第256話 京都講和
欧州を二分した大戦は長期化すると思われたが、開戦後、数日で両陣営に
イギリス、スペイン、双方植民地経営を優先させたい為、戦費が嵩む戦争には経済的な長所が無い。
更にスペインは日本海海戦後、衰退しているが、それでも大帝国である事は変わりない。
イギリスも長期戦で共倒れを望まず、スペインの植民地の一部を
アコーディオン戦争の様に、激しい一進一退の攻防により、1日の死者数が、両陣営合わせて10万人を超える等していたが、日ノ本が仲介役になった事で終戦が見えて来た。
「この度、仲介役になって頂き、有難う御座います」
サトーが、日本式に御辞儀する。
「首相には、感謝しかありません」
「利益が無ければ、我が国としても動きませんよ」
贈呈されたステッキを眺めつつ、信孝は、嬉しげに答える。
日英は日西戦争後、急速に接近している。
両国は、
・立憲君主制
・島国
・列強
と、類似点が多く、大河も親英派という事もあり、国交樹立後、交流が盛んだ。
2人は、葡萄酒を乾杯。
「改めてお聞きしますが、貴国は、本当に植民地経営に御興味無いんですか?」
「はい。忠臣から止められていまして。『実行するなら謀反を起こす』と」
「大変ですね」
謀反を宣言した家臣を「忠臣」と呼ぶ辺り、限られてくる。
そんな平和主義的な侍は―――。
「真田殿ですか?」
「はい。全く困った家臣ですよ」
と、言うが信孝は、笑みを絶やさない。
元来、性格の良い人物なので、植民地経営には、内心、反対派なのかもしれない。
「真田とは、長い付き合いで?」
「はい。月1で飲む仲です。まぁ、これでも減った方ですが」
昔は、週1ペースであったが、朝顔と結婚後、醜聞を気にした朝廷より、様々な禁止令が出ている。
・恋愛(厳密には、不倫)
・国営放送以外のテレビ局及びラジオ局
・海外旅行
・スキー
・自動車運転
・過度な御洒落(染髪、半ズボン、半袖シャツ、髭、刺青等)
・立ち食い
・斜め横断
・風俗街出入
と、歌のお●いさん並にガチガチだ。
「あの男は、底知れませんね?」
「そうですね。私としては、”一騎当千”を戦慄させる奥方の方が、より恐怖を感じるが」
「同感ですね」
2人の耳にも、女性陣の恐妻振りは、漏れ伝わっている。
・大河の背中の皮を剥ぐ
・就寝中に襲う
・時には、平気で
あくまでも噂話なので何処まで真実かは分からない。
然し、大河が必要以上に配慮している所を見るに、少なくとも真実味があるだろう。
「真田を操作出来るのは、奥方だけですよ」
「そうですね。だからこそ、我が国も彼女達に贈答品を送っていますよ」
紅茶を事ある毎に贈り、山城真田家の食糧庫は、紅茶で一杯だ。
女性陣も気遣いの集団らしく、届く度に御礼状と返礼品の御茶(村上茶、宇治茶等)で礼儀を示している。
この様なやりとりも、大河が親英派である一因なのかもしれない。
「何処の国も女性は、強いですね?」
”処女王”を連想しつつ、サトーは苦笑いするのであった。
そのエリザベス1世だが、意外な事に大河と文通している仲だ。
『大西洋の”無敵艦隊”撃破及び諸都市での勝利、おめでとうございます』
英軍が欧州で連戦連勝を重ねる間、送られてきた手紙を、何度も何度も女王は見返す。
「……」
これ程綺麗な筆記体のアジア人は、これまで見た事が無い。
又、文面から非常に律儀な性格である事が分かる。
手紙には、サトーからのもある。
『―――真田大河という男は非常に好色家ですが、その反面、軍人として優れ、人格者として慕う者も多いです。
以前、内戦が起きた際、彼が演説すれば、
又、日ノ本が島国から出てこない孤立主義を重んじる外交政策も、彼の進言が大きく影響しています。
日ノ本が中国大陸に進出せず、又、我が国の香港支配を黙認したのは、我が国としても幸運でした。
軍事力に優れ、過去、モンゴル帝国を神風で撃退し、近年では、ロシア皇国やスペイン、清を破った日ノ本との敵対は我が国が進めている植民地経営を失敗させる恐れがあります。
中国大陸全域を支配下に治めても、日ノ本には、この男以外に自然災害の短所もあり、その上、キリシタンも少なく、宗教勧誘も政府の厳格な監視下でしか行えない為、植民地には、不向きでしょう。
日ノ本には、我が国が進めている『栄光ある孤立』の非対象国と思われます。
これが、私が見た日ノ本の姿です』
女王は、想う。
(……同盟、か)
史実での栄光ある孤立は、19世紀後半、大英帝国の非同盟政策を象徴する言葉だ。
但し、この言葉が実際に用いられたのは、。史実では、19世紀後半だ。
だが、この世界線では、ヘンリー8世(1491〜1547)が幾度と無く、結婚と離婚を繰り返した事を契機に、イギリスは、キリスト教社会から孤立していた。
彼の代の1534年に英国聖皇会が成立。
宗教的に独立を果たしたイギリスとしては、ローマから破門されても痛くも痒くもない。
まさに19世紀の様な、『栄光ある孤立』、我が道を歩んでいるのであった。
災害対策についての報告もある。
『日ノ本は、地震が多いですが、最新の技術によって巨大地震にも耐え得る建築技術を開発し、更に津波にも対応した災害対策を行っています。
それに対し、我が国では地震が稀な事に甘んじ、日ノ本程の対策は、講じていません。
イタリアやトルコ等、世界各地には、日ノ本同様、地震が多い国々があります。
災害は、植民地経営には、非常に赤字である為、災害対策は、日ノ本から学んだ方が適当かと思います』
イギリスでは、滅多に地震が起きない。
現代でも、日本で言う所の震度1でもトップニュースだ。
又、昔、震度1級の地震があった際、1が死亡した記録もあるの。
日本人からすると、大災害の目安は、震度6以上だろうか。
震度1は、気付くさえ難しい為、それで死者が出るイギリス人と、震度4位でも平然としている日本人の間には、災害に対する慣れに大きな差があると、言わざるを得ない。
「首相、どう思う?」
「はい」
畏った表情の首相が、玉座の前へ。
「サトーは、優秀な外交官の為、これは、我が国の対日基本外交方針、又、地震多発地域の経営には、非常に有意義な意見だと思います。外務大臣他も賛成者多数で、今後は、サトーを知日派の専門家として、重宝して行く予定です」
「分かった。後、これは、提案なんだが、真田という男に興味がある」
「は?」
「日ノ本の外務省を通じて、招待状を。友好の為にも会う必要がある」
「それなら、相手は皇帝と首相にも?」
「そうなるな。無論、日程調整が必要だろう。時期は、未定で良い。日ノ本の都合に合わす」
「は、はい!」
会議場のざわめきは、止まらない。
不安ではなく期待から。
日露戦争の際、ロシア軍が誤ってイギリスの民間の船を誤射した。
その際、大河は、一早くイギリスに哀悼を表明したのだ。
更に加害者ではないにも関わらず、生存した被害者と家族を失った遺族に対し、多額の見舞金を送った。
その結果、国内で親日感情が沸騰。
ロシア大使館が焼き討ちに遭ったり、ロシア船の航行を禁止する為に海軍が北海を閉鎖。
この結果、バルチック艦隊は、元々の寄港地を失い、長く過酷な航海をしなければならすま、日ノ本と対峙した際は、既に厭戦気分が漂い、士気も引くかった。
それを日ノ本が徹底的に叩き、歴史上、有色人種が白人を破った戦史に残る大戦となったのだ。
これにイギリスも一枚噛む事が出来た為、政府内部にも親日派は、多い。
人種差別主義者でさえ、日本人を「名誉白人」と呼ぶ程だ。
大河が渡英するのか、エリザベス1世が来日するのかは、分からない。
然し、日英外交史が、大きく進んでいる事だけは、確かであった。
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