第325話 信天翁ノ冬

 昭和16(1941)年12月8日。

 午前7時。

 ♪

『臨時ニュースを申し上げます。

 臨時ニュースを申し上げます。

 大本営陸海軍部、12月8日午前6時発表。

 帝国陸海軍は、本8日未明、西太平洋においてアメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入れり。

 帝国陸海軍は、本8日未明、西太平洋においてアメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入れり。

 今朝、大本営陸海軍部からこの様に発表されました』

 ♪

 ……

 同日正午。

『只今、宣戦の御詔勅が渙発かんぱつせられました。

 精鋭なる帝国陸海軍は、今や決死の戦いを行いつつあります。

 東亜全局の平和はこれを念願する帝国のあらゆる努力にも関わらず、遂に決裂の止む無きに至ったのであります。

 過般来、政府はあらゆる手段を尽くし、対米国交調整の成立に努力して参りましたが、彼は従来の主張を一歩も譲らざるのみならず、かえって英蘭比と連合し、支那より我が陸海軍の無条件全面撤兵、南京政府の否認、日独伊三国条約の破棄を要求し、帝国の一方的譲歩を強要して参りました。

 これに対し帝国は、あくまで平和的妥結の努力を続けて参りましたが、米国は何ら反省の色を示さず、今日に至りました。

 もし帝国にして彼等の強要に屈従せんと、帝国の権威を失墜、支那事変の完遂を切り得たるのみならず、遂には帝国の存立をも危殆きたいに陥らしむる結果となるのであります。

 こと此処ここに至りましては、帝国は現下の時局を打開し、自存自衛を全うする為、断固として立ち上がるのやむなきに至ったのであります』

 ……

 同日午後0時半。

『我が海軍航空隊の大編隊がハワイのホノルルに対して最初の空襲を行いました。

 我が海軍航空隊の大編隊がハワイのホノルルに対して最初の空襲を行いました。

 ホノルル発同盟。

 日本海軍航空隊の大編隊は、ハワイ時間7日午前7時35分、日本の今朝3時5分、ホノルルに初の空襲を開始しました。

 ニューヨーク発同盟。

 ホノルルからのUP電報によれば、真珠湾西方のバーバーポイント沖に、日本軍を乗せた輸送船の影が認められたと伝えております。

 次はワシントン発同盟。

 木材を積んで太平洋を航行中のアメリカ陸軍の輸送船は、サンフランシスコを去る1300海里の水域で魚雷攻撃を受けたという事であります。

 繰り返します。

 ワシントン発同盟。

 木材を積んで太平洋を航行中のアメリカ陸軍の輸送船は、サンフランシスコを去る1300海里の水域で魚雷攻撃を受けたという事であります―――次はバンコック発同盟至急報。

 タイ国駐箚ちゅうさつの帝国大使館は、昨日午後11時、日本人の婦人、子供達の帰還命令を発しました。

 そこで婦人、子供達380名は直ちにムスイ桟橋に集合、今日明け方乗船し出発しました。

 次、南洋のアメリカ領グアム島も、我が軍の包囲の中で目下、盛んに燃えております。

 サンフランシスコ発同盟。

 サンフランシスコに達した情報によれば、グアム島は目下、日本軍の包囲下にあり、燃料タンク及びホテルは目下延々として燃えているということであります。

 繰り返します。

 南洋のアメリカ領グアム島も、我が軍の包囲の中で目下、盛んに燃えております』

 ……

 同日午後3時。

『次は南京発同盟。

 支那派遣軍総司令官、今日0時半発表。

 アメリカ、イギリスとの開戦は帝国の自尊自立を全うせんとする努力と、最後的決断たると共に、東亜をイギリス、アメリカ覇道の束縛より開放して、新秩序を建設せんとする東亜民族の誓いであり願いであり、また支那事変の必然的発展なり。

 派遣軍は支那大陸における、イギリス、アメリカ側の敵性を断固せん除し、南方作戦に呼応して重慶側に対する封鎖隔絶を徹底し、益々戦力を統合発揮して、敵交戦力の撃退に努め、もって蒋介石政権の壊滅を期す。

 日華両国民は派遣軍の決意と実力とに依頼し、断固、重慶側の策動を排撃し、相携えて興亜の宣揚に精進し、もって一意歴史的偉業の完成に邁進せん事を望む。

 支那派遣軍総司令官はこの様な談話を発表致しました』

 ……

 同日午後5時。

『次に東京地方逓信局からのお知らせであります。

 東京地方逓信局からのお知らせ。

 東京地方逓信局管内の方に申し上げます。

 東京地方逓信局管内の方に申し上げます。

 いつでもラジオを聞ける様に昼間も送電致します。

 いつでもラジオを聞ける様に昼間でも送電致します。

 ラジオのスイッチは点けっ放しにしても、要らない電灯、不要の電灯は出来るだけ節約する様に願います。

 それから先程のをもう一つ繰り返しますと、尚、今晩7時から詔書の奉読と東条総理大臣の、「大詔を拜し奉りて」の全国民への放送を録音によりまして再放送致します。

 今晩7時からで御座います。

 ラジオの設備のある御家庭は勿論の事、劇場、映画館、食堂等でもラジオにスイッチを入れて、全国民がこの放送をお聞き下さる様に願います。

 只今時刻は5時14分であります』

 ……

 午後7時。

『大本営陸海軍部午前11時50分発表。

 我が軍は陸海軍緊密なる共同の下に、今8日早朝、マレー半島方面の奇襲上陸作戦を敢行し、着々戦果を拡張中なり。

 大本営陸海軍部の発表であります。

 タイ国方面。

 我が軍はタイ国に侵入したイギリス軍を撃退、掃討中であります。

 我が軍はタイ国の侵入したイギリス軍を撃退、掃討中であります。

 タイ国駐箚ちゅうさつの帝国大使館当局では、今朝より次の様な談話を発表しました。

 イギリス軍は今日早暁、突然マレー国境を突破し、侵入を開始せり。

 日本は南太平洋の平和維持とタイ国の独立維持につき、タイ国政府と交渉を開始すると共に、タイ国の独立を救う為、直ちにこれを反撃。

 イギリス軍をタイ国外に掃討しつつあり。

 タイ国駐箚の帝国大使館では、この様な談話を発表しました。

 フィリピン方面。

 大本営陸軍部午後5時発表。

 我が陸軍飛行隊は今日8日早朝来、フィリピン方面の要衝に対し空襲、甚大なる損害を与えたり。

 大本営陸軍部午後5時の発表であります。

 次、マニラ発同盟によれば、日本空軍は今日、ダバオを襲い、港湾施設と飛行場を爆撃したと伝えられますが、目下、マニラ・ダバオ間の電話が不通の為、詳しい事は分かりません。

 マニラ北方340㎞の地点にあるジョン・ハイが日本軍によって爆撃されたとの報道もあります。

 次はサンフランシスコ発同盟。

 ダバオからの情報によれば、日本空軍は今日午後0時50分、フィリピンのダバオに対し、第2次空襲を加えました。

 香港方面、陸軍航空隊は、香港北方の敵飛行場で敵機12台を焼き払いました』

 ……

 午後9時。

『午後8時45分、大本営海軍部からこの様に輝かしい大戦果が発表されました。もう一度申し上げます。

 帝国陸海軍は今朝、西太平洋において一斉に行動を開始しましたが、早くもかくかくたる戦果を挙げ、海軍航空隊はハワイ空襲において確実に敵の戦艦2隻を撃沈、戦艦4隻を大破、大型巡洋艦およそ4隻を大破せしめ、更にグアム島の空襲では軍艦ペンギンを撃沈致しました。

 大本営海軍部午後8時45分発表。


 1.

 本8日早朝、帝国海軍航空部隊により決行せられたるハワイ空襲において、現在迄に判明せる戦果次の如し。

 戦艦2隻撃沈。

 戦艦4隻大破。

 大型巡洋艦約4隻大破。

 以上確実。

 他に敵飛行機多数を撃墜撃破せり。

 我が飛行機の損害は軽微なり。


 2.

 我が潜水艦はホノルル沖において航空母艦1隻を撃沈せるものの如しも、未だ確実ならず。


 3.

 本8日早朝、グアム島空襲において軍艦ペンギンを撃沈せり。


 4.

 本日敵国商船を捕獲せるもの数隻。


 5.

 本日、全作戦において我が艦艇に損害無し。

 午後8時45分大本営海軍部からこの様に輝かしい大戦果が発表されました』(*1)

 

 朝から晩迄、大ニュースの連続だ。

 映画『トラ・トラ・トラ!』では、史実に即して、攻撃対象は、軍人のみで、『パールハーバー』の様な民間人を狙った殺傷は、事実ではない。

 あっても、日本側の情報伝達のミスで、民間の施設を軍事施設と誤認され、攻撃に遭い、死傷者が出たが、兎にも角にも各操縦士には、誤爆及び誤射が無い様、厳行に攻撃目標が定められていた様である(*2)。

 その為、9・11の際、アメリカの一部の報道機関が、「21世紀の真珠湾」等と報じたが、虚偽報道で反イスラム主義拡大の印象操作に一役買った、と言えるだろう。

 奇しくも、日本時間12月8日。

 浪速は、布哇ハワイ近くのミッドウェー島に着岸。

 ミッドウェー海戦で日本勝利後、『水無月島』と改名される予定であったが、ハワイ州に近く、その一部と思う日本人も多いだろうが、行政上、合衆国領有小離島に分類される。

 人口は、約60人(2014年)。

 1867年8月28日。

 日本では中岡慎太郎が陸援隊を組織したその日に、アメリカ人が上陸し、米領と宣言。

 日本との関係も長い。

 1897年前後からアホウドリ捕獲を目的として日本人が北西ハワイ諸島に進出。

 日本政府内ではミッドウェー島の借り入れ問題が検討された。

 1900年、海底電線敷設敷設調査の為に派遣されたアメリカの調査船がイースタン島に日本人が居住しているのを発見。

 これを受けてアメリカ政府は日本に対して島の主権確認の申し入れを行い、日本側は主権を主張する意思はないと回答した(*3)。

 自然保護の観点から、現在は、一般人の上陸は難しいが、島内にミッドウェー海戦の慰霊碑(*1999年6月設置。『滄海よ眠れ』と彫られた小さな慰霊碑)がある関係から、日本の海上自衛隊の艦船が立ち寄る事がある(*4)。

 布哇王国が領有していない為、1番手の日ノ本が、その権利を主張出来るだろう。

 本土から遠いが、イギリスがフォークランド諸島(西名:「マルビナス諸島」)を領有している様に、領有権に地理は関係ない。

 日章旗を月の星条旗の如く、掲揚後、大河は指示を出す。

「平馬、ここを調査しろ。布哇王国に主権の確認及び政府に報告するから」

「は」

「左近、弥助。明朝、出撃しろ。俺は、陸から攻める」

「「は」」

 16世紀のトラトラトラが行われ様としていた。


[参考文献・出典]

*1:NHK 戦争証言アーカイブス

*2:ゴードン・ウィリアム・プランゲ『トラトラトラ - 太平洋戦争はこうして始まった』 訳:千早正隆 並木書房、2001年 新装版

*3:平岡昭利『アホウドリと「帝国」日本の拡大 南洋の島々への進出から侵略へ』明石書店 2012年

*4:ウィキペディア

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