第226話 欧米列強
『神は世界地図がより多く英領に塗られる事を望んでおられる。
出来る事なら私は夜空に浮かぶ星さえも併合したい』(セシル・ローズ)
―――世はまさに弱肉強食の時代であった。
欧州各国がアフリカやアメリカ大陸等に毒牙を伸ばし、
その侵略方法の一つが、キリスト教だ。
発展途上国で平和な宗教を説きつつ、裏では、戦争を支配する。
その代表例が、現在のルワンダとブルンジに
両者の民族的差異は殆ど無いのだが、ドイツとベルギーが植民地支配の為に、
フツ族:背が広くて鼻が広い
ツチ族:ハム族あるいはナイル系で背が高く鼻が細い
と定義し、民族を分断させた。
その後、支配者のベルギーは、ツチ族を優遇し、平成6(1994)年のルワンダ大虐殺の遠因を作った。
この時、フツ系の政府とそれに同調するフツ過激派によって、多数のツチとフツ穏健派約50万~100万人(一部の資料によれば、ツチ族の7割)―――ルワンダ全国民の10%から20%もの人々が、約100日間で殺害された。
これは、ナチスのユダヤ人虐殺以来最悪のホロコーストとして、人々に記憶されている。
鉈で殺された遺体が、無造作に道路に放置されている映像は、この虐殺の象徴的場面であろう(*1)(*2)。
この他、スリランカでは、タミル人とシンハラ人が、インドでもヒンドゥー教徒とイスラム教徒がイギリスの為の分割統治に作られ、長期的な支配の役に立った。
これらは、其々の地域が独立国となった今でも禍根を残し、民族対立、宗教対立の土壌を作っている。
日本も他人事ではない。
戦後、
・北海道、東北地方 →蘇領
・本州中央(関東、信越、東海、北陸、近畿)→米領
・四国 →中華民国(現・台湾)領
・西日本(中国、九州) →英領
・東京 →四カ国共同占領
なる計画案があったのだ。
ドイツが東西に分割された様に日本も同じ目に遭っていたかもしれない。
然し、ソ連が強く求めたこの提案を、共産主義に脅威を感じていたトルーマンが拒否し、
原爆投下を命じたトルーマンが、皮肉にも日本を分断の危機から救った訳である。
中国大陸分割は進む。
超大国・日ノ本が中国大陸不干渉を宣言した為、諸外国は相次いで国境を画定させていく。
が、当然、漢民族も黙っていない。
『
これに対し、当代の征服王朝である清も、
『扶清滅洋』
を掲げ、官製デモで対抗。
清領各地では、白色テロと外国人襲撃事件が頻発。
明を倒して未だ勢力基盤が盤石ではない清の弱点が露呈した。
日ノ本でも、その状況を
「号外! 号外だよ~!
少年の売り子が、唾を飛ばしながら売る。
付着したら折角の瓦版の品質が落ちる様な気がするが、それでも興奮するのは、分からないではない。
戦争というものは、自分に被害が無ければ、スポーツの様に楽しむ娯楽の一つでもあるのだ。
事実、戦国時代、戦を観戦する文化が農民の間であった。
現代でもテレビや動画サイトで、戦争を観戦出来る環境がある為、表では、平和主義を訴えても、裏では楽しんでいる人々も多い事だろう。
戦争ポルノは、闇が深い。
「大陸は、大変ですね」
「そうだな」
松姫(信松尼)の作った御茶を、大河は瀬田にある彼女の寺で飲んでいた。
結局、松姫は仏道も大河も選んだ。
低位者との結婚を反対されたにも関わらず、王冠と恋の両方を得たフランツ・フェルディナント大公を彷彿とさせる、人生の決断である。
2人の事は、武田家も支持している。
「若殿様、馬刺しを御用意しました。御土産にどうぞ」
「有難う御座います」
「
「おー、有難う御座います」
「くろ玉もありますぞ? 手土産に」
「有難う御座います」
贔屓にしている武田家家臣団からの贈答品という事で、大河は全て受け取る。
中には、下心目当ても居るだろう。
だが、それらは全て鶫、アプト、珠、与祢の四重からなる確認体制により、弾かれている。
贈り物は、事前に彼女達が毒見し、怪しければ、直ぐに捨てる。
又、調査員が麻薬取締官の様に薬品でも検査を行う事も忘れない。
食べれない物は、賄賂防止の為に金目の物が無いか如何か、
若し、それらが見付かれば、持ち主は贈賄罪として処断されるのだ。
その為、大河に接近を図る者は、現状居ない。
「若殿、そろそろ」
「そうだな。皆様、贈答品有難う御座います。これよりは、夫婦の時間としたい為、申し訳御座いませんが、お引き取り下さい」
それを聞いて家臣団は、怒る所か、
「そうだな。早く世継ぎが見たいな」
「帰るべ。用事は済んだし」
「真田様、こちらこそ有難う御座いました」
素直に帰って行く。
彼等の夢は、武田家の安泰。
当代には失礼だが、信玄以来の名君とは誰も思っていない。
無論、本人も。
だからこそ、日ノ本一の名君である大河との間に子供が出来れば、武田家は、表を肩で風を切って歩く事が出来る。
2人きりになり、大河は、安堵した。
「歓迎は嬉しいが、限りがあるな」
「疲れました?」
「ああ。信玄公程慕われる存在ではないからな」
「その御言葉、上杉様と御結婚されている方とは思えませんね」
実父の事を褒められ、松姫は嬉しい一方、親しい謙信の事を考えると素直に喜べない。
上杉家と武田家。
川中島合戦では、激戦を繰り広げた仇敵同士だが、万和の世になって以降は、大河を仲介役に和解が進んでいる。
信玄が病死し、謙信も嫁いだ為、両家が憎み合う理由は薄れていっているのだ。
「もう帰ります?」
「分かった。帰ろう」
「きゃ―――」
御姫様抱っこされ、松姫は、怖がる。
「如何……して?」
「したかった。それだけだよ」
2人きりになると、すぐこれだ。
大河が愛した女性陣は、次々と子供を産んでいる為、育児に忙しくなった彼女達は、自然と彼との時間に消極的になっている。
その分、松姫等は、大河を独占出来るのであった。
2人は、馬車に乗り込む。
そして、大河は、車内で松姫と隣同士で座るのであった。
馬車は、ゆっくり進む。
お江等、幼妻達から、
『早く帰って来い馬鹿』
と急かすメールが絶えず送られているが、亭主元気で留守がいい。
夫が居ない間、女性陣がのびのびとしていられる。
女子校の様に、男性の目を気にせず、はっちゃけているのかもしれない。
独身時代は、御互いの距離を近付け様と努力していたが、結婚後は、その逆が望ましい。
育児に家事と忙しくなる妻は、夫だけを見る事は出来ないのだから。
山城国に入った時、馬車が止まる。
そして、鶫が降りて窓を開けた。
「若殿、御客様です」
「客?」
「はい。羽柴秀長様です」
鶫が横に移動すると、その後ろから、不惑手前位の中年の侍が御供と共に待っていた。
「おお、羽柴殿」
何度か挨拶した事があるが、こうして1対1で会うのは、初めてだ。
慌てて降車する。
「如何なさいました?」
「済みません。城ではなく、こんな街中で待ち伏せしていて」
「いえいえ。それで御用件は?」
「ここでは、人の目があります。短時間ですので、我が屋敷に来て下さいませんか?」
「分かりました」
秀長も大河が休暇中の事を知っている。
なので、長時間の束縛は問題、と認識している様で、心底申し訳無さそうな表情を崩さない。
秀長先導の下、一行は彼の屋敷に入る。
秀長は秀吉と違い、人気がある武将だ。
誰も彼の事を悪く言わないし、寺社勢力とも仲が良い。
その為、政府から過激派認定を受けた一部の寺社が、秀長を仲介し、その誤解を解く事があると、無実だった場合、彼は両者の橋渡しを奔走する事が多いのだ。
「粗茶ですが、どうぞ」
「宇治茶ですね。有難く頂きます」
毒見無しに大河は飲む。
鶫が心配しているが、秀長程の人物が、毒殺を企む事は先ず無い。
「それで、御用件は?」
「はい。単刀直入に申し上げます―――山内一豊を貴家の家臣にして頂きたい」
「!」
突然、親の名前が出された与祢は、思わず耳を疑った。
「父を……?」
「おっと、然う言えば、御息女でしたね?」
自分の娘に語り掛ける様に秀長は、優しい目で告げる。
「御父上は、我が家に貢献してくれたが、活躍し過ぎて我が家では恥ずかしながら働きに見合った給金を用意出来なくなったんだよ。本人は、多くを欲していないが、労働にはそれに応じた対価が必要不可欠だ。解雇ではなく、栄転だよ」
「……そうなんですか」
「日ノ本では、貴家程の家は他にはない。御願い出来ないか?」
「……分かりました」
大河は、頷いた。
それ迄不安気だった与祢は、一気に笑顔になる。
「では、父上がこちらに?」
「そうなるな。早速、屋敷を御用意しなければな」
「やった!」
飛び跳ねて喜ぶ与祢。
幼く丁稚奉公に出された彼女は、心細かった。
大河が居るが、やはり、両親が近場に居ると居ないとでは、精神的余裕に差がある。
「秀長殿、有難う御座います」
「いえいえ。英雄に給与未払いの我が家は恥ですからね。これで
山内一豊の電撃移籍は、翌日、号外が出されたのであった。
[参考文献・出典]
*1:武内進一「ルワンダにおける二つの紛争 : ジェノサイドはいかに可能となったのか(<特集>冷戦終結と内戦)」『社會科學研究』第55巻5 of 6、東京大学、2004年3月19日
*2:『元PKO部隊司令官が語るルワンダ虐殺』NHK BS1 2005年7月23日)
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