第50話 未来のダチへ

 カインとその妹であるネイは呪われている。


 パイセンであるオルグ氏がそう考えるのには理由があった。


 パイセンたち鬼人族の故郷である東方の国、日ノ照ひのてらすでは自身の何かを犠牲にし強大な力を得る修羅術という呪いが古来から伝わっており、その中でも修羅術・破境はきょうと呼ばれる呪いは自身の生命をも犠牲にし一時的だが鬼神の如き力を得られるのだという。


 生体を巡る力、エネルギーの感知に秀でたタレントを持つパイセンはカインと俺が戦ったあの日、一瞬ではあるがカインから修羅術にも似た呪いの力を感じ取ったらしい。


 二つ名を持つ狩人になる以前からカインとの面識があったパイセンは、カインの妹が未知の病に苦しんでいるという話も耳にしており。


 呪いの力を感じたその日、一向に治る事がない病は呪いによるものなのではないかという考えに至ったのだという。


 修羅術は鬼人族でなければ扱えない血脈に紐づいた呪いなので獣人族であるカインには扱えないが、この世界には無数の呪いが存在しておりその効力も多岐に渡る。


(とはいえ)


 バッドステータスの一種である呪いであれば、俺の竜技である万余滅却ノ咆哮で取り除ける筈だ。


「つーわけで、まずは。 カインと妹ちゃんに掛かってる呪いとやらを解呪しちまおうぜ。 それで妹ちゃんの体調が良くなるって保証はねぇが…少なくとも、今ここで言い争ってるよりかは良い選択には違いない、だろ? 」


「…ああ、そうだな。 己も少し熱くなり過ぎていた、まずは本題の解決が先だろうに」


「なんで…。 なんでなんサ」


「む…? 」


「二人ともおかしいべ! 本来秘密にしておくような事まで口にして、二人になんの得があるのサ! 」


 まったくもって理解できない。


 カインの表情からはそんな気持ちが伝わってきた。


「なんだ、そんな事か。 まったく、だからお主は馬鹿なのだ」


「なっ、またバカって―


「簡単な話だ。 世の中には色んな奴がいて、色んな考え方がある。 カイン、今までお主の目には世界が損か得かで動いているように見えてたのかもしれぬが、案外そうではないのかもしれぬぞ」


「……っ。 なにサ、えらく曖昧な話だべ」


「ハハハ、そうだな。 曖昧だ。 この世界は黒か白、善か悪の二色で出来てるんじゃないて事だろうよ」


「…………」


「現に、お主がそうであろう。 お前さんは、自分をとんでもない悪党だと思ってそうだが…こと妹さんの事となればこんなにも必死になれる。 いい奴が悪い奴になる事もあれば、その逆も然り。 善悪だってどの側面から見るかで話が変わってくるもんさ」


 オルグ氏とカインの関係が昔どうだったのか、俺には分からない。


 だが、パイセンはカインの事をたしかに友だと言っていた。


 そして今、こうしてダチに語り掛けている。


 思い詰め、今度こそ戻れないところまで道を外れてしまいそうなダチを連れ戻すために。


「カイン、確かにこの世界はお前さんには優しくなかったかもしれない。 だけどな、お主はもうそんな世界で生き抜くだけの力を手にしたんだ。 だから、もう少し余裕を持ってみないか」


「余裕…」


「そうさ、周りを見ろ。 お前にはかわいい妹が居て、お前を手助けする己のような友がいる、なんならこのルーキーだって手を貸してくれるぞ、心強い。 それにお前はまだ若い。 まだまだこれからだ! いつだってやり直せる。 これを恵まれてるといわずしてなんと言うのだ」


「…。 恵まれてる…べ……? 」


「ああ、己がそう言うんだ。 自信を持て。 お主はどう思ってるか知らぬがな、己は今でもお前さんの友のつもりだ。 先程の質問にあえて答えるなら、友が友を助けるのに損も得もない」


「友……」


「あーコホン。 まあ、俺としては。 予選での事は気に食わねぇし、色々と思うところもあるけどよ。 妹ちゃんを助けたいカインの気持ちはマジみてぇだし。 力になるぜ」


「そうさな。 カイン。 お前さんは今まで随分間違ってきたようだが、まだ終わっちゃいないだろ。 妹さんを助けたら、その次はお前さんの番だぞ」


「オレっちの…」


「ああ。 妹さんに誇れる兄貴になるんだ。 今までのお前さんをブチ壊し、新たなスタートを切るってのは、まあ大変だが……己も手助けするさ」


「……っ…!」


「さてと、んじゃ。 この泣きべそ狼を連れて妹ちゃんを助けに行こうぜ、よっと」


「ハハハ、そうだな。 ほれ、いつまで情けない顔をしている。 そんなんじゃ妹さんに心配されるぞ」


「だ、だれが泣きべそ狼だべっ! つか、いきなり肩組んでくるなし、暑苦しいサ」


「え~いいじゃんかよ。 パイセンのダチだし、仲良くしようぜ~」


「ぐぇ!? み、耳を掴むなし!! ちょ、やめ。 仲良くしようって絶対嘘だべ!? 」


「ハハハ、そら。 じゃれるのもいいが道案内頼むぞ、カイン」


「分かったから尻尾を引っ張るなし! ぐぎゃーーーーー!? 」








 ◇◆◇






「これでよし、っと」


 首から下げたアクセサリーを眺め、なかなか似合ってるなと誰に言うでもない感想を心の中で述べた。


 肉食獣の牙を模った石のアクセサリー、これは先日カインから直接渡されたものだった。


 なんでもこの牙のアクセサリーは本来、狼獣人族が同じ群れの仲間だと認めた証として渡しあう物らしいが。


― その…。 あれサ。 いつか、この証に恥じない男になれたら。 その時は、オレっちと……友達になって欲しいサ ―


 無事に解呪に成功し、快方へと向かいつつある妹のお礼をしに俺の元を訪れたカインは照れくさそうにそう口にすると返事も聞かずに瞬間移動で姿を消してしまった。


 パイセンに聞いた話では、カインは自ら武勇祭典の予選で行った反則すれすれの行為を自白し狩人協会へと報告すると二つ名の称号を返上したのだという。


 等級へのペナルティも課され、厳しい再スタートを切ったカインだがオルグ氏のサポートもとい監視の目があれば今度は道を外れずにやっていけるだろう。


 オルグ氏はカインと共に、妹のネイやカインを呪った犯人を突き止めるべく今後調査していくらしい。


 俺も何か有力な情報を得られたら、顔合わせも兼ねパイセンのところを訪れるとしよう。






「お。 おはようリーニャ。 部屋の前で待ってたみてぇだが、何か用か? 」


「ええ。 グレンに来客みたいよ…。 っと、あら? そのアクセサリー、はじめて見るモノね…」


「ああ、コレか。 いい感じだろ? 知り合いに貰ったんだぜ」


「へ~知り合いね~。 ……ん? 知り合い…? 」


「んじゃ、あんまりお客さん待たせちゃ悪いし。 ちょっくら顔出してくるわ」


「ちょ、ちょっとグレン! 知り合いって誰なのよー!? 」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る