第22話 新たなる船出
精霊の流した涙により育まれたと伝えられている大樹アズール。
このアズールを中心とした森林地帯に形成されている大国…精霊神国アウルティアは、近隣のみならず世界的に見ても魔力濃度の高い地域として知られている。
アウルティアの民は、エルフ・オリジンの信仰を集め精霊から神へと至った精霊神を崇拝しており。
国の支配者は精霊神の依り代になり得る女性…歌姫候補と呼ばれる少女達の中から選ばれる。
そんなアウルティアにおいて、今年行われる”姫継ぎの儀式”…簡単にいえば支配者の世代交代なのだが。
アレンが言うには、姫継ぎの儀式の前座として開催される武闘の祭典、”精霊神武勇祭典”に参加する事が俺達の次なる目的らしい。
世界各地から集いし戦士達が、今代の歌姫と次世代を担う歌姫候補の前でしのぎを削り。
祭典の優勝者には相応の褒美が与えられ、人道から外れるような願いではない限り望む事を一つ精霊神に叶えてもらえるのだという。
(神の依り代に、望みが叶う祭典か…どうにも、胡散臭ぇな…)
ゲームを遊んでいた当時はそこまで気にしていなかったが。
こうして改めて聞くと、精霊神を崇めるこの国からはどこか不穏な空気を感じる。
とはいえ、原作通りであればこの地では新たな仲間が加入するイベントが起きる筈だ。
そのうちの一人は、個別ルートが用意されているヒロインなのだが。
アレンが女勇者となっている今となっては、どんな関係性になるのか見当もつかない。
(ま。 どうなるにしろ…俺がやる事は変わらねぇか)
友の為に剣を振い、友の話に耳を傾け、時に友への助言をする。
それが友人キャラとしての俺の
◇◆◇
「うー! すごい! 海、ぷかぷか…早い! 」
「ちょっと、フリート! 甲板で走っちゃダメよ…! って…待ちなさーい! もうっ」
ピリーニャから出港している、アウルティア行きの船へと乗り込んだ俺達。
巨大な客船を前にして興奮した様子のフリートは、甲板に上るなり両手を広げて走り出してしまう。
他の乗客の迷惑にならないよう、早歩きでフリートの後を追い。
すっかりと問題児の扱いに慣れたリーニャが、海に気を取られているフリートを後ろから抱きかかえる。
「ほらっ、捕まえたわ」
「やー! はなして~! 」
きゃっきゃっと。
そのまま、楽しそうにじゃれ合い始めた二人とは対照的に。
海に出てから口数の少ないミアとアレンに声を掛ける。
「ミア、顔色が優れねぇようだが…大丈夫か? 」
「え、ええ…。 沈まないとは分かっているのですが…。 船旅は初めてなので…少し不安です」
「あー」
(そういえば、ミアは昔からカナヅチだったな…)
船が沈没する事など早々ないとはいえ。
万が一事が起きた時、自分では泳げないというのはやはり怖いのだろう。
「なに、もしもの時は脱出できるよう小舟が常備されてるし。 最悪…板っ切れにでもミアを乗っけて、俺が陸まで運んでやるさ」
「グレン…。 ふふっ、ありがとう」
「え~! ずるーい。 グレン、ボクは? ボクも運んでくれるよねっ? 」
「いや、そう何人もは面倒見きれねぇって。 それに、アレンは泳げそうだしな」
「む~。 ま、まあ泳げるけどさ…」
水辺のステージが用意されているくらいなので、勇者に泳げないといった設定はなかった筈だが。
やはり、この世界のアレンもカナヅチというわけでは無さそうだ。
「グレン…。 あの子たち、不思議…かんじ、する」
港を離れてから暫くして。
海を眺めるのにも満足したのか、辺りをきょろきょろと見渡していたフリートがふいにそう呟いた。
「ワルい器…ちがう、わかる。 でも、少し、にてる」
「あの子達…? ん、ああ。 友魔の事か」
「ゆーま? 」
客船の甲板には、様々な
その中には、友魔使いと…その友魔と思しきペアも何組かいた。
フリートは、バンダスランダでは見掛ける機会の無かった友魔の存在がどうも気になるようだった。
(まあ、俺も事前の知識が無かったら魔物と勘違いしてたかもしれねぇし…やっぱ、気になるよな)
友魔とは。
友たる魔の存在…その略称であり。
容姿や体格は個体ごとに異なるが、一見して魔物のようにも見えるものもいる。
とはいえ、似ているのはその外見だけであって…成り立ちや人との関わりは魔物とはまったく異なる存在だ。
魔星グリムの到来と共に生まれ落ちた、人々を脅かす存在たる魔物。
対して。
友魔は光の時代、無垢なる世界で人々ともに暮らしていた動物達が、世界に満ち始めた魔力の影響を受け変化した存在だ。
友魔は、魔法使いの派生ジョブである友魔使いと契約を結ぶことで人との対話が可能になるだけでなく。
契約者と友魔…双方の能力値が上昇し、肉体への影響も一部共有される。
故に、友魔と友魔使いはただのパートナー以上の、いわば運命共同体のような関係なのだ。
(そういえば…)
この先、勇者の仲間となるであろう人物の一人。
アウルティアで出会う筈の”残念な”貴公子…彼、いや…彼女? もまた友魔使いだった筈だ。
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