精金良玉

第311話 光風霽月

 万和3(1578)年10月。

 すっかり秋も深まった頃、山城真田家では家族会が行われていた。

 家族会とはその名の通り、家族が集まる行事なのだが、山城真田家では意味合いが違う。

・織田家

・徳川家

・上杉家

 等、名家が嫁入りしている為、山城真田家の家族会は、その一門と大河のみが会食する重要な行事となっている。

 今回は、上杉家が集まっていた。

・謙信(妻)

・景勝(義弟)

・華姫(元養子)

・累 (実子)

 と、上杉家は、山城真田家の中で一大勢力を誇る。

 上杉派と言っても良いだろう。

 これは、

・お市

・茶々

・お江

・お初

・猿夜叉丸

 の織田家に次ぐ、多数派と言え様。

 家庭内でも民主主義を採用している為、妻達の実家にとっては、子が増える事は即ち、山城真田家を支配出来る事を意味している為、休養日以外は毎日、妻が迫っている。

 昨晩も、珠、阿国、松姫、楠を同時に抱いた程だ。

「昨日は、何回したの?」

「10回」

「もう依存症じゃないの?」

「そうかもな」

 頷きつつ、大河は、謙信を抱き寄せる。

 昨晩あれ程交わった癖に、今日は謙信に興奮しているのは、何とも業が深い事だろうか。

「だ!」

 訳注:父上は、絶倫!

「お、その年でその言葉を覚えたのか? 流石、我が娘やで」

 累を抱き上げ、頬擦り。

 愛妻家にして親馬鹿な大河であった。

 累にバナナジュースを飲ませてあげる。

「ほら、これ吸い」

「だ?」

「『ストロー』って言うんだよ? 丁度良い大きさだから」

「……」

 訝し気な表情だが、大河の勧めに累は乗る。

 ストローを咥え、吸い込む。

 直後、

「!」

 にぱぁ、と幸せ顔。

 お気に召した様だ。

「ちちうえ、これってあのおおきさにですよね?」

「お、流石、華だな? よく気付いた」

 褒めつつ、華姫を膝に乗せる。

 華姫も累同様、嬉しそうな顔だ。

 日本のストロー史は、明治34(1901)年頃、岡山県浅口郡寄島町(現・浅口市)で川崎三一が麦稈ばっかんを使って始めたという(*1)。

 然し、ここでは大河がスマートフォンで調べた作り方を平賀源内に教え、事業として成立させていた。

 約300年先の技術を導入させた為、大河はその発明者として、権利を持っている。

「……」

 ―――大きさ、とは?

「俺が作らせたこのストローの直径は、乳首の大きさに合わせているんだよ」

「「「!」」」

 華姫以外の3人は、驚いた。

 日本マクドナルドの創業者・藤田田(1926~2004)は、以下の様に語っている。

 ―――

『人間が口の中に物を吸い込む時に、最も美味しいと感じる速度は、母乳を吸う速度なのである。

(それを実現する為、)マクドナルドのストローの直径のXmmミリメートルというのは企業秘密になっている。

 もっとも、御計りになれば判ってしまうが、シェイクを母乳の速度で吸い込む為に、あの大きさに作られているのである』(*2)

 ―――

 男女共、赤子の時は、母乳で育つ。

 その時の幸せな思い出で深層心理で働き、より美味しさを感じさせているのかかもしれない。

「……」

 ―――成程。

 感心した景勝は、何度も頷く。

 好色家だが、商才はあるのは、家計的に助かる事である。

 何だかんだで、大河はユダヤ人や客家人の様に商売が上手い。

 茶屋四郎次郎の様な商人としても大成功を収めていたかもしれない。

「……! ……! ……!」

 驚いたままの表情で累は、ちゅっちゅと吸っている。

 驚愕1割、美味9割と言った所か。

「累、焦らずとも誰も奪わないから、ゆっくりな?」

「だー♡」

 良い子良い子と、頭を撫でると、累は気持ちよさそうに目を細める。

 彼等の前に並んでいるのは、

 

・鮎の味噌焼き

 新潟県佐渡地方では、流木をたいて石を熱した上に佐渡味噌を塗り、そこに鮎をのせて焼く。


沖汁おきじる

 すけとうだらのぶつ切りを入れた味噌汁。

 元々は漁師が船上で作った料理だが、船上で作った場合は沖汁おきじると言い、陸に戻ってからの呼び名は『納屋汁』となる。

 *納屋=舟や網等の漁師道具を収納している小屋。


春子唐鮨かすごからずし

 背開きにして骨を除いた春子鯛カスゴダイを酢漬けにし、その腹に砂糖と塩で味つけしたおからを詰めて、軽く押しをかけたもの。

 *春子鯛=真鯛の幼魚の事で、単に『カスゴ』『カスコ』とも。

 ・川煮かわに

 新潟県村上市の郷土料理。

 採れたての鮭をすぐに厚さ10㎝程度の輪切りにし、味噌汁を大鍋でひと煮立ちさせた中に入れて1時間程煮る。

 これを、わらむしろの上に並べて、4~5日程度放置して身を閉め、食べる時は皿に盛りつけて、おろし生姜と醤油を添える。


献残けんさん焼き(献餐焼き)

 焼いた握り飯におろし生姜を混ぜた甘味噌を塗って、更に焼いた物(胡麻味噌、柚子味噌等でも可)。

 そのまま食べる他、茶碗に入れて熱い番茶や湯を注ぎ、焼き御握り茶漬けの様にもする。

 又、焼き味噌とおろし生姜を、焼いた握り飯の上に乗せて番茶をかける所もある。

 その名の由来は、献上品の残りを使った説、雑兵が剣の先に刺して焼いた「剣先焼き」が訛った説がある。


子皮煮こがわに

 鮭を使ったり流し汁。

 鮭の身と白子少々を擂鉢でよく擂りながら出汁で伸ばし、鍋に塩、酒、醤油を入れて煮立てた所に、これを流し込んでセリを散す。

 元々、漁師が作る料理で、鮭の身をかわごとっていた事から、この名が残っているという説がある。


・鮭のさか浸し

 村上市の名物料理。

 かちかちに干した鮭の塩引きを薄く削ぎ、酒又は味醂みりんに浸した物で、酒の肴向き。

 塩引きは、たっぷりの塩を鮭にすり込んで1週間程置き、水洗い後、頭を下にして吊るしながら翌年の夏迄持ち越して作る。


・酢豆

 主に正月用の料理として作られる豆の酢漬け。

 一晩、水につけて少し歯応えが残る程度に煮た青大豆を酢、醤油、酒、砂糖を合わせた液に漬け込んで作る。


・鱈の親子漬け

 柏崎市の郷土料理。

 塩をした後、酢締めにして細く切った鱈と、茹でて水洗い後、酢、砂糖、薄口醤油で煎り煮した鱈の子に、千切りした木耳キクラゲ、生姜を混ぜて甘酢に10日間程漬けた物。


氷頭ひずなます

 北海道、青森、岩手、新潟等、鮭が獲れる地方の郷土料理。

 場所によっては作り方は異なるが、薄切りにした氷頭、大根、人参を甘酢で和え、鮭卵いくら等を散らして彩を添える。

 *氷頭=鮭や鯨の頭部にある軟骨。

     氷の様に透き通っている所から。

     コリコリとした食感が持ち味。


・わっぱ飯

 調味して炊いた御飯をに詰め、魚介類、錦糸玉子、柚子等の具を乗せた物。

 *わっぱ=檜等の薄い板を曲げて作った「曲げ物」の一種で、弁当箱に多くに使われている(*3)

 

 と、越後国(現・新潟県)の郷土料理だ。

 大河が余りに越後に詳しくは無いが、謙信達がよく食べる事もあって、郷土料理に関しては、詳しい。

「沖汁、ウマー♡」

 (゚д゚)ウマー

 ↑こんな顔で体を温めていると、謙信は笑顔で密着する。

「貴方って、結構、美食家ね?」

「そうか?」

「ええ。色んな料理、美味しそうに食べるから」

 京料理やユダヤ料理等、妻の出身地の郷土料理が、山城真田家では、輪番制で作られている。

 その為、小説家・北大路魯山人(1883~1959)並の美食家(*4)になったのかもしれない。

「苦手な物とかある?」

「弱点は、例え妻でも教えないよ」

「相変わらず変な所は、秘密主義ね? 好色は隠さない癖に」

「それとこれとは別だ」


 インドネシアの初代大統領、スカルノについて、以下の様な逸話が残されている。

 彼が訪露した時、KGBが御得意の色仕掛け《ハニートラップ》を行う。

 その方法は、至って簡素。

 好色家な彼の部屋に女性達を送り込んで、その愉しんでいる様子を盗撮したのだ。

 それをネタにKGBは、脅し、欲しい情報を得様とする。

 が、天下のKGBもスカルノを甘く見ていた。

 脅迫されたにも関わらず、スカルノは、「国の皆に見せたいから、フィルムの複写が欲しい。国民は私を誇りに思うだろう」と言い放ったからだ(*5)。


 泣く子も黙るKGBを豪胆に退けた政治家は、早々居ないだろう。

 スカルノが、敬虔なキリスト教徒、又は、インドネシアが、不倫に厳しい現代日本の様であったら大問題となっていただろう。


 実際に75代首相・宇野宗佑(1922~1998)は、平成元(1989)年6月3日に首相就任の僅か3日後に愛人問題が浮上。

 但し、捏造説あり(*6)。 

 宇野首相が無回答を貫いた事により、女性の支持層が離れ、翌月の参議院選挙では大敗。

 8月10日に退陣(=首相在任69日)するという、日本の政治史上、類を見ない短命政権となってしまった。

 インドネシアと日本。

 同じアジアに属しながら、対照的な結果である。

 言わずもがな、大河はスカルノ・タイプだ。

「累、火傷するなよ?」

「だ!」

 *注釈:食べさせて!

「全く甘えん坊さんだなぁ♡」

 フーフーしつつ、沖汁を飲ます。

 華姫が、後継ぎを辞退した為、事実上、累が山城真田家の後継ぎである。

 人数的には、織田派に遅れを取る上杉派だが、この優越アドバンテージは大きいだろう。

 だからこそ、謙信も景勝も累を必要以上に大切に育てている。

『獅子は我が子を千尋の谷に落とす』『可愛い子には旅をさせよ』ということわざがあるが。

 大事な後継ぎである以上、危険を冒したくないのが、謙信の考えだ。

 子煩悩な大河も同じで、決して、累を留学などはさせたくはない。

 本人が希望すれば、熟考の余地はあるが。

「あ」

 *注釈:父上の頬に御飯粒、ついてるよ?

「まじか」

「だー♡」

 *とってあげる♡

 累が舐めとる。

「お、累からチューされちゃったぜ♡」

 大河は、嬉しそうにお返しに累の頬に接吻。

「だ!」

 もう完全にバカップルにしか見えないだろう。

「あ、累。駄目よ。父上を寝取っちゃ」

「ちちうえ、よくじょーしちゃだめですよ?」

 謙信と華姫が、両側から迫る。

「考え過ぎだろ―――あ、痛い! つねらないで!」

 両側から頬をぐにゃりとされ、大河は涙目に。

「見境なしに娶る馬鹿の癖に」

「そーそー」

 2人は、腕を組んで頷き合う。

 絶縁した仲なのだが、朝顔が仲裁に入って以降、2人は、仲直りしている。

 それが如何なく発揮されるのは、こういう時だろう。

「……景勝、助けて」

「……」

 ―――自業自得です。

 景勝にさえ、見捨てられ、大河は、仕方なく龍と虎をなだめるのであった。

(どうしてこうなった?)


[参考文献・出典]

*1:飲料用・工業用・医療用 各種ストローメーカー シバセ工業株式会社 HP

*2:『Den Fujitaの商法2 天下取りの商法』藤田田 KKベストセラーズ 1999年

*3:日本料理、会席・懐石案内所 一部改定

*4:『朝日新聞』朝刊2020年1月13日

*5:人に話したくなる雑学がいっぱい! 雑学トリビア王【KGBのワナにはめられなかったスカルノ氏の才知】

*6:岩見隆夫『総理の娘 知られざる権力者の素顔』原書房 2010年


 

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