第246話 仙姿玉質

 大河が仕事中の間、幼妻や幼子は、遊ぶ。

 と、言ってもみだりに外出は、流石に出来ない為、米沢城(現・山形県米沢市)内で、

・囲碁

・将棋

蹴鞠けまり

 と言った事位しか出来ないが。

「エリーゼ様、上手い~」

 お江は、両目をキラキラさせて、拍手する。

 エリーゼが披露しているのは、リフティング。

 蹴球サッカーが好きなので、お茶の子さいさいだ。

 お江の他に朝顔、お初、阿国、与祢、珠も注目している。

 朝顔は、褒め称える。

「”しゅうせい”ね」

 後世の蹴鞠書に”蹴聖”と称されたのが、藤原成通(1097~1162)である。

 彼には、こんな話がある。

 ―――

『成通は蹴鞠庭に立つ事7千日、内2千日は連日蹴り続けた。

 1千日休まず蹴鞠をする千日行を達成した日、蹴鞠仲間を集めて祭式を行った。

 庭に二つの棚を用意し、一つには毬を300個余り、もう一つの棚には御幣ごへい等の飾りを置いた。

 毬を蹴り、地面に落ちる事の無い技を見せた後、御幣を取ってまりに捧げて礼拝し、その後、祝宴を開いた。

 その夜、成通が日記を書こうと墨をっていると、棚から毬が転がり落ちて成通の前で止まった。

 よく見ると顔は人間、手足体は猿の童子3人が毬を抱えて立っていた。

 驚いた成通が問い質すと、自分達は毬の精であり、千日行の御祝いと祭式の供物の御礼に現れたと言い、其々それぞれに前髪を掻き上げ、額に金色の文字で書かれた各名、

・「しゅんよう

・「あんりん

・「しゅんえん

 を見せた。

 その毬の精達によると、人が蹴鞠をしている時は毬にき、しなくなると柳の林に戻ると言い、

「人々が蹴鞠を愛好する時代は国も栄え、良い人が政治をし、福がもたらされも、寿命も長く、病気も無い。

 又、人心は絶えず思い乱れるものだが、蹴鞠愛好者は庭に立てば毬の事だけ考えるので心が軽くなり、輪廻転生にも良い影響を及ぼす縁が生まれ、功徳も進む」

 と説いた。

 更に、蹴鞠の時、名前を呼べば何時でも参上して奉仕するが、木を伝って参るので木の無い庭毬は好まない事、斯ういう者が居る事を心掛けてくれれば守護する事を告げ、再び消えてしまった』(*1)(*2)

 ―――

 その名前(夏安林=アリ)、春陽花=ヤウ)、桃園=オウ)が鞠を蹴る際の掛声になったと言われている。

 この三猿は蹴鞠の守護神として現在、大津の平野神社と京都市の白峯神宮内に祭られている。

 順徳天皇の『禁秘抄』の中でも「末代の人の信じがたい程の技芸」と書き記され、


・清水の舞台の欄干の上を鞠を蹴りながら何度も往復した


・従者達を並ばせてその頭や肩の上でリフティングをしたが、従者達は誰も気付かなかった


 等の逸話が残っている。

 信憑性は分からないが、激賞されるのだから、相当巧かったのだろう。

 上皇に褒められたエリーゼは、その場にひざまずき、

「有難き幸せです」

 飛鳥寺の近くにあるつき(現・欅)の木の広場の開催された蹴鞠の会で、中大兄皇子が、鞠を蹴る勢いで飛ばしたくつを中臣鎌足が拾い、差し出した事を契機に大化の改新の合図となった。

 2人は、それ程親しくは無いが、蹴鞠愛好家としての共通点はある。

「エリーゼ、教えて下さる?」

「は。何なりと」

 欅の下でエリーゼによる蹴鞠講座が始まったのであった。

 

 誾千代、謙信、楠は、子守りしていた。

「だー」

「これ、私? 美人に描いてくれて有難う」

 累の描く水墨画に3人は、メロメロだ。

「もー、わたしのほうがうまいのに」

 ライバル意識を燃やすのは、華姫。

 累に負けない様に描くも、3人は、累を贔屓してしまう。

 赤ちゃんが可愛いのは、仕方のない事だろう。

「華様も御上手ですよ」

 味方は、アプト位。

 只、彼女は、稲姫と共にデイビッドと元康の子守りをしている為、時々、適当感が否めない。

(……これも全部、父上が悪い)

 何故か、大河に怒りの矛先が飛び火するのであった。


 茶々、千姫、お市、松姫の4人は終わりの夫をしていた。

 輝宗との会議後、大河は部屋から出てくる。

 用心棒兼愛人の3人を伴って。

「真田様」

「おお、待っててくれていたのか?」

 大河は、先頭に居た茶々を抱き上げる。

 直後、千姫達を見た。

「有難うな。待っててくれて」

「はい♡ 楽しみにしていました」

 千姫は、笑顔で応え、

「……」

 お市は、無言で寄り添う。

 そして、大河の頬を見た。

 自分の所為で穴を開けたのだ。

 気にするのは、当然であろう。

 橋姫が、桃色のナース服を着て、出現し診る。

「大分、塞がってきたわね?」

「……何で桃色?」

「安らぎを与えるし、何より萌えるでしょ?」

 人は、色に様々な影響を与えられている、とされる(*3)。

 ―――

・桃色

 心理的影響:安らぎ・喜び、「女性の服」という印象。

 身体的影響:視床下部一帯の刺激、内分泌系の活性化、回復を象徴。

 

・青色

 心理的影響:落ち着き・冷静・冷たさ(寒色)。

       「男性の服」という印象。

 身体的影響:鎮静作用、発熱・火傷・血圧上昇を抑える。

       広さや時間的な落ち着きの演出。

・緑色

 心理的影響:生命力、健康、癒し、落ち着き、安らぎ。

 身体的影響:血液循環や副甲状腺分泌の促進ウイルスの抑制。

       目の疲労回復、緊張の緩和。


・黄色

 心理的影響:陽気、元気、楽しさ。

 身体的影響:生体機能の活性化、貧血防止。


・赤色

 心理的影響:生命力、愛情、情熱、熱、暖かさ。

       「女性」を心象させる色。

 身体的影響:心身の活性化、食べ物の消化、寒さの改善

 ―――

 橋姫の狙い通り、萌えた大河は、満足そうだ。

「今度は、皆にも着て欲しいな」

「あら、仮装宴会。良いですね?」

 千姫も乗り気だ。

 外国から服飾を輸入している山城真田家では、アメリカンポリス等の仮装も可能である。

「……」

 盛り上がる中、唯一、静かなのが、お市だ。

 今尚、大河を傷付けた、と気にしているのであった。

 は、大河が無事であった事であり、又、悪いのは、狙撃手であって、お市に何の非が無い事は割り切っている。

 が、その配慮が、尚更、お市を気にさせていた。

「……真田様、私は―――」

「言うな。離縁しない」

 お市の手をしっかり握り、離さない。

 若し、離縁が成立した場合、彼女は、恐らく、生き場所を失う。

 前夫に続いて、民に人気のある大河を狙撃させてしまった原因がある為、「結婚すれば、夫を不幸にする女」と見られている可能性が高い。

 そんな女性は、例え、日ノ本一の美女であっても、娶る男性は、少ない、と思われる。

 男性が快諾しても男性側の家族が猛反対するかもしれない。

 行き着く先は、尼寺か織田家に帰り、信長同様、隠居の二つに一つであろう。

「松、後で心を看てくれ」

「はい」

 松姫も心配そうだ。

 大河の優しさに涙しそうなお市。

「しょうがないな」

 笑顔で何度か頷くと、直後、

「市」

「!」

 接吻され、お市は、思わず、逃げ様とする。

 今は、そんな気分じゃない。

 が、大河は、逃がさない。

「……」

 抵抗していたお市であったが、徐々にその気力を無くしていき、遂には、だらんと、手足を垂れ下がる。

「……」

 年下に蹂躙され、お市は、心迄支配される。

 惚けた所で、大河は、漸く離れた。

 然し、お市を解放する訳ではない。

 誰にも奪われない様に、更に更に強く握手する。

「母上、真田様を困らせないで下さい。幾ら母上でも嫉妬しますよ」

 苦言を呈しつつ、大河の頭頂部にチョップを叩き込む。

「ぐへ」

 奇声を上げた後、大河は気絶した。

 それでも、お市を離さない。

 気絶しても尚、愛の深さが伺える。

 茶々と千姫が、支える。

「奥方様、主を何方へ?」

「「制裁」」

 2人は、冷え切った笑顔で答えて、大河(+お市)を温泉宿に連れて行く。

 松姫も参加する為、付いていく。

「「「……」」」

 3人は、大河の無事を祈る事しか出来なかった。


「……」

 家政婦の様に華姫を隙間から覗く者が居た。

「どうだ? あれが、華様だ。美人だろう?」

 一緒に居るのは、輝宗。

 除き魔・政宗の実父だ。

「美人ですね?」

「だろう?」

 謙信に育てられた華姫は、見事な越後美人に育っている。

 越後国は、昔から美人の産地として知られている(*4)。

 ―――

・歴史的な理由

 昔、日本有数の花街として栄えた地域。

 そこで働く為に近辺から美人が新潟に集まったとされる。


・気候的な理由

 日照時間が短く(その分気温は低いが)、湿度が高い事が挙げられる。

 紫外線は「お肌の敵」という程肌に悪いので、紫外線の注ぐ時間が短いだけでも肌にとっては良い環境と言える。

 湿度が高ければ肌も潤うので、結果、美肌の美人を保つ事が出来る。


・日本酒も影響?

 日本酒の生産量・摂取量共に多い。

 その日本酒に含まれるコウジ酸は、染みやほくろの原因となるメラニン色素の生成を抑えるとされており、コウジ酸の配合された化粧品もある。

 ―――

 謙信とは血縁関係が無いが、越後国出身である以上、美人になる運命は、逆らえなかったのだろう。

「……」

「惚れたか?」

「はい」

 長時間は危険な為、2人は、を閉じる。

「……ですが、真田様は、非常に親馬鹿と聞きます。御婚約、御許し下さいますかね?」

「そうだな。交渉は、長期化するだろうが、我が家の安泰には、真田家が必要不可欠だ」

「……」

 大河に妻を送る事に成功した武家―――徳川家、島津家、信濃真田家……皆、政権の要職に就き、国政で活躍している。

 公私混同を嫌う大河が人事権を掌握しているか如何かは不明だが、少なくとも政権内部での影響力は、絶大である事は確かだろう。

 その為には、山城真田家との婚約は、伊達家にとってまさに生命線だ。

「今後、長い付き合いになると良いな」

 現代程自由恋愛が一般的ではないこの時代、親同士が決めた許嫁による結婚は、よくある話だ。

 史実でも、豊臣秀頼と千姫が、豊臣家と徳川家の為に婚約した。

 現代感覚で言えば、「可哀想」と思うかもしれないが、夫婦仲は良かったという。

 彼等以外にも、

・明智光秀&煕子

・前田利家&まつ

・山内一豊&千代

・豊臣秀吉&寧々 (自由恋愛)

 等、鴛鴦夫婦は数多い。

 非自由恋愛=可哀想、というのは、正答とは言い難いのだ。

「……」

 武芸ばかり頑張って来た政宗、初めての恋である。

 和歌をしたためる。

『夕暮れは 雲のはたてにものぞ思ふ 天つ空なる人を恋ふとて』(*5)

 ―――『夕暮れの雲を眺めては、ぼんやり物思いに耽っています。手の届かぬ所に居る高貴な恋人を思って』(*6)


[参考文献・出典]

*1:『成通卿口伝日記』

*2:『精霊の王』中沢新一 講談社学術文庫 2018年 第1章 謎の宿神

*3:なんでも揃う専門店 ユニフォームタウン HP

*4:にいがた就職応援団CAREER HP

*5:読人知らず 『万葉集』

*6:四季の美


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