第404話 奥州合戦
出羽国に入った大河の軍隊は、
・国軍兵士 300
・国家保安委員会の特殊部隊 200
の総勢500。
皆、便衣兵なので、初見で軍人とは見抜ける事はほぼ出来ない。
最上軍5千の10分の1にしか満たない数だが、大勢で動くと目立ち易い為、このくらいなのだ。
出羽国では政府系の最上氏と、伊達氏に降る事を拒否した最上氏が、朝日山城で交戦していた。
同族の為、
政府系最上氏→黒
最上氏強硬派→赤
と色分けした物を装着し、同士討ち対策に努めている。
アメリカの二大ストリートギャングがそれぞれ、赤色と青色を象徴に使用している様に。
攻めるは強硬派。
守るは、政府支持派。
1千人もの大軍を迎え撃つ政府軍は、僅か500。
突然の攻撃に、それ程の手勢が集まらなかったのだ。
城に矢や銃弾が撃ち込まれる中、救援部隊の500人は、背後から朝日山城に入る。
合流した事で、1千。
朝日山城攻防戦は、数的には互角だ。
「誾千代、楠。この城の防衛を頼む」
「「は」」
「謙信は、小太郎と一緒に仙台城に行き、輝宗殿の様子を見てくれ」
「分かったわ」
「は」
「若殿、私は?」
「鶫は、引き続き、俺の護衛だ」
「は」
小太郎の方が軍人としての能力は上だが、鶫を派遣すると、伊達側が難色を示す可能性がある。
癩病への偏見が、現代以上に強い時代だ。
適材適所で、人員を配置するのは、上に立つ者の努めだろう。
「鶫、鉄砲は、扱えるな?」
「はい。訓練しています故」
「じゃあ、俺と
「!」
グロックを渡され、鶫は感激する。
夢にまで見た瞬間だ。
「……命を懸けて、任務を全うさせて頂きます」
「命と天秤をかけるな。危なくなったら逃げろ。鶫の代わりは居ない」
大河は笑顔でそう言うと、ベレッタを握るのであった。
6月の出羽は、20度前後と涼しい。
蝉が鳴く山林を、大河は、鶫と歩いていた。
2人の出で立ちは、
・
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・
・
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・
と、修験者の恰好だ(*1)。
近衛大将が、山伏に偽装しているとは誰が思うだろうか。
2人は、
「「……」」
静かに歩く。
シャンシャンと音を鳴らしていると、
「伊達の者か?」
木の陰からも最上兵が登場。
赤の紐を鎧の肩に着けている辺り、強硬派の様だ。
「貴様達、どこから来た?」
「「……」」
2人は、手話で聴覚障碍者の演技を行う。
「糞。分からないな。筆談は、出来るか?」
「……」
兵士が、筆を用意し様と、隙を見せた。
その瞬間、
大河が、隠し持っていた、スペツナズナイフを射出。
「が!」
胸に刺突。
倒れた後、大河は、首を圧し折る。
その間、鶫がナイフを抜き取り、近くの川で洗った後、鞘に戻す。
銃弾と違って、これは、1回限りしか
なので、毎回、再利用しなければならないのだ。
非常にエコな殺人兵器と言え様。
「……」
大河は、兵士の
以後は、日米等でも採用される様に、世界的に広まっている。
が、この世界では、大河が、先に導入させた。
約300年先取りした形になる。
「若殿、どうでした?」
「足軽だよ」
綺麗に寝かせて、合掌する。
敵とはいえ、死体を野晒しにする事は出来ない。
「鶫」
「は」
鶫が、八九式重擲弾筒を空に向かって発射。
米兵が
「これで気付いてくれるだろう」
「若殿は、お優しいですね。死者に敬意を払うなんて」
「死後まで叩く程、俺は鬼じゃないよ」
「呼んだ?」
橋姫が、筋斗雲に乗って登場。
「凄いな。よく場所、判ったな?」
「私と貴方は、赤い糸で結ばれているからね」
筋斗雲から降りると、彼女は、魔法で山伏に変身。
道具代要らずだ。
「私も参加するわ」
「新妻を参加させたくないんだけどな?」
「じゃあ、古くなれば良いの?」
「そういう意味じゃ―――」
「じゃあ、決定」
橋姫は、大河の腕に絡み付く。
「おいおい、修験者なら修験者らしくしろよ」
「良いのよ。ほら、可愛いでしょ?」
橋姫は、1回転。
吉祥草寺(世界で初めて萌えキャラを信仰対象として祀っている)公認の萌えキャラの様に可愛い。
「ああ、そうだな」
性欲を我慢出来ない大河は、正直に認めるしかない。
ここで我慢すれば、心身に悪影響を及ぼす事を分かっているからだ。
「ちょっと東屋を探そう。そこで一旦、休憩だ」
「は」
「うん♡」
擲弾発射器に気付いた最上兵達が集まって来る。
「橋、瞬間移動だ」
「はぁい♡」
気付かれる前に3人は、魔法で消えるのであった。
東屋で大河は、2人を抱き締めつつ、地図を確認していた。
中野義時等が占拠している最上氏の本拠地・山形城は、別名『
別名の由来は、慶長出羽合戦の一つ、長谷堂合戦の際、
神の名を持つ神聖な山の御加護か。
若し、そうだとしたら、慶長出羽合戦の上杉軍の様に敗れる可能性がある。
大河は、無神論者であるが、神仏等を一切否定している訳ではない。
なので、山形城を空爆するのは、余り乗り気ではない。
又、山形城は、日本100名城に数えられる程の名城だ。
戦後、それを観光地化にする為には、空爆は避けたい所である。
(……やっぱり、地上から攻め込むしかないな。いや、空挺部隊に行かせるか)
朝日山城を攻めるのは、1千。
残りの4千人が、山形城を守っている。
山形城を攻める事が出来るのは、
1、朝日山城攻防戦が終わり、誾千代達を待つ。
2、謙信達が、仙台城に向かっている為、彼女達と伊達隊の援軍を待つ。
3、新聞沙汰になる事を承知で、正式に援軍を要請し、上杉隊を呼ぶ。
4、3人で攻める。
の4通りの方法が考えられる。
短所は、
1→制圧に時間がかかる可能性あり。
2→同上。
3→日ノ本が、国内を統治出来ていない事を国内外に暴露してしまう。
4→余りにも危険すぎる。
(俺は橋の御蔭で不死身だが、鶫は違う。彼女を生かす為には、最後のは最終手段だろうな)
ガチャガチャと鎧の音がする。
仙台笹の家紋を掲げた伊達兵だ。
「見付けた」
謙信と小太郎が下馬する。
後続の馬には、痩せ細った輝宗が。
まだ病み上がりなのだろう。
以前、大河が会った時と比べると、覇気がない。
余命が近いのかもしれない。
「……」
目が合うと頷き、下馬した。
肩で息を切らせつつ、土下座する。
「真田殿、この度御迷惑を―――」
「謝る事はありません。こちらとしても、御子息を勝手に養子にしてしまい申し訳御座いません」
「いえいえ。天下の近衛大将の養子です。我が家としても万々歳でしょう」
伊達氏は徳川氏等と違い、女性を送る事は出来なかった。
その代わりだが、政宗を養子にする事が出来た。
上皇・朝顔を養母になる関係性は、一気に伊達氏が、立身出世の
「政宗は?」
「越後で、我が娘・華と仲良くしています。いずれは、結婚するでしょう」
「そうですか……これで、我が家は、安泰です」
輝宗は、乾いた笑いを浮かべた。
「真田殿、どうか、東北を火の海にしないで下さい」
「うん?」
「知っての通り、東北は奥州藤原氏の隆盛以来、退廃しています。今では真田殿の御協力の下で発展を遂げています」
「……」
「奥州をあの時の様に大火にしないで頂きたい。若し、そうなった場合、我が家は最悪、朝敵を覚悟してでも、真田殿と戦う所存です」
すると、鶫と小太郎が、抜刀した。
輝宗と共に来た伊達兵もそれに呼応し、刀を抜く。
一触即発の状況だ。
「2人共、止めろ」
大河が2人の前に立つ。
そして高らかに宣言した。
「東北を再び地獄にする気は更々ありません。自分が、東北を一度たりとも蔑視した事がありますか?」
「……」
政宗を厚遇し、東北の発展の為に多額の予算を捻出させているのは、政府の中で大河のみ。
東北に何も縁も所縁も無い筈なのにそれだけ重要視しているのは、彼くらいだ。
「自分が叩き潰すのは、反体制派のみです。今回、武力行使を決断したのは、我が国から独立を目指す分裂主義が露わになったからに他なりません。被害に遭った地域は、戦後、優先的に予算を優先的に投入する所存です」
「……それなら安心です」
鶫達が納刀した事で、伊達兵も納めた。
謙信は感心し、大河の頬に接吻。
「凄いわね。言葉だけで納得させるなんて」
「平和主義者なんだよ」
「うふふ。そうね」
橋姫も嬉しそうに頭を撫でる。
こうして、仲間割れは避けられた。
予想よりも早く伊達氏の援軍が来た為、少数精鋭による制圧作戦は、廃案となった。
伊達兵は、5千
兵力差では、一気に逆転だ。
5千の軍勢は、4千が籠城する山形城を取り囲む。
大河は、まず使者を送った。
然し、帰って来たのは、生首。
「「「……」」」
本陣は、暗い空気が包む。
「これが、答えか」
「最上の愚か者が」
「許さん……」
伊達家の重臣は、次々に呟く。
無言の帰宅を果たした使者は、伊達家の人間であったから。
最上と伊達は、政略結婚で結ばれた親族だ。
親族の説得になれば、少しでも耳を傾けるのでは?
と思い、輝宗が大河の許可を得て、平和的に動いたのだが。
その結果がこれだ。
輝宗は、呆然としている。
「……」
彼に非は無いが、提案者として、自分を責めない訳が無い。
やが、本陣には使者の家族が来た。
「……! 貴方ぁあああああああああああああああ!」
木箱に収められた使者と再会した遺族は、絶叫した。
未亡人となった妻は、生首を抱き締めて半狂乱になっている。
両親は、必死で
非常に辛い光景だ。
「……真田殿」
「はい」
「今回の戦は、私が指揮を執っても構いませんか?」
「弔い合戦、ですか?」
「はい。失策の原因は、私にあります。私が尻拭いをしなければなりません」
「……分かりました。指揮権を移譲しましょう。これからは、私が家臣で輝宗様は、指揮官です。何なりとお申し付け下さい」
近衛大将が家臣になる。
前例の無い事だろう。
それを直ぐに認めた大河のフットワークの軽さに、謙信は微笑んだ。
(伊達の憎悪を戦に利用するのね)
最上許すまじ。
憎悪を溜め込んだ伊達兵は、一気に開戦を決意するのであった。
最上との絶縁の時である。
[参考文献・出典]
*1:車田商店 HP
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