第443話 勇往邁進
喫茶店『
『美しい男友達』というのは、フランス人作家、ギ・ド・モーパッサン(1850~1893)の同名作品から取られている。
大河は読んだ事は無いが、エリーゼが「ジョルジュ・デュロアが大河っぽい」という身勝手な理由で名付けたのであった。
その為、店の入口には、
『山城真田家正室・えりーぜ様御命名』
と、大きな看板を飾って、集客効果に一役担っている。
「「「いらっしゃいませー!」」」
B〇〇K-〇FFの様な元気な挨拶。
朝顔が「御忍びで来店する」と事前通告があった為、通常より10割増しだ。
「多いな」
「しょうがないよ。人気店だもの」
ラナは、店内を見渡しては頷く。
この店の客層は、主に女性だ。
それも10代~20代と設定されている。
その為、小学生からOLまで幅広い女性が、多く来店していた。
男性厳禁という訳ではないが、1:9位の割合だろう。
女性に人気なのは、パフェだ。
力士が優勝した時の
現代風に
現代では、撮るだけ撮って食べない、という者も居るが、ここでは、そんな失礼な事は出来ない。
反食品浪費法の下、威力業務妨害が適用され、罰金刑或いは、懲役刑が待っているからだ。
大量消費の時代に入って、この様な無駄な事は、環境的にも倫理的にも許されるものではない。
その為、注文した以上は、
・完食
・お持ち帰り
しなければならない。
但し、パフェといった溶け易いものは、注文した時点で、完食しなければ、ドロドロの状態で持ち帰る事になる為、是が非でも完食する義務が発生するだろう。
店員達は最高に緊張している為、幹部級が接客する。
「御待ちしていました」
大河の経営する店の店員は、朝顔に慣れつつあるが、それ以外の店では、この様な方針だ。
朝顔自身、気にしないのだが、店側としては、アルバイトやパート、正社員が、万が一、失態を犯した場合の
「どうぞ」
幹部の案内で、用意されていたカウンター席に座る。
通常は、個室を頼むのだが、
「兄者、この『
「良いよ」
「やったぁ♡」
史実での
『1、1983年に台湾・台中市の喫茶店の経営者が発明。
2、台南市の喫茶店の経営者由来。
後に両者は10年間に渡り裁判で争う事態にまで発展。
この論争は、2019年に裁判所が、
「誰でも作れる為、誰が元祖であるかを決める必要はない」
という判決を下した事により終息している(*1)。
日本での
平成4(1992)年 第1次流行期
平成20(2008)年 第2次流行期。
平成30(2018)年 第3次流行期
直近のは、『タピる』という言葉が、同年のJC・JK流行語大賞コトバ部門に選出される程、若者に受け入れられている(*2)。
第1次と第2次の間が16年。
第2次と第3次の間が10年ある事から、第4次は、10~16年後に起きるかもしれない。
流行時、学生であった人々が親世代になり、子供と楽しむ様な事になっているのだろう。
日ノ本でも、平成30(2018)年同様、『タピる』が若者言葉として流行っている。
「マジ? この
「オバタリアンに
聞こえてる
津軽弁や薩摩方言は癖が強く、同様に聴き取り難いが、若者言葉もまるで外国語の様に感じる。
「?」
若者文化に疎い朝顔には、全く分からない。
否、大河も。
「お初、分かる?」
「分かるよ。兄上は分からない?」
「生憎さっぱりだ」
「もう少し勉強しましょうね~」
大河の弱点を見付けたのか、お初は大河の頭を撫でて、上から目線。
「お初、訳せる?」
「はい。陛下」
日本語なのに通訳とは不思議な事だが、分からない以上、必要だろう。
お初が朝顔に若者言葉を教えている間、誾千代が擦り寄る。
「貴方は、何食べる?」
「そうさなぁ……」
メニュー表を見て、大河は、考える。
「……
「え? 御茶なの?」
「うん。甘いのだと、眠くなると思うから」
「可愛い♡」
松姫が呟き、大河の頬に接吻。
「私は、真田様を食べたくなりました♡」
「じゃあ、夜だな」
「はい♡」
松姫に接吻し返す。
日ノ本に公然猥褻、身体露出罪が無ければ、今にも始まりそうな勢いである。
法治国家である為、大河は、自制する。
「こら、いちゃつかないの。来たわよ」
ラナが手刀を行い、大河にたん瘤を作ったと同時に特大のパフェと
「「「……」」」
真っ黒なそれは、一見、食用には、不向きっぽいが、
近い物としたら、味噌汁の葱だろうか。
然し、毎日は見ていない為、注文する度に注目してしまう。
「
「「「はーい」」」
女性陣は、元気な返事と共に
女性陣が楽しむ中、大河は、焙じ茶を飲む。
「……」
「幸せ?」
楠が尋ねる。
「幸せだよ」
幸姫が、匙でパフェを持って来た。
「貴方も食べて」
「有難う」
拒否せず食べる。
拒否して空気を悪くするのは、良くない。
焙じ茶片手にパフェは、違和感はあるが、幸姫の優しさには、感謝だ。
「最近、陛下が明るくなったよ。貴方の御蔭かしら?」
「そうかな?」
「そうよ」
幸姫は、嬉しそうだ。
同じ屋根の下で暮らす家族に良い変化が目に見えて分かるのだから。
楠も笑顔で膝に座る。
「貴方♡ はーい♡」
「甘いな」
「でしょ? だから、私は、もう御腹一杯」
「それで残りは飲め、と?」
「そういう事」
「分かったよ」
反食品浪費法がある以上、食べ残しは許されない。
大河が法案成立に関与している訳ではないが、日本人として法律は、遵守しないといけないだろう。
楠の飲み残しをチューチュー吸う。
15歳のそれを成人男性がするのは、背徳的且つ犯罪臭がするが、それは、現代の価値観であって、10代での結婚が珍しくないこの時代では、何も問題無い。
逆にこの時代の人々が、現代に来れば、「遅い」と感じるだろう。
価値観というのは、時代によって違うのだ。
「居たぞ」
「あそこか」
大河達が楽しんでいる最中、柄の悪い男達が3人来店する。
女性率が高いこの店で男性だけの来店は目立つものの、奇異ではない。
来店客の中には、女装した男性のカップルも居るからだ。
「いらっしゃいませー。こちらにどうぞ」
「「「……」」」
店員の案内を無視し、勝手に空席に座る。
それから男達は、ある方向を見た。
大河―――ではなく、その奥に居る男を。
男達は、犯罪組織の刺客であった。
昨今、世間を賑わせている縄張り争いで対立する組織の幹部を狙っているのだ。
「「「……」」」
3人は、目配せし合い、
その不穏な動きを鶫は、察知していた。
店員に扮していた彼女は、
『
と。
受け取った小太郎は頷き、バックヤードに下がる。
そこでは、
・アプト
・珠
・与祢
・ナチュラ
が待機していた。
4人は、防犯カメラを眺めつつ、パフェを突いていた。
「16番てーぶるに不審者よ」
「今、確認したわ。珠」
「はい」
アプトの指示で、珠は、キーボード操作。
防犯カメラが、男達にズームされる。
珠の横では、与祢が別のPCで、照合作業を行っていた。
「ありました。山王会の刺客の様です」
「若殿が標的なの?」
自身の胸を抱くナチュラ。
与祢が首を振った。
「その可能性は、低いでしょう。若殿が犯罪組織に狙われる理由がありません。国家権力を相手にする程、馬鹿では無いでしょう」
大河を狙う=日ノ本の敵である。
これは、暗黙の了解であり、暗黒街でも同じ事だ。
ナチュラは、安堵する。
「良かった……」
「でも、これは、希望的観測に過ぎません。警護の段階を最上級にしましょう。あぷと先輩、宜しく御願いします」
「分かったわ」
全員、仕込み銃で武装するのであった。
[参考文献・出典]
*1 :ロケットニュース24 2019年8月16日
*2:natural gift 美味しいタピオカの作り方
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