第74話 もう、腕の中
グレアから受け取った神力は一度発動したら最後、時間が経つにつれて徐々に力を失っていき最後には身体から消えてなくなる使い切りのものになっている。
というのも、本来であれば月の精霊神が器となるエルフ・オリジンを幼少の頃から選別しているように、特別神との相性が良い者でなければ神力という強大な力に例え僅かな時間であっても肉体が耐えられないのだ。
いくら俺の身体が邪竜の血が流れた特別性だとしても、器として育てられたエルフ・オリジンですら限られた期間しか耐えられない神力を長期間保有しているというのはリスクが大き過ぎる。
グレアには体への負担を考慮しつつ限界ギリギリまで神力を注いでもらったが、切り札であるテラスアイネの神力が時間制限付きのものだという事は常に念頭に置いておかなくてはならない。
◇◆◇
姫守りの騎士に連れられ俺が案内された場所は、海のように広大な花畑だった。
(この花…たしか、あの時の)
夜風に揺らされ、少し
星の形に咲いたその花弁が、あの日リンカが被っていた花冠にあしらわれていたものと同じであることに気付いた。
(あの時は気付かなかったが…色彩が違うだけで、全て同じ種類の花だったんだな…)
そんな花畑の中心に、純白のタイルが円形に敷き詰められ。
大樹アズールの樹液で丸く囲われた線の中に、蒼色と金色二脚の椅子が置かれていた。
(ここで、精霊神が器としての肉体を乗り換える本当の姫継ぎの儀が行われるってわけか…)
本来であれば。
武勇祭典の優勝者が姫守りの騎士に勝利するという正式な手順を踏んで、参列を許されるのは象徴としての歌姫が世代交代を行う表向きの姫継ぎの儀式だ。
真の歌姫に仕える正式な姫守りの騎士に成るためには、神力を注がれなくてはならないためエルフ・オリジンでもない祭典の優勝者がこの場に招待されることはない。
表向きの姫継ぎの儀式に参加し、形式上は姫守りの騎士になれたとしても。
この国に隠された深い闇を知ることのないまま、象徴としての歌姫に仕えることになるのだ。
俺が表向きの儀式ではなく、本来の儀式に招待されたのは月の精霊神が俺の事を思い人だと勘違いしているからだろう。
とはいえ。
(精霊神には悪いが……)
いくら魂の輝きが似ているのだとしても、グレンに生まれ変わる前の俺は地球で暮らしていたわけで。
精霊が神になってまで再会を待ち望んでいる相手が、俺であるはずがないのだ。
姫守りの騎士と共に。
指定された場所に立ち、儀式の開始を待つ最中。
ふいに、異様なほどの静けさが訪れた。
草花がさざめき合う音すら聞こえなくなり、何事かと思いはじめたその時。
眩暈を起こしそうになるほど鮮烈で。
濃密な、花の香りが鼻腔をくすぐった。
「つかまえた」
熱い吐息が、耳を湿らす。
「あぁ…やっと…」
「やっと…会えましたね」
「グレン」
「私の、愛しい人」
恋人に語らうように、甘く囁く。
見知らぬ女の声。
何時の間に近寄っていたのか。
気付いた時には背後から、柔らかい女の細腕に抱かれていた。
黄金の亀裂が走る、雪のように白い肌。
か細く、今にも壊れてしまいそうな身体のどこにそんな力が隠されているのか。
まるで頑丈な鎖に縛られたかのように、身動ぎ一つとることが出来ない。
「ずっと…。 ずっとずっとずっと…」
「ずっと、貴方と再会できるこの時を…待っていました」
「…………」
声を出すことすら出来ず。
閉ざされたままの俺の口に、細長い女の指が添えられる。
「大丈夫。 大丈夫ですよ…」
「何も言わずとも…私は分かっています」
「安心してください…私の、最愛の人」
「もう二度と、私たちが離れることはありません…」
「これからはこの国で、片時も離れることなく…幸せな時を共に過ごしていきましょう」
「永遠に」
「グレン…」
「私の…」
「私だけの…愛しい人」
俺が押し黙ったまま、動けないのをいいことに。
一方的に愛を語る女は、服をかき分け人の身体を好き勝手に弄り始める。
耳にかかる彼女の吐息が激しさを増すにつれ、腹筋の溝をなぞる彼女の指が徐々に下腹部へと伸びていく。
「あぁ…♡ 」
「あぁ…なんて…! なんて、逞しい身体……」
「私……」
「私もう…我慢、出来ませんわ……♡ 」
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