第25話 果樹園荒らし(後)
勇者なら片手剣。
グレンなら大剣といったように。
この世界には、それぞれの人物に最も適した適正武器というものが存在する。
原作では盗賊であるグレンが、人目を引く大剣を得物としていたのもこの適正武器という概念のせいなのだ。
使おうと思えば適正武器以外の物も扱うことは出来るが、武器を用いたスキルである武技が大幅に制限されてしまうか最悪の場合まったく使えなくなってしまう為、好き好んで適正の無い武器を使う者はいないだろう。
ハンター達の仕事道具が一通り揃えられる狩人専門の商店街…通称、
ハンターロードにある店は全て狩人協会が運営元というだけあって、武具屋には先輩ハンター達が手に入れたドロップ品も数多く陳列されていた。
売りに出されているアイテムは、既に鑑定が行われ性能が判明している鑑定済みアイテムと、未鑑定なぶん料金が格段に安い未鑑定アイテムに分けられている。
店に並べられた品は入手者が売りに出してもいいと判断した物なので、有用な特殊効果を秘めた物など早々出回らないが。
鑑定料の支払いを惜しみ、未鑑定のまま売りに出すハンターも比較的多いので未鑑定アイテムの中にはごく稀に掘り出し物が含まれている事もある。
フエーナルクエストのファンの間では、お金を貯めて一気に未鑑定アイテムを購入し鑑定しまくる行為をガチャと呼んでいた。
攻略本には、店売りの未鑑定品からのみ入手可能なレアアイテムの情報なども記載されており。
あまりの入手確率の低さに、発売当初ネットではデマなのではないかと騒がれた程だ。
とはいえ、序盤の金銭事情からすると。
消耗品などを節約し、未鑑定アイテムは幾つか買えたとしても肝心の鑑定料が高くつく為、ガチャが楽しめるようになるのはある程度やり込んでからなのだが…。
ミアの”物の声が聞こえる”タレントにより、未鑑定アイテムをその場で鑑定することが出来る俺達は。
乱雑に積み上げられた未鑑定品の山の中から、有用な効果を備えたアイテムを幾つか見繕うことが出来た。
アレンが購入した剣と盾は、剣に関しては特筆すべき点は無い平凡なショートソードだが、盾には
レジスト装備は耐性が上昇するだけなので過信は出来ないが、毒物を扱う魔物は比較的多いので序盤で毒耐性の装備があるというのは心強い。
様々な武器を試した結果、鞭の武器適正がある事が分かったミアは特殊能力”効率化”が付与された鞭を購入した。
効率化が付与された武器を使えば、通常より少ない闘気で武技を使用できるのでレベルが低く扱える闘気の量が少ないうちは、かなり助かる特殊効果だろう。
パーティーの構成上。
俺が敵のヘイトを集める事を考慮すれば、ミアとアレン…二人の防具は機動力重視のモノが良いだろうという話になり。
新米ハンターに向けて量産された、軽装の防具を一式買い揃え俺達はハンターロードを後にした。
◇◆◇
初仕事となる今回の依頼…その目的地。
橙蜜ミコンの他に数種類の果実を育てるこの果樹園ではここ最近、魔物と思しき何ものかが夜な夜な園内に侵入し、程よく熟した果実たちを次々と盗んでいくらしい。
残された足跡や、果実をもぎ取るような手先の器用さからオーガエイプによる犯行なのではないかと目星がつけられていた。
とはいえ、オーガエイプはスライムと同じく派生種が多い魔物として知られており。
一括りに鬼猿と言っても、その危険度にはかなりのバラつきがある。
基本的にはどの種も数体~数十体で群れを成し集団で行動する為、囲まれないよう心掛け戦闘時の立ち回りを意識していきたい。
「グレン…何かきます」
深夜。
まずは犯行の現場を押さえようと果樹園にて待機していた俺達。
園内の数か所に設置したカカシの声を聞き、索敵を行っていたミアが何者かの接近を告げる。
「三番目のカカシ…反応は此方の方角からです」
「うし…そんじゃあ、手筈通りいくか」
俺とリーニャを先頭にフリートを最後尾に添え…まだ戦闘に不慣れなミアとアレンを間に挟むという、基本的な立ち位置を事前に決めておいた。
「出来れば…園内での戦闘は避けたいものですね…」
「そうね、ここまで実らせる苦労を考えたら…これ以上被害は広げたくないわね」
ミアやリーニャが言う通り…依頼主の事を考えれば出来るだけ園内での戦闘は避けたい。
俺達が今向かっている三番目に設置したカカシの裏手は、山へと繋がっていた筈だ。
やはり、果樹園荒らしの犯人は山を下りここまでやってきていたのだろう。
(しかし…まだ引っ掛かる点は多いな…)
依頼主の話では、この果樹園が荒らしの被害にあったのはここ数年で今年が初めてなのだという。
(何か山に変化があったのか…? )
「しっ…止まれ。 見えたぞ」
隣を歩くリーニャを腕で制止、武装封包が解除された初代武蔵を構える。
「俺が奴らを引きつけ、裏手の山へと移動する…。 リーニャとフリートはミアとアレンをサポートしつつ、後方から奴らを叩いてくれ」
「了解したわ」
「う! 分かった…」
「行くぞ…ッ! 」
縮地一刀。
瞬時に果樹園を荒らす集団へと詰め寄り、手近な一体を切りつける。
(オラ、俺に意識を向けろ…! )
「グギャッ…!? 」
酷くあっさりとした手ごたえ。
予想に反し、一撃で力尽きた鬼猿が地面に倒れ伏す。
「……」
「……」
(……こいつは…一体)
仲間が叫び声を上げ倒されたというのに…我関せずと。
黙々と果実をもぎ取り続ける鬼猿達。
此方を振り向く事もなく、一心不乱に収穫を続けるその光景は…まさに異様だった。
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