第326話 天馬行空

 大河が好むのは、奇襲戦法だ。

 そもそも、今回の大義名分は、『邦人保護』。

 布哇王国とも敵対する意思も、侵略する気も更々無い為、宣戦布告無しに行く。

 ミッドウェー島から飛び立ったのは、零戦。

 旧日本軍が開発し、米軍から「零戦と戦う時は、必ず3機以上で戦う事」とマニュアルが作られた、とされた名機だ。

 本当ならば、F-14等を使いたい所だが、あくまでも今回は、日本流を出したい為、浪速同様、零戦が採用されたのである。

・山内一豊

・島左近

・宮本武蔵

・二宮忠八

 等が、操縦士となり、制空権を支配する。

「な、なんだあれは!?」

 突如現れた鉄の鳥にエドワード一派は、右往左往。

 零戦はテロリストと現地人を目視で区別し、前者を機銃掃射で文字通り蜂の巣にしていく。

「ぎゃあああああ!」

「ママ~!」

 太腿を撃ち抜かれた者、腹部に穴を空け臓物ぞうもつを拡散しながら暴れ倒す者……

 現場は、血の海だ。

 一方、現地人も最初、逃げ惑うも、以心伝心とはよく言ったものだ。

 操縦士が送った手話を理解した日系人が、現地語で現地人に通訳し、避難を始めた。

 捕虜や人質が押し込められていた強制収容所は、上陸した陸軍が順次解放していく。

 部隊を率いるのは、大谷平馬と雑賀孫六。

 空中戦は先輩に任せ、地上戦は後輩の役割だ。

「皆、栄養状態が悪いな」

「そうですね。物資を配給しましょう」

「だな」

 アウシュビッツの如く、強制収容所は、地獄絵図だ。

 子供達は首輪や足枷をされ、一部の女児に至っては、暴行の形跡がある。

 大人達も解放を喜ぶも、多くは、心が壊されたのか生気が無い。

 想像したくも無い悪魔の所業が行われていたのだろう。

「あんた達の行いには、感謝する。でも、ここは俺達の国だ。俺達も戦いたい」

「武器をくれ。王国を取り戻す」

 元捕虜のハワイ人と日系人が其々、言う。

 様々なポリネシアの人種で構成されたハワイ人に民族主義ナショナリズムが芽生えた瞬間だ。

 今はもう無いが、ユーゴスラビアも、第二次世界大戦の時も、同様の光景があったかもしれない。

 共通の敵、ナチスを倒す為に立ち上がったチトーの下に集まったパルチザンの様に。

 日系人も祖国は違うが、長い間住んで、日ノ本より布哇への愛着が大きくなったのかもしれない。

 第二次世界大戦中、日系人部隊が自身の出自である日本ではなく、アメリカを祖国として欧州で戦った様に。

 もっとも、後者の場合、アメリカは日系人を差別し、その多くを収容所送りにした恩知らずであるが。

 布哇王国は、有能な日系人に優しい。

「大谷殿、如何します?」

「許そう。復讐は、時に糧になる」

 大河を思い出す。

 上官は、殆どの場合、先制攻撃された後に逆転していた。

 恐らく、最初だけは寛容だが、自分の番になると。許さないのだろう。

 彼も復讐を糧に生きている、とも言える。

「諸君は、祖国を支配者から脱する、解放軍である。我が軍はこれより後方支援に徹する。良いな?」

「「「おー!!!」」」

 元捕虜達は、解放軍に転じた。

 元々、海賊に襲われる事が多く、住民の多くは自衛の為に日頃から訓練をしていた。

 徴兵制という訳ではないが、武器の扱いに長けているのは、大谷達としても、訓練する時間を短縮出来る長所がある。

「こちら、虎。収容所Aを解放」

『よくやった』

 通信機の向こうから大河が誉める。

『褐色の王女は居るか?』

「残念ながら……」

『分かった。看守は居るか?』

「山に逃げました。現在、山狩りをしています」

『現地人を案内人にしろ。聖域に入った場合は、深追いするな。現地人の言う事を聞け』

「は」

 神も仏も悪魔も信じぬ共産軍ならば、全土を火の海にしてでも壊滅させるだろう。

 然し、大河は、あくまでも現地人の伝統文化を尊重し、破壊は好まない。

 分ける事が出来る所は、分ける。

 それが大河のやり方であり、国軍真田隊にも浸透している。

「ですが、生き延びた者は如何するんで?」

『それは、布哇の神様が決める事だ。聖域の外に出てきたら殺せばいい。絶対に聖域を荒らすなよ?』

「は」

 2人の会話は、日系人が現地語に訳し、現地人に伝えられる。

「おいおい、変な物から声が出てたぞ?」

「それよりも、聖域に手を出さないのは、良心的だな。安心したよ」

「そうだな。安心して戦える」

 日本人も富士山や靖国神社が、攻撃されたら黙ってはいられないだろう。

 それと同じ事だ。

 聖域である以上、神罰は否定出来ない。

 郷に入っては郷に従え、である。

 現知人の士気が高まり、布哇王国解放軍は、斯うして組織されるのであった。


 部下達に仕事を押し付けえている様だが、大河もちゃんと仕事はしている。

 ミッドウェー島に設置された指揮所にて。

「小太郎、海賊の船、見付けたか?」

「はい。全部で300艘ありました」

「燃やせ」

「は」

 小太郎が、目配せすると、風魔の部隊が率いて消えていく。

 情報機関の頂点たる小太郎が、わざわざ前線に行く事は少なくなっていた。

 表向きは、『高位』だから。

 が、実際には、大河が、愛人である彼女を極力、遠い所に行かせたくない独占欲も理由だ。

 小太郎もそれを理解している為、極力、大河の傍からは、離れ様としない。

「兄者~泳ごう」

「応よ」

 お江に呼ばれ、大河は黒服を脱ぐ。

「「「わお」」」

 女性陣の視線を独占する。

 それもその筈、大河の肉体美は、まるで彫刻だ。

 ゴ〇ゴの様な痛々しい傷跡も相俟って、女性陣の心を強く刺激している事はいう迄も無い。

「大河、遠泳勝負し様よ」

「あ、私も参加する」

「私も」

 楠の提案に、謙信、誾千代が乗っかる。

 楠は、スクール水着。

 後の2人は、重力に逆らう豊満な胸部が刺激的な黒ビキニだ。

 大河の黒服に合わせたのかもしれない。

 対して、大河のは、競泳選手が使用する様な水着。

 好記録を連発し、問題視されたスピー〇・レー〇ーだ。

 この時点で大河は、ドーピングしている事になるが、3人は知らない。

 エリーゼが肩を揉む。

「貴方って負けず嫌いね?」

「男は狼。だから負けず嫌いよ」

 よく分からない理論を出しつつ、大河は、闘志を剥き出しにする。

 お遊びでは、相手に忖度し、負ける事はあれど、勝負事は、本気だ。

 シリアでも、不得意な癖に蹴球で本気になっていたのが、エリーゼには、懐かしい。

 デイビッドも応援する。

「だ!」

「おお、頑張るぜ」

 部下達が汗と血を流している手前、遊んでいるのは、心苦しいが、あくまでも、山城真田家の観光と、真田隊の武力行使は別問題だ。

 若し、国会で問題視された時は、

『観光していた時に用心棒である彼等が、現地と武装勢力と衝突し、済し崩し的に布哇の内政に関与してしまった。こちらとしても不本意である』

 と言い訳するのみだ。

 理論としては、少々無理があるが、別段、侵略行為ではない為、国際社会も非難し難いだろう。

 事が露見した場合に備えての遊びであって、決して、部下の事を忘れている訳ではないのだ。

 ……と、大河は、自分に言い聞かせつつ、勝負に臨むのであった。


・島を3周

・極力、沖合には行かない

・競技者に異変(例:溺れる、意識喪失等)があった場合には、競技者の同意無しに侍女が救出に向かう

 等と、細かい規則の下で行われた勝負であったが、結果は、当然、大河が本気を出した為、1着。

 その後は、

 2着:楠

 3着:誾千代

 最下位:謙信

 となった。

 “越後の龍”は、最下位に納得が行かない。

「皆、狡した?」

 3人は、首を横に振る。

「嘘。私、遠泳で負けた事無いんだけど?」

「多分、育児で体力が落ちたんじゃね?」

「……かもね」

 ずーんと、落ち込む。

 不謹慎だが、胸がタプタプ揺れる為、大河には眼福だ。

「兄者」

「若殿」

「ちちうえ」

「真田」

「真田様」

 其々、お江、与祢、華姫、朝顔、幸姫のきつい視線。

 お江以外は、発育途中の為、謙信に対する嫉妬心もあるのだろう。

「若殿、今、失礼な事考えていましたよね?」

「ちちうえ!」

 何故、思考がバレるのか。

 否、視線で気付かれたのかもしれない。

 男は、罪な生き物である。

 5人の中で取り分け、胸が慎ましい幸姫が問う。

「真田様、何故、胸ばかりに注目なされるです?」

 前田利家の娘だけあって、その迫力は凄まじい。

“槍の又佐”の娘が婚期を逃し続けたのは、巨人症以外にこれも理由なのかもしれない。

「又、失礼な事を考えていますね?」

「ぐげ」

 アイアンクローに遭う。

 腕力で成人男性の顔面を掴み上げる。

 辛うじて、息は出来るものの、本気を出せば喉輪の上、絞殺は可能だろう。

「もう一度、尋ねます。何故、胸に御注目を?」

「……」

 小太郎と鶫に視線で助けを求める。

 が、2人は、無情にも首を横に振るのみ。

 専属の用心棒である彼女達だが、負け戦を挑む程馬鹿ではない。

 静かに行く末を見守るのみだ。

「真田様?」

「……胸は、だな」

「はい」

「その大きさの良し悪しで、子供を育てる事が出来るか如何かを見る為、男性は、おっぱ―――胸に注目しがちなんだよ」

 生物学的根拠に基づき、説を披露する。

 無論、あくまでも説なので、胸を見るのは、各々によって理由があるだろう。

「成程。理解しました」

「じゃあ、解放してくれ。掌以外何も見えないんだが?」

「嫌です」

「ぐえ」

 そのまま砂浜に叩き付けられた。

 背中が痛い。

「いってーな。畜生が―――」

「若殿は、反省が足りない様です」

 何故か笑顔の与祢がシャベルを持っていた。

「……与祢、さん?」

「一度、罰を与えないと若殿の御病気は治らないかと」

「さぁ、皆、やるわよ」

「「「応」」」

 朝顔の号令の下に女性陣は集い、シャベルで砂を掬う。

そして、大河の体にかけ始めた。

「……まじですか?」

 阿国が申し訳なさげに言う。

「変態には、生き埋めが適当かと」

 ……数時間後、大河は首だけ地上に出す羽目になっていた。

「だ!」

「ふふふ。これも一興ね?」

「ばーか」

 累にポカポカと殴られ、お市に頭を撫でられ、楠に足蹴りされる近衛大将。

 他の女性陣は、しつけに飽き、キャッキャウフフと水遊びに夢中だ。

(畜生、後で夜這いしてやる)

 煮えたぎる怒りを隠しつつ、大河は甘んじて受け入れるのであった。

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