第10話 目覚めし武蔵

 ダン爺さんの熱意と不眠の頑張りによって、潰れたエルーン文字の復元を無事に終えた初代武蔵。


 俺達が出掛けていた間にわざわざ図書館まで出向き、”エルーン文字大全・歴代最高版”なる本まで借りて修復してくれたというのだから、ダン爺さんには本当に頭が上がらない。


 基本的にエルフは伝統や格式を重視する種族なので、エルーン文字の意味や形状が時の流れで大きく変化するという事はないらしいのだが。


 精霊樹の加護のもと栄えたエルフの一大国家”アウルティア”を離れ、独自の文化を築いた”ウッドエルフ”や”ダークエルフ”のエルーン文字、他種族の文化と交わり独自の変化を遂げたエルーン文字など。


 一括りにエルーン文字といっても、そういった幾つかの種類に分かれている為、専門書を読み解きながらの復元作業は大変な困難を極めた事だろう。


 結果的に、初代武蔵の柄に彫り刻まれていたのはアウルティアに住まうエルフ、所謂”エルフ・オリジン”のエルーン文字だったらしい。


 ダン爺さんいわくドワーフと耳長族は気性が合わないので考えずらい説になるが、もしかすると初代武蔵は丘ドワーフとエルフ・オリジン、二種族の職人による合作なのかもしれぬと感慨深い表情で語ってくれた。


 そんな、奇妙な生い立ちを持つかもしれない愛剣を携え。


 俺はとうとう解禁となった初代武蔵の魔装カラクリ、その真価を確かめるべく今日も今日とてバンダス山岳へと足を踏み入れるのだった。




 ◇◆◇




(今日の修行場はこの辺りにしとくか…)


 ここ最近では中型魔物が頻出し、大型の魔物すら時たま現れるような高所のエリアにて修行していたのだが。


 カラクリ解禁初日の今日は不測の事態に備え、最初の頃にお世話になっていた低レベルな魔物達の楽園、今の俺のレベルなら最悪拳と魔法だけでもどうにかなる下層エリアにて試し斬りを行う事に決めた。


(む? 羽音…か)


 微かな羽音から徐々に騒がしさを増し、群れを成して姿を現したのは、レイピアのように長く、そして鋭利な毒針が特徴の巨大蜂…痺れ毒の巨蜂パライポイズビーと呼ばれる昆虫型の魔物だ。


 大型の魔物に属する女王蜂、痺れ毒の妃蜂パライポイズビー・クイーンに仕える働き蜂の中で最も数が多いコイツらは。


 山の高所より集団で下山し、幼虫の餌となる小型の魔物を捕獲していくのだ。


 そんな捕獲部隊の先陣を勤める、一回り大きな巨蜂。


 通常のパライポイズビーが黄色と黒の縞模様なのに対し、白と赤の縞模様を持つこの個体は、痺れ毒の巨蜂兵パライポイズビー・ロイヤルと呼ばれるエリート個体だ。


 ロイヤルには凡庸なパライポイズビーを先導し、移動や狩りの指揮を執る役割がある。


 まずは群れの頭をカラクリ起動前に撃破しておき、混乱状態に陥った残りの巨蜂共を相手に初代武蔵の新たな力を試すとしよう。


(縮地一刀ッ!! )


 修練を積み重ね。


 初期の頃から比べれば二倍以上の移動距離と、射程範囲内にある障害物の高度な回避能力を身に着けた、縮地一刀。


 会敵と同時、無残にも切り伏せられたパライポイズビー・ロイヤル。


 指揮官が消えた事で完全に統率を失い、混乱した様子で右往左往と飛び回るパライポイズビー達を尻目に、大きく後方へ飛び退き一度奴らから距離を離すと、右手に魔力を巡らせる。


(目覚めろ…。 武蔵ッ! )


 魔力を介し、俺の右手と初代武蔵が完全にリンクする。


 その刹那、刀身に幾何学的な紅きラインが走った。


 蒸気のような白煙と共に、両刃の刀身部分がセンターラインを境目に左右にスライド…二つに分裂したかと思えば、開いた刃の隙間から紅蓮の炎が火炎放射の如く吹き出した。


― 武蔵第一開起…炎刃焔えんじんほむら開放 ―


(…!! )


 スマートフォンの音声ガイドを彷彿とさせる無機質な音声が告げる。


 炎刃焔。


 俺の愛剣は、炎揺らめく新たな姿を今ここに現した。


「いくぜ、相棒ッ! 」


 素早く剣を掲げ放ちし一撃は、幾度となく使い込んできたスキル。


(風刃炎舞…!! )


 それが今、起動したカラクリの力により更なる進化を遂げる。


 四方八方に飛翔する風刃と炎刃が主力であったこのスキルが、しかし。


 その予備動作たる大剣の振り回しに、刀身から勢いよく吹き出す炎が加わる事で、以前とは桁違いのリーチを得た回転攻撃となり、逃げ惑う巨蜂共を襲う。


 飛刀が飛び交うまでもなく。


 パライポイズビーの群れは一薙ぎで灰と化し、周囲を瞬く間に火の海へと変貌させた。


(コイツは…! 想像以上だぜ…)


 俺の魔力から生まれた炎でなければ、今頃大惨事である。


 燃え広がる炎に意識を集中させ。


 すぐにさま木から木へと飛び火していく魔力の炎を鎮火する。


 ついに起動した、初代武蔵の魔装カラクリ。


 第一開起と呼ばれたその能力は俺の魔力に呼応した炎の力を刀身に宿すと共に、両刃の中央より魔力によって構成された炎の刀身が新たに出現しリーチと威力が増幅するというものだった。


 何も小難しいことはない、シンプルな強化能力。


 原作のグレンと同じく、力でゴリ押していくパワープレイを好む俺にとっては、こういう単純な火力アップが最も扱いやすい。


 とはいえ。


 先程使用した風刃炎舞が想定外の働きをみせたように、このカラクリの起動によって今までの戦い方にも変化が生じるのは確かだ。


(今一度、スキルの見直しが必要ってわけか…)


 バンダスランダに訪れた当初こそ、ドロップした武器の使用を考えていたが。


 この大剣は、今では俺の相棒として揺るがぬ地位を築いている。


(お前さんとは、長い付き合いになりそうだな…)


「これからもよろしくな。 武蔵」


― 炎刃焔消炎。 武蔵第一開起終了 ―

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