黄金之国
第88話 有象無象
今まで、明や李氏朝鮮が日本の主要な貿易相手国であったが、西寇襲来以降、それは、欧州とアフリカに移行していく。
欧州は、
・スペイン帝国
・イギリス
アフリカは、
・東アフリカ帝国
だ。
その3カ国の大使館が、二条古城の近くに置かれ、スペイン人、イギリス人、アフリカ人をそこで見ない日は無い。
滞在中のソテロは帝国旅館で過ごし、信長と交渉中だ。
———
『【臨時不敬罪発布】
来日中の暗黒大陸の黒坊主一行に対する一切の攻撃を山城守が禁じた。
今後、投石や暴言を浴びせた者は、極刑を受ける―――』
———
大津事件の様な司法と国の対立を避ける為に、大河は全権委任法の下、ソテロを皇族のみが対象となる不敬罪の対象者にした。
全権委任法は元々、ヒトラーが悪用した為、負の心象があるが、為政者次第ではいい方向にもなる。
瓦版の読者は、直ぐにソテロへの悪行を止める。
普段、温厚な大河だが、
外国人尼僧やスペイン人商人を虐殺した心象は、民の遵法精神の支柱となっている。
文字通り、鶴の一声で、
「相変わらず、行動が早い」
瓦版を読んだ朝顔は、感心する。
「でも、如何して『臨時』なの?」
「皇族じゃないからな。皇族同様の待遇だと勘違いして好き勝手暴れる輩が今後、出るかもしれん。悪例にならない様に臨時が妥当だよ」
「成程」
常に民の事を想い、平和を願う皇族は、遵法精神が高い。
ある天皇が運転の為に外出した所、直ぐに無免許運転である事に気付き、慌てて皇居に戻った逸話がある。
警視庁も
納得した朝顔は、瓦版を再読。
皇居に居た時は、検閲された新聞しか読む事が出来なかったが、今では三流記事でも読む事が出来る。
酷い記事には心を痛める場合もあるが、籠の鳥から解放されたのは、清々しい。
活字中毒の様に、のめり込んで読んでいる。
「ちちうえ、ひがしあふりかってどこ~?」
地球儀を持って、華姫がやって来た。
「ここだよ」
地理区分は、組織によって差異がある為、大河は、国際連合が「東アフリカ」とする現在の、
・ブルンジ
・コモロ
・ジブチ
・エリトリア
・エチオピア
・ケニア
・マダガスカル
・マラウイ
・モーリシャス
・モザンビーク
・ルワンダ
・セーシェル
・ソマリア
・南スーダン
・タンザニア
・ウガンダ
・ザンビア
・ジンバブエ
を指す。
「ひろ~い」
「大陸自体が大きいからな」
大河の膝に乗り、華姫は地球儀をゴー○ジャスの様に回す。
世界に興味を持つのは、良い事だ。
華姫が海外留学を希望する日があるかもしれない。
「兄者、象さん見たい」
ダ●ボの様な絵を見せて、お江がねだる。
象が城に来た時、彼女達は天守に念の為、避難していたので間近で見ていなかった。
「じゃあ、行こうか?」
「良いの?」
「ああ」
「行く! 行く!」
大はしゃぎでお江は、於国を抱き抱え、走り回る。
「じゃあ、今日の仕事終わりにな? アプト、予定表に入れといてくれ」
「は」
今日は、金曜日。
仕事を終えれば、月曜日の朝迄休みだ。
思う存分、家族サービスする事が出来る。
「じゃあ、動物園デートって訳ね?」
エリーゼが大河を抱き締める。
「動物園、良いね。私も行った事無いから」
「御昼は、弁当にする? それとも外食?」
誾千代も謙信も乗り気だ。
反対者が現れない事から、満場一致で決まった。
日本最古で初の動物園は、恩賜上野動物園である。
開園は、明治15(1882)年。
今年が万和元(1576)年なので、約300年、先越しした事になる。
場所は、岡崎公園にある。
管理者が山城国という違いがあれど、現代の同じ場所にある京都市動物園と殆ど変わらない。
飼育されている動物は、
・日本猿
・山羊
・犬
・猫
等、現代の感覚からすると、正直地味だ。
然し、
・ゴリラ(1846年発見)
・パンダ(1869年発見)
等の歴史から考えると、致し方ないだろう。
逆に言えば、現代では絶滅している、
・
・蝦夷狼(1900年)
・日本狼(1905年)
・
・
・
・
・
が、見られる長所もある。
お目当ての象には、市民がフィリピン産のバナナを投げ込んでいた。
「「パオーン!」」
2頭は喜んで、大量のバナナを食している。
大河達は、
「何だか申し訳ないね。皆、並んでいるのに」
誾千代は、大河の後ろに隠れた。
「管理者なんだから、当然だろう? 事故が起きたら、俺の責任なんだから」
『園長』という腕章を肩に装着した大河は、一切、気にしていない。
満腹になったのか、象は食事を止め、そのまま交尾を始める。
「「「おー!!!」」」
初めて見る動物のそれに市民は、何故か拍手喝采だ。
「ねぇねぇ、あれなにしてるの?」
「華様、あれは子作りですよ」
信松尼が、包み隠さずに教える。
ショーと勘違いした何人かの客が投げ銭。
回収し、返却するのが筋だろうが、動物園の維持費は凄まじい。
年間維持費は、15億。
人件費は勿論の事、馬車の駐車場及び園内施設の維持費・修繕費を全て税金で賄っている為、「寄付金」として受け取っても何ら問題無いだろう。
先程のバナナも、食費が幾分か浮く為、市民には、動物の栄養に気を遣いつつ、どんどん、食料は投げ入れて欲しい、と大河は考えている。
「大河、私達もする?」
ちらりと、エリーゼが胸元を見せる。
大河は、興奮するも、
「帰ってから思う存分、愉しませくれよ」
左手でエリーゼを。
右手で謙信を。
口で誾千代の襟を噛んで、
両手と前に花だ。
「もうせっかちね」
誾千代は膝に乗り、大河の頬に接吻した。
「済まんな。俺は狼なんだよ」
昔の曲に登場する様に、男性は、狼に例えられる事がある。
狼の様に犬歯を剥き出しにした大河は、3人を抱き寄せ、その感触を堪能する。
「兄者、甘えん坊」
「良いだろう?」
邪悪な笑みを浮かべ、大河は、更に3人に密着。
転生前、コロナウィルスで日本中が、3密禁止を避けていたが、言わずもがなこの時代にコロナウィルスは存在しない。
その分、思う存分、濃厚接触する。
「もう、だーめ」
華姫が、謙信の膝に乗り、大河を睨む。
茶々、千姫も誾千代、エリーゼの膝を占拠した。
更には、お江が大河の背中を制し、軽く首を絞める。
まさに四面楚歌だ。
「おいおい、殺す気か?」
「兄者が悪いんですよ? 姐さん女房ばかり優先して」
「そうか? でもちゃんと見ているんだよ?」
論より証拠、とばかりに、じー。
「……」
恥ずかしくなったお江は、包囲網から戦線離脱し、アプトの後ろに隠れた。
赤面のまま、チョ●パーの様に大河を見ている。
(可愛いなぁ♡)
お江に癒しを感じる大河であった。
閉園後は、大河達の貸し切りだ。
檻越しであるが、象と触れ合う。
非常に獣臭いが、それ以上に驚きが勝り、女性陣は気にしない。
三姉妹は、説明書のパネルを熟読している。
―――
『
全長:6~7・5
体高:3~4
体重:5千~7
といわれている。
[種類]
阿弗利加象は以下の2亜種に分けられる。
・阿弗利加象(サバンナ象)
一般的に阿弗利加象といわれるのがこれ。
・丸耳象(シンリン象)
茂みや木の多い場所に生息している。
体毛が多く、雄の体高は2・1~2・4米で、サバンナ象より小型。
又、サバンナ象より原始的とされる。
[餌]
・餌
完全な草食性で、阿弗利加の厳しい気候でも生き残れるよう、粗食に耐えるといわれている。
1日の大半を食事に費やし、大人の象は200~300瓩もの草や木を食べ、水も1日に100リットル以上飲む。
動物園では主食として乾牧草を与え、補助食として林檎や人参、薩摩芋等の根菜や、草食動物用ぺレットを与えている。
不足しがちな栄養素は、餌に混ぜたビタミン剤等で補給している。
因みに、餌の中では、甘い果物が大好物だ。
当園は多くの木々に囲まれており、園内で剪定した雑木(カシ、ナラ等)の枝を与える事が出来る。
元々、木等を主食にしている動物なので、木の枝を与えるととても喜ぶ。
葉より幹を好んで食べる。
[糞]
1個で約2瓩ある。
大きな雄では約3瓩にもなる。
これを1回に5~6個、1日に約10回排便する。
従って、大人の象の1日の排便量は、約100瓩(2瓩×5個×10回)にもなる。
[食事」
口に物を入れる事について、象は非常に慎重だ。
特に鼻は目と同程度に敏感である。
口に入れる物は、全て一度鼻で触れるか匂いを嗅いで確認する。
水も一度鼻に吸い上げ、それを口に噴き出して飲む。
それだけ敏感なので、象に薬だけ与えても、鼻で確認後、吹き飛ばしてしまう。
そこで、好物の中に隠したり、甘い水に溶かしたり、工夫して与える。
又、鼻を手の様に使って、物を上手に挟んだり、摘まんだりする事が出来る。
藁1本を摘まみ上げる事も出来るの。
唇の様に吸いつく事も可能だ。
[阿弗利加象との意思疎通]
当園では、飼育係は柵越しに象と接しながら飼育している。
その時に使うのが、「
例えば、飼育係が「ハナ」という号令をかけた時、象が飼育係が持つ棒の白い部分を鼻で掴んだら、御褒美として餌を与える。
この場合、棒が「
この方法で様々な動きをさせ、柵越しでも健康管理が出来る様になった』(*1)
―――
調教師はアフリカ人で、助手は日本人だ。
日本人に象を飼育する能力は無い為、お雇い外国人から技術を学ぶしかない。
ただ、皆が象に興味がある訳ではない。
「可愛い♡」
「本当ねぇ……」
「飼おうよ」
姐さん女房達が、愛でているのは、獺だ。
朝顔、千姫、於国も象より獺に転向しつつある。
「何あの
「同感ですわ。山城様、飼う事出来ます?」
「……」
円らな瞳で
動物愛護精神がある大河もその気持ちは分からないではない。
然し、生物を飼うのは、その命を預かる、という事だ。
「ちゃんと世話出来るなら良いが、自分達で育てるんだぞ? 決して俺に頼るなよ?」
「うん。大河、御願い♡」
「分かった」
誾千代の御願い―――誾の一声に大河は、快諾する。
つくづく、愛妻家で誾千代には、頭が上がらない”一騎当千”だ。
「でも2頭だ。雌雄1頭ずつ」
1頭だと、獺も話相手が居ない、という大河なりの配慮である。
動物にも分け隔てなく接するその精神に女性陣は、心がポカポカするのであった。
大河が、獺の飼育を決断したのは、アニマル・セラピーの観点からだ。
・動物介在療法:医療従事者が治療の補助
・動物介在活動:動物とのふれあいを通じた生活の質の向上を目的
の2種類に分類される。
その利点として、
・生理的利点
・心理的利点
・社会的利点
の3点が挙げられる(*2)。
これは、非常に目に見えて効果が証明されており、米伊一部の刑務所では、動物愛護団体と協力し、囚人に棄てられた元愛玩動物の世話をさせるプログラムがある。
その結果、狂暴だった囚人が癒され、再犯率が減少傾向にある統計もあるのだ。
大河も以前から六角獄舎に収監されている囚人に捨て犬や捨て猫を世話させ、その更生に一役買っている。
後に犬公方・徳川綱吉が動物愛護の先駆者として、日本史に載っているが、大河が先取りした格好になった事は言うまでも無い。
「名前、何てする?」
「枝垂れ桜から『桜』とか?」
「それなら嵯峨菊で『菊』でも良いじゃない?」
「撫子も良いと思いますわ」
楠、朝顔、お初、千姫は雌の方を考え、
「『
「固くない?」
「『一郎』は?」
「姉様、それは、御長男にしようよ」
謙信、誾千代、茶々、お江は、雄の名前の担当だ。
「平和ね?」
「ああ」
エリーゼに
[参考文献・出典]
*1:https://www.tokyo-zoo.net/topics/profile/profile23.shtml
*2:ウィキペディア
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