第26話 巨眼の奏者(前)
(このオーガエイプ…やけに痩せこけてねぇか…? )
地面に倒れ伏す、鬼猿の死体へと視線を向ければ。
本来であればガッシリとして筋肉質な筈の身体は細く貧弱なものに変貌し、毛並みにも抜け毛が目立っている。
(それに…この派生種、
「グレン、これは…一体どうなってるの…? 」
後方から追いついたリーニャ達も、ブラウン・オーガエイプがとる不審な行動を目にし理解が追いつかない様子だ。
「俺にもわけが分からねぇが…反撃してこないなら好都合だ、今のうちに数を減らしちまおう。 ただ…そうだな。 一体は残しておいて、盗んだ果実をその後どうしてるのか…後を追って探ったほうがいいだろう」
「そうね…。 この場でこいつらを全滅させても、この様子を見るに根本の解決にはならなそうだしね」
肉食であるブラウン・オーガエイプにとっては、果樹園から盗み出していた果実は食料用というわけではないだろう。
どうにも、不可解な点が多いとはいえ。
敵に反撃される心配が無いのなら、丁度いい機会だと。
アレンにはフリート、ミアにはリーニャがサポート役に付き。
ロボットのように黙々と果実を回収し続ける鬼猿を相手にして、二人には武器の扱いに慣れてもらう事となった。
その間に俺は、衰弱していたとしか思えない…この不自然な死体を詳しく調べておく事にしよう。
「えいっ、えいっ! 当たってっ! えいっ! …っ、はぁ、はぁ」
ミアの掛け声が聞こえ。
死体の調査を一旦中断し、チラリと様子を覗えば。
手にした鞭をしならせ、ブンブンと振り回している彼女の姿が映った。
鞭はミアの適正武器である為、攻撃として成立しないような動きにはなっていないが…しかし。
彼女の体力からすれば、鞭での攻撃はスタミナの消費が激しいのか…すぐに息が切れてしまっていた。
ゲームではどれだけ戦闘が長引いても操作キャラクターが疲れるような事は無く、例えば通常攻撃は通常攻撃として、いつ使ってもその威力や命中率に変動はなかったが。
こうして、実際にはスタミナ切れ…本人がバテてしまえば戦闘のパフォーマンスが落ちるだけでなく、回避や防御といった自分の身の安全を確保する事も難しくなってしまう。
とはいえ、この世界には魔法もスキルもあればレベルという概念もある。
最初のうちは少し攻撃しただけで疲れてしまっても、レベルが上がっていけば格段に身体能力も向上していくのだから問題ないだろう。
今は少しでも早く、ミアとアレンのレベルを上げるため。
フリートとリーニャには、なるべく二人がトドメを刺せるように動いて欲しいと頼んでおいた。
フエーナルクエストでは敵にトドメを刺したキャラクターにボーナス経験値が入るシステムがあったため、こうしておけば恐らくレベルアップも早まる筈だ。
◇◆◇
(ん…? コイツは…)
「おーい、グレンっ! ボクたちの方は片付いたよっ! 」
「…っと、おお! もう片付いたのか。 思ってたより随分とはえーから、驚いたぜ」
「ふふんっ! もっと褒めてくれてもいいんだよっ」
えっへん、といった具合に胸を張るアレンはまだまだ体力に余裕がありそうだ。
一方、ミアは傍から見てもかなり疲労がたまっている様子だったので。
この場で少し、俺が鬼猿の死体を調べてみて分かった情報の共有も兼ねて休憩を挟む事に決めた。
「…すいません、みなさん。 私の体力がないばかりに…」
「ふふっ、誰だって最初のうちはそんなものよ。 気にしないで、ね」
「う。 休憩…だいじ」
「うんうんっ! それに、ミアさんがいるから侵入してきたオーガエイプ達にも気付けたんだし…大活躍だよ! 」
「ああ、だな。 ミアはもっと自信を持っていいぞ」
「みなさん…。 その…ありがとう…」
アレンが言うとおり、ミアの力が無ければ今回の依頼はもう少し手間取っていただろうし。
休憩に関しても、見逃した最後の一体にはミアとリーニャが機転を利かせ小さな針を体に刺し込んでおいてくれたので。
姿が見えなくなっても、ミアのタレントで針の声を聞けば後から追跡することが出来る。
今は戦闘面ではおぼつかずとも、アイテムの鑑定…探知に追跡と。
様々な面で俺達はミアに助けられているのだ。
先程言った、自信を持っていいという言葉に偽りは無い。
「それで、俺の方はこの死体について色々と調べてたわけだが…皆、コイツを見てくれねぇか」
「う? 」
「あっ、今明かりを用意するねっ」
アレンが初歩的な光魔法…”追跡する光球”を発動し、俺の手元を明るく照らす。
フヨフヨと空中に浮かぶ光の玉に照らされて、俺の手の平にのせられたソレが、色合いまでハッキリと見えるようになった。
「これは…。 羽根、でしょうか…? 」
「角度によって色合いが変わってるのかしら…? キラキラしてて…綺麗ね」
「グレン、この羽根はどうしたの? 」
「実はな、コイツは”刺さって”いたんだ…オーガエイプの後頭部にな」
「う…ホント、だ。 ハネ…かちかち」
光沢があり美しい色合いの羽根は、ナイフのようにサックリと鬼猿の後頭部に突き刺さっていた。
もう殆ど残されていないものの、羽根からは微弱な魔力も感じ取れる。
「それで、だ。 これから全員で、今しがた倒してくれたブラウン・オーガエイプ…コイツらの死体を確認していきたいんだが…」
俺の予想が正しければ、恐らく。
今回の果樹園荒らしの真犯人…その手掛かりが、全ての死体に残されている筈だ。
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