第二章 精霊神国アウルティア

第21話 神さまの声を聞く少女

 勇者と同じ、アレンという名前を名乗り。


 ミアのタレントを用いた探知に”引っ掛かる事なく”。


 気付いた時には目視出来る距離にいた少女は、高い魔法適正と光の属性適正を持っていた。


 勿論、ゲームでステータス画面を開くように彼女の詳細な能力値を確認できるわけでは無いが。


 バンダスランダで俺がムラマサの出現予兆に気付けた要因である大気中の魔力の変化。


 より詳しく言うなら”魔力濃度と属性比率の変化”に着眼すれば、少女…アレンが特別な存在である事はすぐに分かった。


 この世界の大気には魔法の源となる魔力が漂っており、俺達が魔法を行使する際には体内を巡る”純魔力”と大気中にある”自然魔力”を結び付ける必要があるのだが。


 人にはそれぞれ結び付けやすい魔力の属性がありそれが所謂”属性適正”となる。


 属性適正は大気中の属性比率に影響を与え。


 例えば火と闇の属性適正が高い俺の場合、周囲には火と闇の自然魔力が集まりやすく属性比率は火と闇の属性が占める割合が高くなっている。


 とはいえ、通常であれば異なる属性適正を持つ人々が入り混じり生活している為、個人が属性比率に与える影響など微々たるものだ。


 一方で、人が持つ本来の魔力である”純魔力”の量は魔法の威力や連発出来る回数などに影響する為、純魔力を多く持つ者は”魔法適正”が高いという事になる。


 魔法適正が高い者は単純に多くの自然魔力を引き寄せる為、優秀な魔法使いの周囲は魔力濃度が高くなるというわけだ。


 邪竜の血の影響なのか俺は周囲の魔力を詳細に把握する事が出来、アレンが現れてから周辺の魔力濃度が高まり、光の属性比率が急上昇していくのを感じ取った。


 個人でこれだけ周囲の魔力に影響を与えられるのは、彼女が只者ではない事の証明だ。


 フエーナルクエストでは男だった勇者アレンも、高い魔法適正と光の属性適正を持っていた。


 赤い頭髪や、随分と可愛らしくなってはいるが…どことなく原作主人公の面影を感じさせる容姿といい。


 最初に俺の手を握ったまま離そうとしないこの少女アレンが、グレンの友人であり、支えるべき主人公……勇者なのだろう。


(まあ…首から下げている、あの蒼い破片。 聖剣の欠片を持ってる時点で、疑いようはねぇか…)


「ちょ、ちょっと。 いつまでグレンの手を握ってるつもりよ…! 」


「わっ!? ご、ごめんね! えへへ…。 神さまが言ってた人に本当に会えて、ボク嬉しくなっちゃって…急にビックリしたよね」


「うー? かみ、さま…」


「という事は…。 アレンさん、貴女も神託を聞いてここへ…? 」


「うん! …っと、一旦場所を変えない? このままだとボク達、おかしな集団に思われちゃうかも…。 まあ、ボクはもう慣れっこだけどね! えへへ…」


(慣れっこって…笑い事なのか…? )


「そうだな、取り敢えず宿に戻るか」


(今朝、大部屋を借りておいて正解だったな…)


 というのも、昨日ミアには。


 家族同然の存在とはいえ、流石に年頃の女性を野郎である俺と同室にするわけにもいかないだろうと、リーニャとフリートの部屋で一晩過ごしてもらったのだが。


 本来二人用の部屋を三人で使うのやはり何かと不便なので、宿の人に頼んで女性陣が泊まる為の部屋を最大六人まで泊まれる大部屋に変更してもらったのだ。


 俺が使っている一人用の部屋と違い、備え付けのテーブルも大きく椅子も幾つもあるので、皆で食事などしながら周囲の目を気にせず話をするのに最適な場所だった。




 ◇◆◇




「ボク、会ったばかりなのにお昼ご飯ご馳走になっちゃって…なんか、悪い気がしてくるよ」


「うー。 でも、アレン…いっぱい、うまい、してた」


「じ、実は凄くお腹空いてたんだよね…えへへ、夢中で食べちゃった…」


「ふふっ、その小さな体であんなに沢山食べられたので…少しビックリしました」


「確かにアレンさん、あの食いしん坊のフリートといい勝負してたものね」


「うー! いぎ、ある! ある…? あり! リニャ、フリート、くいしんぼー、ちがう! 」


「いや、フリート。 焼き鳥を両手に握ったまま言っても説得力ねぇって…くくっ」


「う!? こ、これは…! はぐっ、ふぐふぐふぐ…ひょーほひんへふひなきゃ…」


 慌てて証拠隠滅を図るフリートに、リーニャが「よく噛んで食べなきゃダメよ」と何時ものように注意している。


「ふふ、でも良かった~いい人たちで。 ボク、グレンのことは神さまに聞いてたけど…他の皆の事は知らなかったら…安心したよっ」


「俺の事は神に聞かされてたのか? 」


「うん! お告げ…っていうのかな…? ボク、神さまの声が時々聞こえて。 信じてくれない人も多くて、昔からおかしな奴~って言われちゃう事もあったけど。 こうして、ピリーニャでグレンに会えたって事は。 やっぱり神さまの言ってる事は正しかったんだって」


「その、グレンの事は神様になんて聞かされていたの…? さっきの様子だと、一目で気付いたみたいだけど…」


「神さまが言うにはね。 ボクには、これから先訪れる試練…大いなる危機から世界を救える可能性があって。 でも、一人では世界を救えないから出会わなければいけない人達がいるんだって。 その出会わなければいけない人達の一人目、その人がピリーニャにいて…最初のお告げでは男の人って事しか分からなかったんだけど。 だんだん、髪の色とか瞳の色とか…特徴が分かるようになっていったんだ。 それでねっ、グレンは珍しい瞳をしているから会った時すぐに分かったんだよっ! 」


「確かに、グレンのオッドアイは珍しいから…特徴まで知らされていたらすぐに気付きそうね」


「ええ、それに。 試練、大いなる脅威という話も…グレンが昔話してくれた神託の内容と同じです」


「えっ…! グレンも神さまの声が聞こえるの…? 」


「ん、あ、ああ。 ただ…俺の場合は、アレンのように頻繁に聞こえるわけじゃねぇけどな」


「でも聞こえるんだね! 凄いっ、ボクだけじゃなかったんだ! 」


 変な人と扱われるのは慣れっこだと口では言っていたが、まったく気にしていない筈はない。


 はじめて自分以外にも神のお告げが聞こえる存在を見つけ、顔を輝かせるアレンに、実際は神の声など聞こえていない俺は罪悪感を覚えた。


(……だが)


 こうしてアレンと話してみると、やはり原作とは異なる点が多い。


 ゲーム内でも主人公…勇者は神託を受けるが。


 今しがたアレンが話したような、出会う仲間の詳細まで事前に告げられるような事はなかった。


 それこそ、俺がリーニャ達に説明する為に用いた”鍵となる出会い”程度の曖昧な表現だった事を覚えている。


 勇者の性別、出会いのイベント、神託…こうして違う点を幾つも並べていくと。


 俺の知識、記憶するゲームの情報が今後どれだけ役に立つのか…?


 そんな疑問が湧いてくる。


(悩んでいたところで、仕方ねぇ…か)


 そもそも、ゲーム知識…その記憶を俺が持ちえた事が何よりの幸運なのだ。


 この知識が無ければ、バンダスランダに向かう事もなかっただろうし地竜の力を手にする事も無かった。


 運命を変える選択肢、それすら現れなかった事だろう。


 でも今は違う。


 未知。


 多くの可能性を秘めた言葉。


 確かな未来など見通すことは出来ない。


 そんな、本来あたりまえの事が今は不安で…そしてなにより、嬉しかった。




「それでね、最初の出会いを果たしたボクは…いや、ボク達は。 これから向かわなきゃいけない場所があるんだ、それがね――」


 精霊神国アウルティア。


 神さまの声を聞く少女。


 女勇者アレンは、このエルフ・オリジンが住まう都を次なる目的地だと告げた。

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