第319話 露往霜来
大河が妻を増やす間、茶々、エリーゼ、千姫は、育児に忙しい。
「猿夜叉丸、御父上が女を作ったわよ? 貴方は、何人までにするの?」
「だ」
「デイビッド、将来は、イスラエルの首相を目指すのよ?」
「だっ」
「元康は、山城様の女癖以外は、学ぶのよ?」
「だ!」
3人は、ママ友達である。
子育てに悩めば、相談を行い、一緒に解決する。
時折、一緒に買物にも行くくらい仲が良い。
一時は恋敵であったが、今では親友だ。
「大河とは、最近、抱かれてる?」
「全然」
「こっちで手一杯ですわ。エリーゼ様は?」
「私もよ。まぁ、育児優先だけどね?」
妊娠前は、女であった彼女達だが、今では、母だ。
3人は、現代の価値観だと『セックスレス夫婦』に該当するだろう。
その定義は(*1)、
『特殊な事情が認められないのにも関わらず、カップルの合意した性交或いはセクシュアル・コンタクトが1か月以上も無く、その後も長期に渡る事が予想される場合』
その定義に照らした場合、日本の夫婦の32%がセックスレスで、1年以上性交渉のない夫婦は全夫婦の2割である(*2)。
アメリカにおいては性交渉が1年に10回を下回る夫婦をセックスレスとし、20%の夫婦が当てはまる(*3)。
セックスレスになると、浮気に走る場合がある、とされる(*4)。
欲求不満で他人との交わりを求めるからだ。
浮気対策の為にも、夫婦は心身共に繋がらなければならない。
幸運にも、この城には沢山の侍女が居る。
アプト、珠、与祢も居る。
彼女達に子供達を任せて、大河と寝るのも良いだろう。
「いっそ、3人で攻め込んじゃう?」
「良いですね」
「じゃあ、育児は、アプト達に任せましょう」
エリーゼの提案に、2人は乗っかる。
「「そうましょう」」
三人寄れば文殊の知恵。
3匹の狼が、大河に迫っていた。
3人の母親が謀議している間、大河は、休みを利用して逢引だ。
今日の相手は、
・朝顔
・楠
・阿国
・松姫
・お市
・幸姫
の6人。
本来は新妻以外4人の予定だったが、急遽、正妻に加わった為、追加メンバーとして決まったのだ。
朝顔を肩車し、お市と幸姫は、其々右手と左手を確保している。
「「「……」」」
残りの3人は、好機を伺っていた。
流石に上皇の次に肩車されるのは、荷が重い。
なので、自然と狙うのは、手だ。
一方、新妻達も折角得た好機を見す見す手放す気は無い。
「真田、右」
「はいよ」
大河は、上皇に手動で操作されている様に、右を向く。
一行が楽しんでいるのは、ウィンドウショッピングだ。
右側に並んでいるのは、宝石店。
買う気は無いが、見るのは楽しい。
朝顔と大河が宝石を見る中、新妻達は、左側の服屋から目が離せない。
「「……」」
マネキンが、ドレスを着ている。
背中が大きく露出したバックレスドレスに、カクテルパーティーに相応しいカクテルドレス……
色とりどりのワンピースも。
これらは、戦国時代には無かった
エリーゼが発案し、
どれだけ売れても、大河達には、権利料として店舗毎によって違うが、大体売り上げの約10%が入って来る様になっている。
公務員が副業するのは、問題あるが、名義がエリーゼの為、問題無い。
日ノ本の経済は、山城真田家が回していると言っても過言ではない。
ここで幾ら爆買いしても、
「宝石って初めて見たわ」
「意外だな」
「皇室は、倹約だからね。文献で知っても、実際に見るのは初めて」
「そうか。じゃあ、記念に1個買うよ」
「! 良いの?」
「良いよ」
「何かおねだりしたみたいで御免ね?」
「全然。どれがいい? 皆も選び」
「「「「「……」」」」」
5人合わせて10個の目玉がぎょろり。
服飾より宝石だ。
楠が不思議そうな顔で問う。
「大河、この『
「そりゃあ、『
「へー」
分かった様な分からない様な顔。
宝石を初めて見る為、余り良く分からない様だ。
大河も宝石に興味が無い為、それ位の知識しか無い。
「折角だし、御留守番の皆にも買おう」
総額1億円。
倹約家の大河が妻達の為に大盤振る舞いしたのは、その後、都民の評判になったという。
愛妻家だが、部下には甘くないのが大河だ。
今日は、久し振りに基地に顔を出し、訓練を視察する。
「……」
黙り込んだ大河に新兵は、震え上がった。
皆、緊張し、ミスを犯す。
ある者はランニングで転倒し、ある者は射撃で的を外す。
「小太郎、馬鹿共を集めろ」
「は」
暫くすると、大河の目前に新兵が集まった。
その後方には、中堅やベテランが並ぶ。
現在、集まる事が可能な約100人だ。
「「「……」」」
全員、今にも泣きだしそうな位である。
「訓練教官の真田である。話し掛けられた時以外口を開くな。口で糞垂れる前と後に『サー』と言え。分かったか? 糞共」
「Sir, yes, sir!」
「糞が! もっと大声出せ! 金玉落としたか!」
「Sir, yes, sir!」
「馬糞共が。俺の訓練に生き残れたら各人が戦士になれる。人間扱いされたければ馬糞から昇格しろ。糞共が。分かったか?」
「Sir, yes, sir!」
「もっと! 大声出せ!」
「Sir, yes, sir!」
恐ろしい程の無表情で、大河は、坊主頭の前に立つ。
「禿、名前は?」
「茶々丸二等兵です!」
「本日より『金玉』と呼ぶ。良い名前だろ?」
「Sir, yes, sir!」
2人目の前へ。
2人目は、”金玉”より冷静そうだ。
「何故志願した?」
「殺す為です!」
「殺し屋志願か?」
「Sir,Yes Sir!」
「じゃあ、実習だ」
手足を捥がれた死刑囚が、全員の前に連れて来られる。
殺し屋志願は、躊躇う。
今まで1人も殺した経験が無いから。
大河は、彼の顎を掴む。
「殺し屋の顔をしろ」
「……え?」
「それで殺せるのか? 馬糞が」
罵倒直後、大河は、ベレッタを取り出し、死刑囚の頭を撃ち抜く。
躊躇いは無い。
連行されて来て数秒の命であった。
「……!」
「気概無し。練習しとけ。牛糞が」
ハー〇マン軍曹並の教育だ。
中堅以上は、トラウマで泣きそうになるが、新兵は恐怖で涙しそうだ。
新兵の前には、慣れさす為に死刑囚がどんどん物を扱うかの如く、蹴り出されていく。
罪状は、
・強盗殺人
・暴行殺人
・連続殺人
・無差別殺人
等、何れも現代の司法でも死刑に値する凶悪犯ばかりだ。
戦国時代には、統一された司法が無かった為、量刑は各地の領主次第であったが、中央集権体制が確立された今は、全土で同じ法律が適用されている。
死刑囚は規則通り、死刑執行されれば良いが、大抵は人体実験の被験者になったり、この様に新兵の訓練に回されている。
死刑制度がある現代の国々では、殆どの場合、三権分立が成されている為、
日本でも、執行人は、刑務官だ。
戦前もそうだったが、二・二六事件等の特殊な
「「「……」」」
新兵は、尚も躊躇う。
然し、入隊した以上、軍人だ。
高給であり、国民から尊敬される職種である。
拒否すれば、敵前逃亡と解釈され、最悪、軍法会議に回されるかもしれない。
大河をチラ見するが、彼は何も言わない。
無言の
暫く沈黙後、大河は呟く。
「出来なければ出来なくても良い。ただ、その場合は向いていなかった、という事だ。これまで教育にかかった費用は、返金してもらう。後は無罪放免だ」
「「「!」」」
軍人は、特別国家公務員の為、月給は破格だ。
装備も個々に合わせた物で経費は馬鹿にならない。
その為、試験に合格した以上、退路は無いのだ。
「「「……」」」
新兵に、高額の借金が圧し掛かる。
恐ろしい事に国費である為、例え逃げても、死ぬまで追いかけて来る。
完済するには臓器売買か、
パワハラの様だが、大河の方が論理的である。
誰1人、反論を唱える事が出来ない。
「……糞!」
意を決した”金玉”が、サーベルを抜いて、胸を突く。
それを皮切りに他が続いた。
用意された死刑囚は、どんどん執行されていく。
「教官、如何です? 今の新兵は?」
「腰抜け共だよ、左近。精神を病まぬ様、配慮しつつ、教育しろ」
「は!」
これが、国軍真田隊が最恐たる所以であった。
婦女隊も見る。
男女平等に兵隊になれる事が出来る為、女性兵士も多い。
「「「や!」」」
男性の場所とは違って汗臭さが無い。
香水でも振るっているのだろうか。
長居したい気分だが、同伴者の与祢が怖い為、興奮した感情を悟られては駄目だ。
文字通り、背後の一突きに遭うから。
楠が、命じる。
「近衛大将・真田大河に敬礼!」
「「「は!」」」
自衛隊や米軍等では、掌が下向きだが、国軍では、掌を見せる。
これは、相手に敵意が無い事を見せるイギリス式を大河が採用した為だ。
この敬礼は、イギリスやインド等で見られる。
「うむ。よく準備出来てるな」
男性と違って、女性には、優しい。
フェミニスト―――という訳ではなく、女性の教官は、楠だからだ。
「猫部隊は、成長しています」
「分かった」
猫部隊とは、イスラエルのカラカル大隊を模範にした特殊部隊だ。
カラカル大隊は女性兵士が戦闘要員を含む構成員の多くを占める事で知られる。
2009年以降、所属兵士の約7割が女性となっている。
2000年にカラカル大隊の前身となる部隊が女性兵士の直接戦闘への参加機会を減少させる目的で組織され、2004年にカラカル大隊として正式編成された。
部隊はその後、エジプトとの国境地域の哨戒任務に就く様になり、2005年のガザ地区からの入植者撤退計画にも投入された。
翌年にはカラカル大隊所属の少尉が女性として初めて、イスラエル国防軍の狙撃小隊の指揮官となった。
アラブ系にも門戸を開いており、2010年には女性兵士がアラブ系として初めて、戦闘部隊であるカラカル大隊に戦闘員として配属された。
2012年9月21日には、エジプトとの国境付近でカラカル大隊の兵士とテロリスト集団との戦闘が発生した。
銃撃戦となり、カラカル大隊の女性兵士が爆発物を身につけたテロリストを射殺した。
2014年10月には、カラカル大隊の哨戒車両がエジプト国境付近で不審な行動を行っている集団の調査に向かった際に銃撃及び対戦車ミサイルによる攻撃を受け、2名の兵士が負傷した。
負傷者の内1名は女性大尉で、彼女は車両から投げ出され傷を負ったが、自動小銃で応戦し1名を射殺した。
この事件は当初テロリストによるものと考えられたが、その後の調査で麻薬密輸組織によるものと判明し 。
徴兵制度によりカラカル大隊に配属された女性兵士は、通常2年間の兵役任務に就く(男性は3年間)。
最初に4ヶ月間の基礎訓練が行われ、基礎体力作りの他、タボール自動小銃を始めとする各種武器の取り扱い等を習う(*5)。
楠の頭を撫でる。
「にゃはは。
「良いんだよ」
部下の前でも関係無い。
(((良い夫婦だ)))
婦女隊が、羨望の眼差しを送っていた事は言うまでも無い。
[参考文献・出典]
*1:日本性科学会
*2:2004年度の厚生労働省と日本家族計画協会の共同調査
*3:全米保健社会生活調査 1994年
*4:探偵G セックスレスは浮気の最大の原因!夫も妻もレスによる欲求不満から不倫 2016年9月23日
*5:ウィキペディア
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