第75話 夫唱婦随
須磨に到着するなり、一行は、直ぐに海へ。
海水浴の文化が現代程では無い為、貸切る事も無い。
マイクロビキニを着た誾千代は、
「……」
赤面し、大河を睨み付けていた。
因みに彼のは、ショートボクサー型で、誾千代程の露出は無い。
「可愛いなぁ。誾は」
今にも
「こーら、欲情しないの」
青いビキニのエリーゼが、大河に抱き着く。
モデル並の胸が、背中で形を崩す。
「あら、元気じゃない♡」
「そりゃあ、日本男児だからな」
大きく膨張した下腹部を見て、エリーゼは悦ぶ。
「よっと」
エリーゼをおんぶし、大河は誾千代に近付く。
「今晩の夜伽は、それで良いかもな」
「もう大河ったら♡」
誾千代を抱き寄せ、海に入る。
水温は、冷たい。
然し、照り付ける太陽と陽炎が出る程の熱さで丁度相殺され、良い感じだ。
「ちちうえ~」
「おー、船か。良いな」
華姫、於国、お江、楠、朝顔はゴムボートに乗っていた。
牽引するのは、アプトだ。
恥ずかしいらしく、大河に水着を見せる事は無い。
「あれ、何で皆、それなんだ?」
5人の水着は、寺子屋水着―――現代で言う所のスクール水着に当たる。
ナイロンやポリエチレン等の化学繊維で出来た黒いそれは、現代的価値観で言う所の小学生になる彼女達には、ぴったりだ。
「朝顔様が御選びになって下さったんだよ」
この中の最年長者であるお江が、答える。
「本当は、兄者の為にもう少し、際どいのを着たかったんだけど、御免ね?」
「いや、良いよ。似合ってるし」
「「「「「きゃああああああああああああああああ」」」」」
五つの悲鳴が重なる。
大河がゴムボートの下に入り、横転させたのだ。
5人は投げ出され、転覆したボートに漂流者の如く、捕まる。
「兄者の鬼畜!」
「真田、殺す気か!」
「ちちうえのばか~!」
罵詈雑言の嵐だが、誰一人、大河に暴行を働く事は無い。
彼女達が居るのは、浅瀬なのだが、足が届かないのだ。
やがて全員、アプトに救出され、彼女に抱き抱えられる。
その後、陸に上がった大河は、5人に追い回され、
プールで散々、日焼けと海水浴を楽しんだ一行は、南蛮式の旅館に宿泊する。
ホテルがあるのは、須磨の約10km先に神戸港がある為だ。
神戸港で貿易等で来た中長期滞在する外国人に目を付けた外国人商人が
ふかふかの
「わーい! すご~い!」
大きさは、大河が予約していた御蔭で、特注品の特大サイズ。
名前は、キングサイズを遥かに凌ぐ『エクストリームウルトラキング』。
幅 :144in(約369cm)
長さ:120in(304・8cm)
約6人分のサイズだ(*1)。
「華、はしたないぞ。止めなさい」
「はーい」
謙信の言いつけを素直に守り、寝台から降りる。
「主、押しますよ?」
「ああ」
もう一つの同型のそれを小太郎が、力士の突っ張りの如く、押していき、もう一つのそれに横付けする。
これで約12人分の超特大サイズの完成だ。
「御殿様、夕食が到着しました」
「分かった。皆、夕飯だぞ」
ぞろぞろと一行は、大広間に移動する。
教会の聖堂を模したそこは、シャンデリアが吊り下げられ、キリストの肖像画と十字架が設置され、耶蘇教色が強い。
常連客の多くに合わしているのか、支配人の信仰宗教なのか。
運ばれるのは、和食、中華料理、洋食の3種類。
流石に
机は回転テーブルになっており、席を立ったり、腕を伸ばす等の煩わしさは無い。
因みに回転テーブルは、日本発祥で昭和初期に日本人が初めて造った。
それを世界に広めたのが、中国人だ。
猶太人であるエリーゼも、中華料理店で見た事がある為、驚きは無い。
全員、着席すると、
「「「頂きます」」」
日本人妻は、合掌し、
「―――」
エリーゼだけ猶太式でヘブライ語の祈る。
その祈り方に西洋人職員は、猶太教徒である事を悟った。
そして思いっ切り、これ見よがしに舌打ちする。
反猶太主義者らしい。
だが、エリーゼは気にしない。
猶太人として生きている以上、反猶太主義は世界中ではよくある事なのだ。
レオ・フランク事件(1915年 ユダヤ人男性のレオ・フランクが、少女に対する殺人で逮捕された後、暴徒に殺害される。少女殺人事件は冤罪とされる)等に代表されるアメリカ。
ゲソ法(反人種差別法)があるにも関わらず、イスラム過激派による、
・ミディ=ピレネー連続銃撃事件
・シャルリー・エブド襲撃事件
等が起きているフランス。
ナチスが滅びた戦後でも、反猶太主義は蔓延っているのだ。
現代日本でも『マルコ・ポーロ』事件や『アンネの日記』破損事件等、反猶太主義(的)な事件が、起きている。
然し、欧米ほど殺傷される様な危険は無い為、比較的、猶太人は住み易い国、と言えるだろう。
祈りを終えた後、大河はふと席を立つ。
「あら、大河、何処行くの?」
「ちょっと席替えだ。後、戻るよ」
愛しの誾千代から離れた彼が向かったのは、エリーゼの隣であった。
全員、察する。
エリーゼを助けに行った、と。
「あら? 如何したの?」
「何でもない」
「何でもないなら、愛妻の所に行けば良いじゃない?」
「エリーゼも愛妻だよ」
「……」
赤くなるエリーゼ。
辛い経験のあった直後故、その嬉しさは、通常より数割増しだ。
「あ、小太郎、望月、信松尼に来いよ」
「「「え?」」」
離れていた場所で食べていた3人を大河は、手招きする。
「ちちうえ、わたしも~」
「華、済まんが、今は、我慢してな? 謙信」
「分かったわ」
華姫は、謙信に捕まり、彼女と同席する。
席順は、
小太郎:望月:大河:エリーゼ:信松尼
となった。
当然、大河に近い程、愛されている(信頼されている)席次だ。
家族でも無い3人が、妻や養子を差し置いてこの様な厚遇を受ける事は通常、有り得ない。
だが、妻達は寛大だ。
本気にならない以上、恋敵ではない―――との方針で、敵視すらしない。
明治維新に西洋的価値観が渡来して以降、日本はこの手の事に年々、厳しくなっているが、この時代の女性は一夫多妻が当たり前なので、滅多な事で嫉妬しないのだった。
又、日頃から「大河に愛されている」との自覚がある為の余裕とも言え様。
「司令官?」
「日頃の御礼だよ。信松尼様も相談役、有難う御座います」
「いえいえ。頭をお上げ下さい。人質なんですから」
「客人です」
強い口調で、人質発言を大河は、打ち消す。
「今日は、宴だ。酒もジュースも解禁する。飲みたい者は、飲め」
「!」
謙信が逸早く、葡萄酒を掴んだ。
普段禁酒している為、解禁を人一倍喜んでいるのである。
「望月も飲め」
「え? でも、用心棒が―――」
「俺より強くなってから言えよ。休め。日頃の御礼だよ」
ニヤッと大河は、微笑む。
作り笑顔ではない、本当のそれに望月の心は、撃ち抜かれた。
信松尼も友人の恋を微笑ましく見詰めている。
「(甘えたら? 滅多に無い好機だよ?)」
小太郎の助言が、駄目押しとなった。
「で、では、甘えさせて頂きます」
「固いな。まぁ、それが望月の良い所だがな」
褒めつつ、大河は、エリーゼを抱き寄せる。
彼女が嫉妬心を燃やしていた事に気付いていたのだ。
それが、噴火する前に対応した所を見るに、信松尼の言う通り、よく見ている証拠であろう。
何度失恋しても、その度に望月は、大河の人柄に惹かれてしまう。
何度目の初恋だろうか。
女性陣が大河と離れないのは、この様な事も理由の一つなのかもしれない。
傷付いた時、真っ先に傍に居てくれる夫程、嬉しい事は無いのだから。
(……馬鹿)
告白出来ない自分の情けなさに、望月は深く深く恥じるのであった。
[参考文献・出典]
*1:*1:https://gigazine.net/news/20061117_extreme_ultraking/
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