第260話 右文左武

 京都新城の敷地内には、

・浅井家

・上杉家

・島津家

 等、大河に嫁入りした各家の屋敷がある。

 それらは江戸時代で言う所の藩邸の様な役割を担っており、上洛した地方の戦国武将が泊まったり、長期出張で滞在した場合に使用される事が多い。

 当然、これらは人質の役割も暗に意味しているのだが、名君の呼び声高い大河の居城内という事なので、意外にも人気がある。

 浅井家の屋敷に入ると、旧家臣団が、玄関で平服していた。

「大将様の御成り~」

 相撲の呼び出しの様な声と共に和太鼓が打ち鳴らされ、歓迎の広州踊りを披露。

 お市達も釣られて踊る。

 キャッキャッと、嬉しそうだ。

 唯一、外様な大河は、手拍子で合わすしかない。

「今日、御訪問されると聞いて急いで御準備した次第です。ごゆるりと御寛ぎ下さい」

 家臣団は、浅井氏滅亡の際に共に崩壊した為、主要人物は残っていない。

 史実で語られている有名人は、以下の通り(*1)。

 ……

海北綱親かいほうつなちか(1510~1573)

 浅井三将の1人。

 浅井亮政、久政、長政の3代に仕えた重臣。

 浅井家が織田信長と敵対して以降、羽柴秀吉とも戦い、その実力を賞賛された。

 小谷城が落城した際に、討死。


赤尾清綱あかおきよつな (1514~1573)

 浅井三将の1人。

 綱親同様、浅井氏3代に仕えた重臣。

 浅井家代々当主からの信任熱く、小谷城の中には『赤尾曲輪』なる、清綱の住まいもあった。

 浅井家滅亡時に討死又は、処刑された。


雨森清貞あめのもりきよさだ(? ~?)

 浅井三将の1人。

 久政の代から浅井家に仕え、主要な合戦でも活躍していた様だが、生没年等も含め、詳しい事績や人物像も分かっていない。


 ・磯野員昌(? ~1578?)

 浅井家を代表する猛将。

 姉川の戦いでは、信長の本陣を目指し突撃。

 13段構えだった織田軍の陣中の11段までを崩す大活躍を見せた。

 柴田勝家、羽柴秀吉、池田恒興等、織田家を代表する武将を次々と蹴散らしていったこの伝説は『員昌の姉川十一段崩し』と呼ばれている。

 浅井家滅亡後は織田家に仕えるも、信長の怒りを買い追放された。


 ・遠藤直経えんどうなおつね (1531~1570)

 長政の傅役もりやく(= 養育係の)を務めた。

 長政からの信頼も、非常に厚かったと言われている。

 姉川の戦いで、竹中半兵衛の弟(竹中重矩)と激突し、討死。


 ・阿閉貞征あつじさだゆき(1528? ~1582)

 浅井長政の家臣として姉川の戦い等でも活躍したが、小谷城落城時に信長に寝返った武将。

 織田家の家臣として活躍するが、本能寺の変で信長が討たれると明智光秀に味方した。

 その後、羽柴秀吉に光秀が破れ、一族諸共追討された。


 ・宮部継潤みやべけいじゅん(1528? ~1599)

 元々は比叡山の僧侶であったが、後に長政の家臣となった人物。

 浅井家と織田家の溝が深まると、羽柴秀吉の調略に応じ寝返り。

 その後も秀吉家臣として活躍し、九州征伐では猛将・島津家久を破る等の活躍を見せた。


 ・渡辺了 《わたなべさとる》(1562~1640)

 阿閉貞征に仕えた武将。

 武勇に優れ”槍の勘兵衛”と称された。

 後に信長の四男で秀吉の養子となった秀勝に仕え、賤ケ岳の戦い等でも活躍。

 関ケ原の戦いでは西軍に味方し、居城の大和郡山城を守備。

 ……

 この異世界では、雨森清貞、磯野員昌、阿閉貞征、宮部継潤、渡辺了の5人が存命だが、家臣団のまとめ役は、渡辺了だ。

 彼以外は、裏切り者や他家に仕官した為、今更、浅井家に帰る事は出来ない。

「大将様のお陰で浅井家は、御覧の通り、復活出来ました」

 21歳で浅井家の事実上の長なのは、荷が重い事だろう。

 現代感覚だと大学3年生の年齢で近江国を管理しなければならないのだ。

「有難う。楽しませてもらうよ」

 作り笑顔で、大河は、4人と共に私室に入る。

 浅井家を復活を許し、旧領を回復させた大河を彼等は、教祖の様に崇めている。

 老婆は手を合わせ、子供達も緊張した面持ちだ。

 大河としては、あくまでも妻達の願いを叶えただけであって、彼等の事など一切考えていなかったが、これは、棚からぼた餅であろう。

 民主主義には、民の支持が必要不可欠。

 一揆等起こされたら、経済的でも治安面でも短所しかない。

 言わずもがな、アプト等侍女の他、小太郎達も一緒に来ている。

 然し、正妻とは当然の様に階級が違う為、隣室で待機だ。

 一応、浅井家は、親類縁者となった訳だが、彼女達は武装を解かない。

 大河が近衛大将として、又、山城真田家当主として当然の事だろう。

「真田様、長男ですよ」

「あい~」

 猿夜叉丸は、大河に会釈。

 生後4か月だというのに、天才だ(親馬鹿)。

 養子に出した筈なのに。

 会わない、と決めていたのに。

 いざ、対面すると、大河もニヤニヤが止まらない。

「お父さんだよ?」

「あい」

「御免な。養子に出して」

 0歳児を大人同様接しつつ、抱っこする。

「将来、浅井家を頼むな?」

「……」

 大河の言葉を一言一句聞き逃さまいと、傾聴している。

「真田様、まだ赤子ですよ?」

「でも、当主だ。重荷だが、当主である以上、期待しないとな」

「……」

「猿夜叉丸、弟と妹、どっちが欲しい?」

「あい~」

「妹?」

「……」

 こくりと、頷く。

「じゃあ、頑張ろうかね」

 笑顔で、お初とお江を片腕で抱き寄せる。

「真田様、私は?」

「まずは、育児優先だ」

 茶々の額に接吻し、愛を証明すると、

「もう……♡」


[参考文献・出典]

 *1:日本の白歴史

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