京都抗争

第442話 温良恭倹

『【僧侶と犯罪組織の黒い交際に衝撃】

 最近、都内を騒がせている抗争事件に、僧侶が関わっている事が判明した。

 仏教徒に衝撃が広まっている。

 日ノ本仏教連盟は、この件に関し、

「調査中」

 と返答。

『信教の自由』の監督する総務省の判断に注目される』


 抗争事件は最悪、外出禁止令になってしまう。

 流れ弾で、堅気が殺傷してしまう恐れがある。

 経済活動にも悪影響は、必至だ。

「……」

 記事を読みながら、大河は考える。

 拳銃は法に基づき、民間人の所持及び所有は、厳しく制限されているが、刀は、廃刀令が無い為、浪人であっても認められている。

 その為、抗争で日本刀は、使用され易い。

 拳銃は、非合法で入手、或いは製造した物だろう。

 理性がある犯罪組織は、御所、或いは京都新城周辺では、事件を起こさない。

 1回でも発砲すれば、直ぐにその個人、又は犯罪組織が特定され、消滅するのだから。

「……廃刀令?」

 大河の気持ちを推察したのか、誾千代が心配そうに問う。

 武家の出身者として、廃刀令には、反対派だ。

「人を殺すのは人であって刀ではないよ」

「……そうだね」

 廃刀令を推し進めたい大河だが、以前の反乱や、国民投票で否決されている事から、強要は出来ない。

 民主主義国家である以上、こればかりはどうしようもない。

 2人は、布団の中に居た。

 昨晩愛し合ってたのだ。

 2人共、腰を痛め、起床する事が出来ない。

「もう少し寝る?」

「そうしたい所だが、今日は平日。難しいよ」

「そう?」

 誾千代は、大河の手を握る。

「何?」

「好き」

「知ってる」

「貴方も言って」

「愛してる」

「もう♡」

 子供が居ない分、2人は、思う存分、イチャイチャ出来る。

 この状態だと、死後も変わらないだろう。

『若殿、お早う御座います』

 アプトが障子越しに声を掛けた。

「お早う」

 スッと、開けて、入って来る。

「紅茶を御用意しました」

「おお、有難う」

 紅茶の入った茶器を大河と誾千代に渡す。

「有難う、あぷと。又、短くなったね?」

「若殿の方針ですから」

 誾千代の視線は、アプトのメイド服だ。

 超ミニスカートである。

 座っただけで、下着が見えている。

「大変ね」

「仕事ですから」

「アプトも御出で」

「はい♡」

 呼ばれ、アプトは、大河の隣へ。

 折角、夫婦水らずは終わってしまうが、誾千代は怒らない。

 昨晩たっぷりと愛された為、今は賢者タイムと言った所か。

「あぷとは、今冬、帰るの?」

「大殿が許可して下されば」

「帰っても良いけれど、寂しくなるから嫌だ」

 子供の様に、唇を尖らせつつ、大河は抱き寄せる。

 沢山の女性と婚姻関係を結んでも尚、この嫉妬心は最早、病的だろう。

 アプトは、苦笑い。

「寂しがり屋の大殿に御奉仕したいので帰りませんよ」

「良かった」

 ただ、アプトは本音を隠していた。

(珠に奪われちゃうかもしれないからね。帰れないよ)

 部下兼親友だが、恋敵でもある。

 一応、同じ婚約者だが、身籠りさえすれば、一気に正妻に昇格する可能性も当然あり得る。

 愛妻家で子煩悩な大河は、妊娠すれば、大喜びするだろう。

 噂をすれば影が差す。

『大殿』

『若殿』

『『お早う御座います』』

「お早う」

『『失礼します』』

 珠と与祢のコンビが障子を開けた。

 2人は、先にアプトが居るのに一瞬、驚いた顔を見せたが、仕事に徹する。

「大殿、朝御飯の準備が出来ました」

「若殿、御準備を」

「有難う」

 誾千代、アプト、珠、与祢の額に順に接吻していく。

 これが大河の平等な愛し方であった。


 朝食は、


・白御飯

・目玉焼き

・豆腐

・味噌汁


 であった。

「お市、山葵わさび、とって」

「はーい」

 心愛に授乳しつつ、お市は、山葵わさびを大河に渡す。

 豆腐には、ポン酢or醤油に山葵わさびというのが、大河の食べ方だ。

 朝からステーキでもいけない事は無いが、アプト達が作ってくれた物は、文句を言わない。

「貴方♡」

「真田様♡」

「真田♡」

 幸姫、松姫、ラナがあーんをせがむ。

「好きだなwww」

 大河は、嫌がらず3人に行う。

 否、松姫には、山葵わさび多めで。

「ん!」

 辛さに襲われた松姫は、のた打ち回った。

 慌てて水を飲み、何とか飲み込む。

「さ、真田様?」

「済まんな。つい、虐めたくなった」

「もー!」

 松姫は、涙目で、大河の胸をポカポカ。

「松って、大河のお気に入り?」

「そうみたいですね。後、小太郎も」

 謙信と楠は、そう言い合う。

 名前を出された小太郎は、天井裏に居た。

「えへへへ♡ 主♡」

 大河の様子を覗き見。

 された彼女は、ストーカーが生き甲斐になっていた。

 その性癖は屈折し、大河の不在時、彼の寝床に侵入し、親友・鶫と程である。

 大河は、松姫を抱き寄せては、その首筋に接吻。

「あは♡」

 悪戯されて怒り心頭だったのが、悦びに変わる。

「♡ ♡ ♡」

 上機嫌で大河に接吻し返す松姫であった。


 万和4(1579)年12月中旬。

 降雪の中、大河は、

・朝顔

・ラナ

・誾千代

・松姫

・幸姫

・楠

・お初

・お江

 と買物に行っていた。

 もうすぐ、仕事納め。

 それに冬休みだ。

 色々と入用いりようになる為、大所帯での買物だ。

 2本しかない大河の手を繋いでいるのは、朝顔とラナ。

 左手は朝顔である。

 日本古来の左優位論の下、最近では固定化されつつある。

 因みに右手は、ラナだ。

 王女である以上、皇帝エンペラーの次なのは、当然だろう。

 大河としては、右手は、誾千代にしたい所だが、布哇王国との関係もある為、誾千代が遠慮しているのであった。

「兄者♡ 兄者♡」

 肩車されているのは、お江。

 メンバーの中で朝顔に次いで小柄なので、この位置を勝ち得ているのだ。

 一行は、大型商業施設に居た。

 年末なので多数の買物客が居る中、大河達は、食料品に入る。

「兄上、御菓子、買っていい?」

「良いよ。ただ、買い過ぎちゃ駄目だよ」

「分かってる」

 お江は、お初、誾千代、幸姫、楠と共に御菓子コーナーへ。

 山城真田家には、栄養士が居る為、普段、御菓子は、逢引デートの時位しか食べる事が出来ない。

 然し、年末年始は、栄養士が帰郷する為、鬼の居ぬ間に洗濯。

 思う存分、摂る事が出来る。

 現代だと騙す日チート・デイに似た様な感覚だろう。

「真田は、御菓子、要らないの?」

「皆が御菓子だよ」

 ラナの額に接吻する。

 この男には、恥も外聞も無い。

 大河の愛妻家振りは、既に周知の事実なので、都民が注目する事は無い。

 朝顔、松姫にも行う。

 これで平等だ。

「3人も俺に構わず買いね?」

「御菓子は、お江達の仕事だから、私達は、新年用に新しい服、買おうか?」

「だってよ。陛下の勅令だから行くわよ」

「へいへい」

 2人に手を引かれ、大河は、松姫と共に服屋に向かうのであった。


 大型商業施設は人が集まる分、犯罪の標的になり易い。

 2013年には、ケニアの首都ナイロビにある大型商業施設がソマリアのイスラム過激派の攻撃に遭い、死者67人出す大事件となった。

 時代も場所も違う為、同じ様な事件が日ノ本で起きるかどうかは、分からないが、玄人プロフェッショナルな大河は、逢引デートを楽しみつつ、警戒態勢を怠らない。

 随行員の鶫達も同じく、私服警官の様に徹し、一般市民を装いつつ、警護を怠っている。

 大河がかわやに行っている間、

「小太郎、そっちはどう?」

『陛下は、試着室。異常無し』

 担当は、以下の通りに分かれている。


 大河担当班:鶫、ナチュラ、珠

 朝顔担当班:小太郎、アプト、与祢


 楠も用心棒の1人なのだが、今回は非番と言う事で外されている。

 大河には用心棒は必要無いのだが、これは朝廷と信孝の指示でもあった。

 万一、大河に被害が出れば、朝廷にも幕府にも精神的被害が出る。

 その為の安全策であった。

 大河がどう嫌がろうが、これは決定事項なので、覆る事は無い。

 警備上で最大の問題が、表だって警備出来ない事だ。


 日本でアメリカの様な見える警備になったのは、昭和35(1960)年以降の事。

 この年の10月12日、”人間機関車”の異名をとる社会党委員長・浅沼稲次郎が、日比谷公会堂で演説中に刺殺された。

 この時、近くに池田勇人首相が居たにも関わらず、SPが不在だった事が問題視された。


 それまでの景観に配慮した目立たない警護から、見せる警護になったのは、この事件が契機である。

 日ノ本では、未だ目立たない警護だ。

 大勢で目立つのは、朝顔も大河も好まぬ事である。

 朝顔は、「開かれた皇室」を目指し、積極的に民間人との交流を図り、大河も極力、合わせている。

 その為、警備陣は、大変だ。

 無線機で、日程を調整する。

「この後は?」

12:00ヒトフタマルマルに買物終了。その後、喫茶店、「美しい男友達ベラミ」に来店予定です』

「先遣隊は?」

『既に向かって調査済みです』

 親友にして百合な2人だが、仕事中は、同僚だ。

 大河の指示通り、完璧にこなす。

 かわやを済ませた大河が出て来た。

「若殿が合流される」

『了解』

 大河は、鶫達を見た。

「皆も、服、買って良いからな?」

「「「有難う御座います」」」

 3人は、頭を下げるが、買う気は無い。

 今は仕事中。

 遊ぶ気は更々無い。

 真面目な3人に大河は、苦笑い。

 珠、ナチュラ、鶫の順に唇に接吻していく。

 正妻の居ない所なのは、正妻に配慮した形だ。

 鶫達も又、大河の大切な人である。

 正妻に気を遣いつつ、愛しているのだ。

 そして、1人ずつ、現金を渡していく。

 売春っぽい光景だが、それはともかく。

「真田様、これは?」

「今日の遊興費だよ。輪番制でも良いから遊べ。これは、命令だ」

 奇妙な命令だが、こうでもしないと真面目過ぎる忠臣は、動かない。

「「「はい♡」」」

 とても1日では、使えきれない大金であり、そもそも普段から高給なので、これは必要無いのだが、大河の気持ちは有難い。

 返礼とばかりに3人は、大河の頬に接吻するのであった。

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