第318話 亭主関白

 幸姫に続き、新たにお市が妻に加わった事で、山城真田家では、祝宴が行われる。

 城内の宴会場で、女性陣とその実家の代表者が集う。

 織田家代表:村井貞勝(織田信孝の代理)

 徳川家代表:稲姫  (徳川家康の代理)

 前田家代表:前田慶次(前田利家の代理)

 大友家代表:立花道雪(大友宗麟の代理)

 等。

 本当は、親類縁者を多く集めて盛大に祝いたい所だが、生憎、会場にそこまでの余裕が無い。

 喜びの舞踏を披露するのは、阿国だ。

 宝塚にある歌劇団の団長だけあって、そのレベルは高い。

 アプト、与祢、珠の3人もバックダンサーとして日頃の練習の成果を披露する。

 燕尾服の大河の両隣には、文金高島田で着飾った幸姫とお江が。

「「……」」

 2人共、恥ずかしそうに俯いている。

 披露宴の料理は、バイキング形式。

 皆の好き嫌いに合わせての事だ。

「だー」

 累は、不満げ。

 又、父親が女を増やした、とでも言いたげだ。

 大河の膝に座り、彼の腹部をポスポスと殴る。

「おお、祝福してくれるのか? 嬉しいな」

 能天気な大河は、累をおひめさま抱っこ。

「……」

 むすっとしているが、おひめさま抱っこされるのは、嬉しいらしく、耳が赤い。

「貴方、今日は私達が主役なんだけど?」

「知ってるよ」

 同意しつつ、お市を抱き寄せる。

「主役は、君達だ。累、新しい御母さん達だよ?」

「だ!」

 お市達には、猫を被る。

 山城真田家内でのを赤子ながら、理解している累は、長生き出来るだろう。

 身の振り方を知っているのは、大きい。

「何なら抱っこし様か?」

「もう、馬鹿♡」

 苦笑しつつ、お市は、大河と密着。

「……」

 幸姫も無表情で倣う。

 よくよく考えたら子供を冷遇する男の方が嫌だ。

 そんなのだったら、何れ自分達の子供も虐待するかもしれない。

 山城真田家での1番の勝者は、累だろう。

 大河からも義母からも可愛がられるのだから。

「だー!」

「貴女、意外としたたかね?」

 橋姫の突っ込みも何処吹く風。

「♪ ♪ ♪」

 鼻歌混じりにジュースをグイグイ飲む累であった。


 アラスカを日ノ本の版図に加えた事により、アラスカは飛び地となった。

 現代で例えるならば、ロシアが有するカリーニングラード州の様な事だ。

 当然、超大国・日ノ本の北米上陸は、欧米列強に危機感を抱かせた。

 モンロー主義の様な栄光ある孤立を選んでいる日ノ本だが、欧米列強には、二枚舌に見えている。

 その証拠に中国大陸を欧米列強に事実上、譲渡した癖に、新興国・イスラエルとの友好関係は、維持し、イスラエルには、日ノ本の基地が駐留している。

 表向きは、『在留邦人の保護』だが、実際には、中国大陸の監視だろう。

 又、アラスカに関しても北米支配を目指す欧米列強には、が否めない。

 その為、北米も日ノ本の影響下にある、と言わざるを得ない。

「サトー、真田サナダという男は、平和主義者の面をした侵略者なのか?」

「は。自分もその様に感じます」

 ロンドンの宮殿に居たサトーは、相対する女王と目を合わす事が出来ない。

 余りにもおそれ多いからだ。

 目を合わさないのは、不敬とも解釈出来るだろうが、一介の外交官には、難しい。

 女王も分かっている為、不問だ。

 女王の近くに居る首相が、溜息を吐く。

「香港を手に入れた事は、国益に叶うが、アラスカを奪われたのは、非常に残念だ。ロシアを挟撃出来る好機を失ったんだからな」

 イワン雷帝の治世で英露は、激しく対立していた。

 穏健派の息子が後を継いだ為、当時よりかは、友好関係にあるが、後世にチャーチルが、『同盟国など存在しない。我が国以外は、全て仮想敵国である』と発言した様に、イギリスは自国以外、信用していない。

 だからこそ、香港やインド等を支配下に治め、世界帝国へ邁進しているのだ。

 当然、それを目指すには、何れ日ノ本との武力衝突も検討しなければならないが。

 同盟国が何れ、水面下では、対立し合っている。

 まるで、枢軸国の勝利に終わった『高い城の男』の大日本帝国とナチスの様な未来だ。

 首相が問う。

日ノ本ジャパンの軍事力は、如何程か?」

「は。空を覆うばかりの鉄の鳥、巨大な鰐を彷彿とさせる様な戦車等、我が国はおろか、欧州でも見た事が無い最新兵器の数々で、正面から戦えば、ロンドンは、30分も持たず制圧されるでしょう」

「「「……」」」

 居並ぶ閣僚達は、沈黙する。

 見た事は無い最新兵器だが、わざわざ欧州まで派兵してユダヤ人を救出した日ノ本の事だ。

 簡単にドーバー海峡を越えてイギリスに上陸出来るだろう。

 ナチスは空爆までしか出来なかったが、日ノ本は、確実に上陸出来る能力を有している。

 イギリス政府が想像する仮想敵国の筆頭だ。

「……」

「……サトー、他には、何か言いたい事はあるか?」

「はい。真田は、確かに“雷帝”の様な残虐な一面を持ち合わせています。然し、約束を反故しなければ、はしません」

「つまり、義理堅い性格?」

「はい。これまで、真田が、敵対した相手は、真田を敵視したり、暗殺を謀った者達ばかりです。我が国にも友好的で同盟が成立した時は、喜んでいました。その友好的な感情を北米及びアジア進出に利用すればいいかと」

「ふむ……」

 首相は外務大臣に視線で問う。

 女王の手前、言わないが、

黄色人種イエローを信用しろ?』

 と。

 イギリス―――というか欧州では、日ノ本の拡大に伴い、黄禍論が噴出していた。

 モンゴル帝国が、ポーランドまで来て殺戮を繰り広げたのだ。

 あれから数百年経ったが、今でも欧州には、黄色人種に対する恐怖心と嫌悪感が残っている。

 キリスト教を信じぬ異教徒があれ程強かったのだ。

 白人の自尊心がズタズタに切り裂かれた事は言うまでも無い。

 外務大臣が提案する。

「日ノ本には、これまで通り不干渉。若し、支配を目指すのであれば、真田が居なくなった時だ」

「大臣、真田は、まだ20代前半ですよ?」

「……少なくとも今世紀中には、無理だな」

 外務大臣は、肩を落とす。

 日ノ本は、地政学上、太平洋進出の要。

 日ノ本を拠点にハワイ等、オセアニアを支配したいのだが、大河の若さからすると、自分達が生きている間は、ほぼ不可能だろう。

「では、こうしよう。今、フランスと獲り合っているカナダを緩衝地帯にし様。フランスも日ノ本との敵対は、望むまい」

「そうだな」

「賛成」

 閣僚から異論は出ない。

 目下の目標は、植民地支配。

 無理に日ノ本と敵対し、ズタボロに敗れる位なら、嫌々だが、友好関係を継続するしかないだろう。

「サトー、報告よくやった。何れは、外務大臣の要職ポストを期待しておくんだな?」

「は。有難き幸せ」

 深々と頭を下げるも、サトーは、首相に対し、舌を出す。

(こんな国の外務大臣なんて真っ平御免だ。日ノ本で最新兵器を観察する方がよっぽど楽しいわ)

 大河並に二枚舌なサトーであった。


 再来日後、サトーは、大河に話を振る。

「緩衝国ねぇ」

 提示された地図を見て、大河は呟く。

 現在のカナダとアラスカの国境線の様に、綺麗に線引きされていた。

「フランスは、承諾しているのか?」

「最初は、嫌がっていたが、最終的には、貴国との外交を重視し、折れた。カナダは、誰の物でもない独立国だ」

「……」

 緩衝国、というのは、大国同士が衝突を防ぐ為に設ける国家の事で、有名所では、植民地時代のタイ(イギリス、フランス)、東欧共産圏(西側諸国と東側諸国)等が挙げられる。

 カナダは、その点で言えば、緩衝国に該当しない。

 然し、カナダの支配を目指すフランスとイギリスが、激しく争っているので、その火の粉が何れ日ノ本領アラスカに飛び火しても可笑しくない現状を見ると、その提案は、実りあるだろう。

「カナダから両国は撤退するのか?」

「ああ。ただ、ケベックにはフランスが駐留し、それ以外は、我が国の移民が住む。表面上は、英連邦だ」

「……よく、フランスは受け入れたな?」

「カナダの独立は許したが、その中身までは、未確定だ。これから詰める予定だ」

「……そうか」

 日ノ本との敵対を恐れ、一致したのだが、細かい所は棚上げした為、両国の対立は、解決した訳ではない様だ。

(ケベック問題か……火種だな)

 大河は、将来の問題を考えるのであった。

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