第225話 佳人才子
最近、妻達に配慮し、影が薄くなった橋姫だが、彼女は彼女で大河を独占していた。
「如何、御父さんは?」
「う~ん。女性にだらしない感じ」
橋姫が居るのは、仮想空間。
会話しているのは、大人になった累、デイビッドだ。
謙信同様、長身でボーイッシュな見た目の彼女は、続ける。
「母上は寛大だけど、私は、あそこまでになれるかは、分からないわ」
「真面目だなぁ」
苦笑いしたのは、デイビッド。
日以混血だけあって、日本人の平面的な顔立ちをしている。
外見は、大河に似て童顔だ。
が、エリーゼの様なモデル体型でもある為、両親の特徴を色濃く受け継いでいる。
因みにこの記憶は、成長と共に忘却していく為、2人が終生、覚えている事は無い。
子供には幽霊が見えたり、前世の記憶を持っていたりする不思議な能力が兼ね備えいる場合がある。
これが、それだ。
「累、本気で御父上様の事、好きなの?」
「恋か如何かは、分かりかねますが、父上が他の女性と居ると、心が苦しくなります」
「そうかぁ……」
「累姉」
デイビッドが、真剣な眼差しを向ける。
「流石にそれは、応援出来ないぞ?」
それは、
その歴史は、古い。
古代ユダヤの王族アグリッパ2世とベレニケの兄妹は殆どの時間を宮殿の中で一緒に過ごした。
血を分けた兄妹が常に一緒である事から、近親相姦の関係にあったとされている(*1)(*2)。
又、ユダヤ民族の創世神話にもそれは、描写されている。
民族の出自とされるアブラハムと異母妹がそれだ。
アブラハムは異母妹との間には中々、子供が生まれなかった為、妻の女奴隷であるハガルにイシュマエルを産ませたのだが、後に妻との間に息子が生まれた為に、ハガルとイシュマエルは母子共に追放されたとされている。
尚、イスラム教徒の伝承では、イスマーイール(イシュマエル)の子孫が後のアラブ人の主体となったと伝えられている。
旧約聖書偽典(エチオピア正教会正典)『ヨベル書』には、カインの妻は妹アワン、セトの妻は妹アズラであったと記されている(*3)。
異母弟として、異母姉の恋を応援した所だが、デイビッドは、首を横に振る。
「流石に実父は、やめといた方が良い。折角、御父上の御蔭で家が平和なのに、娘が横恋慕だと確実に家は、傾く」
「……分かってるよ」
橋姫は、デイビッドをじっと見る。
「何です?」
「話し方、声、顔、本当に大河とそっくりだね?」
「親子ですから」
自慢の父親と似た事にデイビッドは、嬉しそうだ。
「割礼されたけど、その辺は、如何?」
「仕方ないですね。伝統ですから」
この歳で、デイビッドは、現実を受け入れていた。
色んな宗教を学ぶ
他宗教にも寛容になる様、育てるだろう。
「ユダヤ教ってのは、大変ね。食事制限もあるし」
「唯一神は寛大ですから、日ノ本までは見ていないでしょう」
あははは、と笑う。
現代でも来日したイスラム教徒が、豚カツ等を知らず知らずの内に食べてしまい、その結果、ドはまりしてしまう事例が見受けられる。
敬虔な信者は、自制するが、食欲に負けた一部のイスラム教徒は、デイビッドの様な言い訳をして食べる事がある。
デイビッドは、超正統派の様にはなれないだろうが、良い意味で宗教が適当な日本人には好かれ易いだろう。
「橋様は、御父上の事は?」
「そりゃあ好きよ」
累の質問に、橋姫は、照れつつ答えた。
「父上も寛大ですから、御婚約なさればいいのに」
「全然。もう人員充足だから。それに唯一の女性友達ってのも良いから」
顔が広い大河だが、異性の友達は少ない。
橋姫が調べた限り、自分が唯一だ。
その上、死後、大河は、自分の下に来る。
正妻達には悪いが、最後に笑うのは、橋姫だろう。
「悪い人」
「悪い笑顔ですね」
「うっさい。寿命短くするよ?」
仮想空間でも橋姫は、自由気ままに過ごし、2人を大河同様に振り回すのであった。
[参考文献・出典]
*1:『ユダヤ小百科』 編:ユーリウス・H・シェプス 訳:唐沢徹 水声社 2012年
*2:『ユダヤ人名事典』 著:ジョアン・コメイ 改訂:ラヴィナ・コーン・シェルボク 訳:滝川義人 東京堂出版 2010年
*3:日本聖書学研究所 訳:村岡崇光『聖書外典偽典 4 旧約偽典 2』教文館 1998年
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