第430話 卵翼之恩

『【SBS 乳幼児揺さぶられ症候群

 赤ちゃんは激しく揺さぶられると、首の筋肉が未発達な為に脳が衝撃を受け易く、脳の損傷による重大な障害(※1)を負うことや、場合によっては命を落とす事がある。

 これを『乳幼児揺さぶられ症候群Shaken Baby Syndrome』と言う。


 ※1 赤ちゃんの頭の中はとても脆いので、激しく揺さぶると重大な障害が残る可

   能性がある。

 例:言語障害

   LD学習障害

   歩行困難

   失明

[症状]

 赤ちゃんが激しく揺さぶられると、脳細胞が破壊され、脳は低酸素状態となる。

 その結果、次の様な症状が現れる。

・元気がなくなる

・機嫌が悪くなる

・嘔吐

・痙攣

・意識障害(呼んでも応えない)

・昏睡(強く刺激しても目を覚まさない状態)

[赤ちゃんの泣きの特徴]

 これまでの研究の中で、個人差はあるが、子育ての仕方によらず生後1~2か月に泣きのピークがある事が判った。

 その時の泣きは、何をやっても泣きやまない事が多い事も判ってる。

 然し、ピークが過ぎれば、泣きは段々収まっていく。

[赤ちゃんの泣きへの対処法]

 まず、赤ちゃんが欲しがっていると思うものを確かめてみる。

 例:ミルクをあげる

   おむつを替える

   暑がっていないか

 次に、赤ちゃんがお母さんのお腹の中に居た時の状態を思い出させてあげる。

 例:おくるみで包んであげる

   ビニールをクシャクシャした音をきかせる

 心地よい振動で泣きやむ事もある。

  色々と試しても泣きやまない場合は、赤ちゃんを安全な場所に寝かせて、その場を離れる。

 そして自分がリラックスしよう。

 少ししたら、戻って赤ちゃんの様子を確認する。

[SBS防止方法]

・無理に泣きやませ様と激しく揺さぶらない事

・泣き声が周囲に聞こえない様にと赤ちゃんの口を塞がない事』(*1)

 

 SBSの概念さえ無いこの時代には、「良かれ」と思って揺さぶってしまう事が多い。

 その結果、重大な障害を残った子供も現代以上に多い。

 ベビーブームなので、分母が大きい分、そうなってしまう可能性もあるだろうが、子供は国の宝だ。

 極力、健康体で育って欲しい。


『―――赤ちゃんは、決して激しく揺さぶってはいけません。又、口も塞いではなりません。良いですか? 決して1人で抱え込まないで下さい。子育てに関する悩み事があれば、遠慮なく御利用下さい』

『子育て支援本部は、こちらまで』


 誾千代は、幸姫と街宣車に乗り、宣伝していた。

 2人に子は居ないが、SBS対策に一役買っていた。

 一通り、都内を周った後、街宣車は、京都新城に戻る。

 駐車場では、大河が心愛を抱っこし、お市、橋姫と共に待っていた。

「御疲れ様」

「待ってたの?」

「ああ、な? 心愛」

「……」

 大河の指をしゃぶりつつ、心愛は、微笑む。

 血の繋がりは無いが、我が子の様に可愛い。

 誾千代、幸姫もメロメロだ。

「「心愛、只今」」

「……」

 言葉こそ発さないが、心愛はにんまりと笑うのであった。


 心愛の子育てはお市が、自分で行っている。

 乳母も居るのだが、極力自分で育てたい方針だ。

「心愛、美味しい?」

「……」

 一心不乱にお乳を吸っている。

 その頬を大河は、人差し指でプニプニ。

 心愛は、小さな指でそれに触れた。

「心愛、愛してるよ」

「……」

 にへらと、微笑む。

 大河は、その頭を撫でつつ、誾千代を抱き寄せる。

「何?」

「汗の臭い、嗅ぎたい」

「変態」

 蔑んだ目を向けつつも、誾千代は、頬擦り。

 汗が大河にも付着する。

「大河って臭いが好きなの?」

「ちょっと引くわ」

 幸姫、橋姫もドン引きだ。

「そういう癖なんだろうな。自覚は無いが」

「父上、止めた方が良いと思うよ」

 愛姫が、ひょっこりはん。

 相変わらず、口元が緑で染め上がっている。

 今日もずんだ餅を堪能した様だ。

「気持ち悪い?」

「気持ち悪い」

「じゃあ、止めるよ」

 愛姫に嫌われたら、生きてはいけない。

 子煩悩な大河は、子供が生きる糧だ。

 愛姫を抱っこし、心愛と対面させる。

「可愛い♡」

「妹だ。仲良くするんだぞ?」

「はーい」

 愛姫も心愛を撫でる。

「貴方」

「分かったよ。若し、困ったら呼んでくれ」

「分かったわ」

 お市に接吻後、大河は、誾千代、幸姫、橋姫を連れて出て行く。

 夫婦仲は良好だが、お市は子育てに集中したい様で、今は疎遠だ。

 望めば大河は、さっさと退散する。

 心愛が名残惜しいが、お市に極力、ストレスを溜めたくはない。

 今の愛妻は、妻ではなくなのだ。

 子が生まれた以上、夫の存在意義は殆ど無い。

「市様と言葉を殆ど交わさずとも、意思疎通出来るのね?」

「夫婦だからな」

「私とは?」

「出来るよ」

「じゃあ、今、何望んでいる?」

「はい」

「きゃ」

 いきなり抱っこされ、誾千代は、慌てた。

 然し、大河は下ろさない。

 強い力で支え、誾千代に接吻する。

「今晩、良い?」

「もう5日連続だけど?」

「駄目?」

 童顔に小首を傾げられると、誾千代も苦笑いしかない。

 自分もそうだが、他の女性陣も変わらず同衾しているのだから、相当な性欲だ。

 恐らく、前世は膃肭臍オットセイなのかもしれない。

「幸も」

「え? 私も?」

 引きった笑みで幸姫は、後ずさる。

 昨晩も同衾し、流石に2日連続は、負担が大きい。

 昨晩の参加者は、以下の通り。

・幸姫

・松姫

・楠

・アプト

・ラナ

 一昨日は、

・珠

・ナチュラ

・阿国

・お初

・お江

 と、誾千代以外は、輪番制だ。

 エリーゼ、茶々、千姫、謙信も参加したがっているが、如何せん、子育てに忙しい。

「じゃあ、今日は、私が立候補するわ」

「橋、今日だろう?」

「雰囲気が台無しね?」

 橋姫も抱き寄せる。

 誾千代は、不妊症。

 橋姫は、人外なので、妊娠する可能性が低い。

 なので、避妊具を使用する必要が無い。

 橋姫にも接吻し、両手に花だ。

 仕事を真面目にこなしつつ、夫婦生活も両立させる大河であった。


 2人を抱いた後、大河は、夜風に当たる為、縁側へ。

 火照ったままで寝ると、寝汗を掻き、風邪の原因になりかねない。

 お風呂で流すのも手だが、これだと不眠になりかねない。

 付き従うのは、愛人と侍女からなる6人衆だ。

「「「……」」」

 全員、眠たそうな顔である。

 当然、大河が同伴を命じた訳ではない。

 これは、愛人VS.婚約者の勢力争いであった。

 6人は、3人ずつに分かれ、目も合わそうとしない。

 仕事中であれば、協力関係になるが、私的だと、一気に冷却化するのだ。

 大河も無理して、両派を仲良くさせ様とはしない。

 いがみ合う両派を無理に一つにすれば、何れ崩壊するのは、目に見えている。

 チトーの下では、統一していたユーゴスラビアも、彼の死後、あっという間に崩壊してしまった様に。

 仲良し=絶対的な平和、とは必ずしも繋がるとは言い難い。

「皆、寝たら良いのに」

「若殿を御一人にさせる事は出来ませんよ」

 アプトが、大河の左膝を枕にする。

 侍女を束ねる長だが、婚約者でもある為、この様に甘えても問題無い。

 右膝には、鶫が占拠。

 侍従長の癖に甘えるな、と睨み付けている。

 一方、大河の背後では、

「与祢様、御乱心ですか?」

「貴女の方こそ何? そのクナイは」

 小太郎VS.与祢、開戦である。

 目の前の日本庭園では、

「「……」」

 薙刀で武装した珠VS.火縄銃のナチュラ。

 両派の仲の悪さが窺い知れる。

「あー……皆?」

「「「「「「はい?」」」」」」

「対立は黙認するが、殺し合いは認めんぞ?」

 笑顔で殺気を放ち、4人の武装を解く。

「「「「……」」」」

 鶫、アプトもいつの間にかそれぞれ、正座していた。

「「若殿……」」

「憎悪は、犬に食わせておけ」

 それから大河は、与祢、アプト、珠を膝に乗せる。

 愛人よりも婚約者を優先するのは、当然の事だ。

 だが、愛人をないがしろにする気も無い。

 大河は、フェミニストだ。

 愛した女性は、全力で大切にする。

「……」

 視線で、愛人達を見る。

「「「!」」」

 婚約者に軍配が上がった事を悲しんでいた3人は、両目を輝かせて、周りに集まった。

「月見でもするかな」

「では、御用意させて頂きます」

 アプトが立ち上がろうとするも、

「だーめ」

「きゃは!」

 大河に無理矢理、座らせられる。

「今は、休め」

「し、然し―――」

「良いから」

 強めに言われ、アプトは、これ以上動く事は出来ない。

「鶫、済まんが」

「分かりました」

 鶫は、笑顔で台所に向かう。

 大河の指示ならば、妄信的に従う彼女らしい。

 婚約者、愛人が同じ場に居る奇妙な月見は、京都新城では度々行われる様になるのであった。


[参考文献・出典]

*1:埼玉県 HP

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