第86話 屋烏之愛
プールでの祝賀会は、2日目に入る。
「真田、泳ごうよ」
「分かった」
大河は謙信に誘われ、手を繋ぎ、飛び込み台へ。
愛妾2人もそれに続く。
飛び込み台の高さは、5m、7・5m、10mと種類があるが、大河が選んだのは最後だ。
「真田、抱き締めて。怖い♡」
「可愛いなぁ♡」
メロメロな大河は、長身の謙信を御姫様抱っこ。
「有難う♡」
「どう致しまして」
謙信の熱い接吻を頬に受けつつ、大河は躊躇無く飛び降りる。
滞空時間は、1秒も無い。
然し、見詰め合った2人には永遠に感じる。
ドッボーン!
大きな水飛沫が飛び込み台まで上がった。
2人は水中で接吻し、抱き合う。
「「……」」
見詰め合う2人。
御互いの愛を感じ合った後、水中から顔を出す。
「真田、気持ち良かったわ♡」
「俺もだよ。じゃあ、2回目―――」
黄色いケロリン桶が、大河の頭部に直撃し、昏倒。
プールに水死体の様に漂う。
投げつけたのは、モノキニビキニの千姫だ。
「全くもう。上杉様、独占しないで下さいまし」
スクール水着の稲姫が「死体」を回収し、担ぐ。
男性を丸太の様に扱う稲姫は、
「撲殺するなよ? 大事な種馬なんだから」
「分かっていますわよ」
千姫の先には、朝顔や於国、楠が。
大河を4分割するのだろう。
「主~」
「若~」
愛妾達が、涙目でその後を追っていく。
(罪な男……)
満足した謙信は、後に合流した誾千代と共に、死海の如く浮くのであった。
昼食は、施設内での飲食店で摂る。
「ちちうえは、うわきもの」
後継者は、大河の膝で御立腹だ。
時折、大河の頬やお腹を抓る。
自分を放置し、妻達と楽しんでいた父親に激怒しているのであった。
「御免なぁ」
「ぱふぇ、おごって」
「あいよ」
生クリームがたっぷり入った南蛮風パフェを注文し、華姫の前に置かれる。
「たべさせて」
「あいよ」
匙を使って、華姫の口元迄運ぶ。
「御殿様、私がしますよ?」
「あぷと、わたしは、ちちうえにしてほしいの」
アプトの提案を即却下された。
同席する義母・謙信は、苦笑いだ。
「血縁関係は無いけれど、私に似たのかね?」
華姫程では無いが、謙信も嫉妬深い。
大河の居場所を常時知りたいし、彼を常に独占したい。
しないのは、他の妻にも好機を与え、自制しているのだ。
「ちちうえ、だきしめて」
「こうか?」
「もっとつよく」
「こう?」
「もっと」
「応よ」
華姫の頭を撫で、言われた通り、抱擁する。
流石に微笑ましい事なので誾千代達は、嫉妬しない。
相手は、子供。
然も、結婚出来ない養女だ。
だが、華姫は腹黒かった。
(母上様達、簡単に騙されていますわね)
幼妻を大事にする様に、大河は、年下の女性(女子)に非常に優しい。
謙信等の様にセクハラをする事は殆ど無いし、要望には基本的に応えてくれる。
まさに山城真田家最年少女性の特権だ。
「ちちうえもたべて」
「良いのか?」
「うん。はじめてのきょーどーさぎょーだよ」
何処で覚えたのか。
ケーキ入刀時のお決まりの挨拶だ。
然し、大河は疑問を覚えない。
華姫が時折、大河の書庫に入り、読書している事を知っているからだ。
華姫としては、大河が隠し持つ春画を探し出し、彼の嗜好を研究しているのだが、生憎、見付けた
・枕の中
・押し入れ
・本棚の裏
・布団の下
等、思い付く限りの場所を捜索しても1冊もだ。
現代でも、大抵の場合、父親のエロ本やAVを子供が発見する事は少ない。
その隠す技術は、子供が想定する以上に高等技術なのである。
恐らく3億円事件の犯人並に発見する事は困難だろう。
「難しい言葉、知ってるな?」
「うん。ほめてほめて♡」
「良い子だ」
「えへへへへ♡」
肩を揉まれ、華姫は目に見えて
「……真田」
真向かいのエリーゼが、焼き芋に匙を突き刺す。
「子供を甘やかしすぎじゃないか?」
前言撤回。
女性陣の中で唯一、エリーゼのみ、華姫の本性に気付いていた。
イスラエル軍での人を観察する技術が、ここでも如何なく発揮されたのだろう。
華姫を睨み付ける。
「ちちうえ、こわ~い」
「おー、よしよし。大丈夫だからな。エリーゼ」
「何よ?」
「子供を虐めるなよ」
「虐めじゃないわ。教育よ」
厳しく育てたいエリーゼだが、子煩悩の大河とは合わない。
「悪い事をしたら叱れば良い」
「……将来、如何なっても全責任は、貴方にあるのよ?」
「何の話だよ?」
「自分で考えたら?」
そして、そっぽを向く。
大人げないが、エリーゼの意見も分からないではない。
このまま、自分の主張を曲げずに言い争うのは、離婚の遠因になるかもしれない。
但し、離婚する前よりも早く、大河がエリーゼに殺される可能性が高いが。
「……アプト」
「は」
「華を頼む―――」
「ちちうえ?」
「済まんな、華。俺、女性に関しては、共産主義者なんだよ」
平等に愛する。
これが、大河の方針だ。
アプトに預け、大河は席を移動し、エリーゼの横へ。
「何よ? 幼女の方が好きなんでしょう?」
「養女だよ」
「あら、よく分かったね?」
「当たり前だ。好きだからな」
「!」
振り向くと、大河が距離を殺していた。
そして、エリーゼの唇を塞ぐ。
「んぐ?」
接吻は、数瞬程。
直ぐに大河は、離れる。
「有言実行だ」
大河が直ぐに譲歩したのは、決して、エリーゼの味方になった訳ではない。
家族の中で、母と娘は死ぬまで険悪な関係になった後に、良好な関係を構築する時がある。
だが、母娘が喧嘩するのは、大河の意思に非ず。
火種は、燻る前に早めに消火させなければならない。
「ちちうえ~―――」
「アプトに甘えなさい。散々、俺に甘えたんだから」
「……わかった。あぷと、だっこ」
不満気だが、華姫はアプトにシフトチェンジ。
この変わり身の速さも、「必要以上に固執すると、大河に本性を気付かれてしまう」という計算の上だ。
「……万年発情期の犬」
「ああ、盛ってるよ。ほら、誾も」
「私も?」
嫌がる前に大河が誾を抱き寄せる。
片方のエリーゼも忘れない。
「午後も遊ぼうぜ」
「「……」」
その少年の様なあどけなさが残る笑顔に、2人はドキドキした事は言うまでも無い。
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