭を目的とする消費貸借上の債務や家賃、購入した物品の代金等の全部又は一部の免除や履行の猶予を妄りに要求する行為。


【不当な貸付け及び手形の割引を要求する行為】

 金銭貸付業者以外の者に対して、妄りに金銭の貸付け、手形割引等を要求し、又は金銭貸付業者に対して、その者が拒絶しているにも関わらず、貸付け、手形割引等を要求する行為。


【不当な金融商品取引を要求する行為】

 証券会社及び投資顧問業、投資運用業等、金融商品取引業務を営む者に対して、その者が拒絶しているにも関わらず、金融商品取引を行う事又は、証券会社に対して著しく有利な条件により有価証券の信用取引を行う事を要求する行為。


【不当な株式の買取り等を要求する行為】

 株式会社に対して、妄りに自己株式の買取り又はその斡旋を要求したり、株式会社の取締役、執行役、監査役、株主に対しその者が拒絶しているにも関わらず、買取り、斡旋を要求する行為。


【不当に預金・貯金の受入れを要求する行為】

 銀行等に対して、その者が拒絶しているにも関わらず、預金・貯金の受入れを要求する行為。


【不当な地上げをする行為】

 正当に使用する権利に基づいて、建物や敷地を使用している者に対し、その意思に反して、これらの明渡しを要求する行為。


【土地・家屋の明渡し料等を不当に要求する行為】

 土地、建物を占拠したり、自己の氏名を表示したり(支配の誇示)して、所有権者、担保権者等が拒絶しているにも関わらず、支配の誇示をやめる事の見返りとして明渡し料等を要求する行為。


【宅建業者に対し、不当に宅地等の売買・交換等を要求する行為】

 宅建業者に対し、その者が拒絶しているにも関わらず、宅地等の売買・交換をする事、又は売買・交換・貸借の代理・媒介を要求する行為。


【宅建業者以外の者に対し、宅地等の売買・交換等を要求する行為】

 宅建業者以外の者に対して、宅地等の売買・交換をする事、又は人に対して宅地等の貸借をする事をみだりに要求する行為。


【建設業者に対して、不当に建設工事を行う事を要求する行為】

 建設業者に対し、その者が拒絶しているにも関わらず、建設工事を行う事を要求する行為。


【不当に集会施設等を利用させる事を要求する行為】

 暴力団の示威行事の用に供されるおそれが大きい集会施設等の管理者に対して、その者が拒絶しているにも関わらず、その施設を利用させる事を要求する行為。


【交通事故等の示談に介入し、金品等を要求する行為】

 人から依頼を受け、報酬を得て、又は報酬を得る約束をして、交通事故等の示談交渉を行い、損害賠償として金品を要求する行為。


【因縁を付けての金品等を要求する行為】

 人に対して、買った商品、受けた奉仕の欠陥等を口実に損害賠償等の名目で、或いは有価証券の売買で損害を被ったと因縁を付けて損失補填を要求する行為。


【許認可等をする事を要求する行為】

 行政庁に対し、許認可等の要件に該当しないのに許認可等をするよう要求したり、不利益処分の要件に該当するのに不利益処分をしないよう要求する行為。


【許認可等をしない事を要求する行為】

 行政庁に対して、許認可等の要件に該当するのに許認可等をしないよう要求したり、不利益処分の要件に該当しないのに不利益処分をするよう要求する行為。


【公共事務事業の入札に参加させる事を要求する行為】

 国・地方公共団体等に対して、国・地方公共団体等が行う売買、貸借、請負等の契約の入札に関して、参加資格がない者や指名基準に適合しない者を入札に参加させるよう要求する行為。


【公共事務事業の入札に参加させない事を要求する行為】

 国・地方公共団体等に対して、国・地方公共団体等が行う売買、貸借、請負等の契約の入札に関して、参加資格がある者や指名基準に適合する者を入札に参加させないよう要求する行為。


【人に対し、公共事務事業の入札に参加しない事等を要求する行為】

 人に対して、国・地方公共団体等が行う売買、貸借、請負等の契約の入札に参加しない事又は一定の価格その他の条件で入札の申し込みをする事を妄りに要求する行為。


【公共事務事業の契約の相手方とする事等を要求する行為】

 国・地方公共団体等に対して、その者が拒絶しているにも関わらず、自己や自己の関係者を国・地方公共団体等が行う売買、貸借、請負等の契約の相手方とする事、又は特定の者を契約の相手方としない事を妄りに要求する行為。


【公共事務事業の契約の相手に対する指導等を要求する行為】

国・地方公共団体等に対し、国・地方公共団体等が行う売買、貸借、請負等の契約の相手方に、下請等の発注や資材・物品を納入させる様に指導・助言等をする事を妄りに要求する行為』(*2)


 この法律の下、暴力団の活動は厳しく制限され、全盛期よりも表に出難くなった。

 その結果、「暴力団がマフィア化」「必要悪が無くなり、外国系犯罪組織が激しく活動する等の意見があるが、マフィア化だろうが、必要悪だろうが、暴力団は堅気に迷惑をかけている以上、不必要な存在だ。

「「……」」

 大河の法案に2人は、目を丸くし、熟読するのであった。


[参考文献・出典]

*1:出世ナビ 2020年1月1日

*2:公益財団法人 暴力団追放運動推進都民センター

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