第9話 星空のような

 リーニャに楽しんでもらえるようなプランを…などと、意気込んだはいいが。


 彼女のお気に入りの場所や、好きなモノ…興味のある事について特別詳しいというわけでもなく…。


 急に決まった予定だったとはいえ、完ぺきとは程遠い…行き当たりばったりな俺のプランに彼女を付き合わせる感じになってしまった。


(自分の計画性の無さが嫌になってくるぜ…。 少しでも、リーニャが楽しめてりゃいいんだがな…)




 午後を少し回った時刻、商店地区にて。


 丘ドワーフだけでなく様々な種族の人々で賑わうこの大通りを、昼食を終えた俺とリーニャはぶらぶらと歩きながら、興味を惹かれる店があれば見て回っていた。


 その途中で、感じのいいアクセサリーショップを見つけた俺達は、少し奥まった場所にある隠れ家的なその店に立ち寄る事にした。


 こじんまりとした店内に所狭しと並べられた装飾品の数々は、店主が自ら様々な土地へ足を運び、現地の商人達から直接買い取ってくる物らしく。


 並べられた品々に意匠や用途の統一性はないものの、どれもこれも手掛けた職人のセンスが光る魅力的なものに映った。


 ふと、視線を少し離れた場所で商品を物色しているリーニャへと向ければ、彼女は桜によく似た花の装飾が施された髪飾りに目を奪われているようだった。


 暫くの間、思案していた様子だったが。


 店員を呼ぶ為のベルに一度伸ばしかけた手を引っ込めると、名残惜しそうにその場を後にした。


 そんな一連の流れを見ていた俺は、リーニャには気付かれないよう彼女の後を追う流れで、チラリと髪飾りが置かれたケースを盗み見る。


 成程確かに、店内唯一の鍵付きのケース内に置かれているだけはあって、髪飾りには決して安くはない値段がつけられていた。


 結局その後、このアクセサリーショップでは買い物はせず、店を後にしたのだが。


 俺は密かに、髪飾りにつけられたタグ…商品番号を記憶しておいた。


 暫くウィンドウショッピングを楽しんだ後。


 何軒か前に立ち寄った雑貨屋で買い忘れたものがあるという態で、一旦リーニャと別れた俺はダッシュでアクセサリーショップに戻り。


 アクセサリーの類に疎い俺でも買い間違えがないようにと、覚えておいた商品番号を店員に伝え、見事お目当ての髪飾りをゲットした。


 正直、肝心の髪飾りをリーニャに渡すタイミングで俺がかなりてんぱってしまったのでサプライズにはならなかったと思うが。


 鼻歌を奏でるくらいにはご機嫌な彼女の様子を見るに、土壇場で思いついたプレゼント計画はなんとか成功を収めと思う。


「~♪ 」


「この後の予定なんだが。 最後に、公園に寄って行かねぇか? 」


「~~♪ っと…公園に? 別にいいけど…もうすぐ日が暮れちゃうわよ? 」


(まだリーニャには言えねぇけど…日が暮れてからが本番なんだよな)


 髪飾りを買う為にリーニャと別れて、アクセサリーショップへと駆けていた時。


 俺は、その道中で気になる話を耳にしていたのだ…。




 日が落ち、すっかりと夜の景色へ移り変わったバンダスランダの街並み。


 今日一日の締めくくりとして訪れたここ都市中央公園は、園内にバンダスランダ最大の植物園がある事で知られている。


「私達、今日はツイてるわねっ♪ 最後にこんな綺麗な夜景が見れるなんて…! 夜の公園に来る機会なんてなかったから。 植物園でこんなイベントがやっていたなんて、全然知らなかったわ…! 」


 そう、商店地区にて小耳に挟んだ気になる話とは。


 この都市中央公園で期間限定で行われている、植物園のライトアップイベントに関するものだった。


 クリスマスシーズンのイルミネーションを思い出させる、色とりどりの照明が木々や草花に飾り付けられ。


 夜空に広がる星々がそのまま地上に降りてきたかのような、幻想的な空間をつくりだしていた。


「グレンっ! 凄いわっ! あっ…こっちもっ! 見て見てっ! ほらっ! あれもっ……! そこら中キラキラしてるわっ…! 」


 そのキラキラに負けず劣らず。


 子供のように目を輝かせ、はしゃぐ彼女の様子に自然と口元が緩む。


(この景色、何時かチビ達にも見せてやりてぇな…)


 走らずとも、閉園までにはまだ時間があるのだが。


 リーニャは俺の手を握り、楽しそうに夜の公園を駆ける。


(…終わりよければ何とやらだな)




「ふふっ、グレン! その、今日は…誘ってくれてありがとね。 すっごく、すっごく楽しかったわ! 流石、私のライバルねっ。 やるじゃない! 」


「そいつは良かったぜ」


「またっ! また、誘いなさいよねっ…」


「ああ、勿論だ」


「…………」


「…………」


「…綺麗だな」


「えっ…。 ちょっ、ちょっと急になに言って…! 」


「いや。 やっぱり、リーニャに似合ってんなと思って。 その髪飾り」


「あっ、えっと…。 で、でしょっ! もうっ、急に綺麗とか言うから少しビックリしちゃったじゃない…」


「? 」


「ま、まあ。 ライバルから貰った初めてのプレゼントだし…この髪飾りは一生大切にしてあげるわよ! 感謝しなさいっ! 」


「ははっ、そんなに気に入ってもらえたんなら良かったぜ」


「な、何ニヤニヤしてるのよっ! 」


「いや、ワリぃ。 一生って、凄いスケールだなって思っちまって…くくっ」


「もーっ! 笑うなー! 」


「やっべ…! 」


「待ちなさーい! このっ! 明日の朝食抜きにするわよー! 」


(朝食抜きってのは、勘弁してもらいてぇけど…)


 まあ、でも。


(案外。 いい一日に出来たのかもな)


 バンダスランダでのとある休日。


 リーニャとの関係が少し深まったような、打ち解けられたような。


 そんな日の思い出である。

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