第一章 かくして彼は彼女と出会った

第1話 友人キャラの朝は早い(前)

 何の因果か前世で大好きだったゲーム”フエーナルクエスト”によく似た世界で第二の生を受けた俺は、物心がつき程なくして自身がモブと呼ばれる一般人ではなく原作であるゲームの内容に大きく関わってくる類の重要人物である事に気付いた。


 グレン・バルフート、それが今の俺の名前だ。


 自分で言うのもなんだが、若干強面な顔つきはイケメンと言って差し支えない整い具合であり。


 この世界でも珍しい深緑と真紅のオッドアイ、褐色の肌と銀色の頭髪、筋肉質で高身長……。


 その容姿はまさしく俺が良く知るゲームキャラクター、フエーナルクエストのグレンそのものであり、周辺の地理や歴史などを知れば知るほど、ここが前世でやり込んだゲームの世界だという可能性が現実味を帯びてきた。


 俺、グレンはゲームの主人公である勇者の友人となるキャラクターであり、モンスターとの戦闘だけでなく旅の途中に出会う個性的なヒロイン達の個別ルートに入る為に必要なヒントをそれとなく教えてくれたりするサポート役でもある。


 初期のジョブは盗賊で、勇者に近付いた当初の理由も彼が首飾りとして肌身離さず身に着けている聖剣の欠片の価値に気付き、隙を見てくすねてやろうと考えていたからだ。


 盗賊と聞くと、スピードタイプやトリッキーなキャラクターを想像するかもしれないがグレンはゴリゴリのパワータイプであり、レベルアップの度に上昇するステータスも体力と物理攻撃に大きく偏っている。


 ゲーム内での戦闘におけるキャラクター性能は、仲間となるキャラクターの中でもトップクラスでありタイムアタック勢御用達の強キャラなのだが、公式によるユーザー調査によると所謂ハーレムものでもあるフエーナルクエスト故にか、男キャラであるグレンの使用率は下から数えた方が早かったという記憶がある。


 とはいえ、その戦闘能力は攻略サイトのオススメキャラにも必ず推薦されるほどユーザーから評価されており。


 豊富なHPと盗賊のメイン武器とは思えない大剣による高火力、キャラ特性である体力の毎ターン自動回復、謎の補正が掛かった鉄壁の防御力……適当に操作していても何とかなるマンと言われるくらいには頭一つ抜けた強さを持っている。


 グレンのこの強さにはストーリー上の理由があり、彼の失われた家名である”バルフート”はこのゲームのラスボスである邪神デアボロに仕える四魔王が一体、紅き邪竜バルフート…またの名をバハムートと呼ぶ存在の血族である事を示しており、グレンはその身に流れる魔王の血により序盤から段違いな力を有しているのだ。


 本来であればバルフートに関する情報は今の時点のグレンの頭から消されている筈なのだが、前世の知識という盛大なネタバレを所持している俺には魔王が施した記憶の封印など無いも同じだ。


 そんな訳で。


 前世で寝る間も惜しむほどドはまりしていたフエーナルクエストのキャラクターに転生、しかも主人公のハーレム勇者ライフをサポートする友人キャラとなれば俺がこれから先、歩むべき道はだだ一つ……。


(全力でこの世界の主人公…勇者をサポートするぜッ!! )


 正直に言えば男として、これから先世界を救い美少女ハーレムを築くであろう勇者が羨ましく無いわけではないが。


 フエーナルクエストの一ファンとして、そしてゲームに捧げた数百時間を共に過ごした相棒として、勇者には幸せになって貰いたいという気持ちが強い。


 故に、フエーナルクエストに用意されたバッドエンドの回避は大前提として、全方向から勇者を全力で支える……それが俺の、グレンとしての役割である。


 最後に、絶対に忘れてはいけないのが勇者の旅路の後半に訪れるグレンの離脱……闇堕ちイベント、これをなんとしても不発に終わらせる。


 邪竜の血が覚醒し、新生魔王として勇者一行の前に立ち塞がる事態だけは何としてでも避けなければならない……。


(その為にも、勇者に出会うまでの凡そ二年間……みっちり鍛え上げておかねぇと…)


 勇者との出会いの場は”港町ピリーニャ”で九年に一度開かれる光の祭りの期間だと記憶している。


 様々な国の多様な種族が集まる地、ピリーニャにて開かれる祭りは一年ごとに移り変わり。


 第一の祭りである火の祭りから始まり、雷の祭り、風の祭り、水の祭り、岩の祭り、森の祭り、天の祭り、闇の祭り、光の祭り、そしてまた火の祭り……と、九つの祭りが九年をかけて訪れ、締めとなる光の祭りが終わると再び火の祭りから巡る仕来りとなっている。


 今年ピリーニャで開かれた祭りが天の祭りなので、勇者との出会いまでは約二年だと目星をつけたのだ。


 裏付けとして、前回開かれた光の祭りの時期では俺達はまだ幼過ぎるし…二年後より先の光の祭りだとすると魔王の血の効力で成長が止まる俺を除いた大半のキャラクターは年齢や容姿が原作と合わなくなってしまう。


 そういった事を踏まえると、勇者との出会いの時期は二年後に開かれる光の祭り……ここでほぼ間違いないだろう。


 出会いの時期までの残り期間、俺はその時間を修行に費やす。


 ゲームではターン制だった戦闘も、現実となったこの世界では実際に自分の身体を動かし敵と対峙しなければならない。


 幾ら基本スペックが高いといってもそれに胡坐をかいているようではこの先やっていけないだろう。


 あたりまえの話だが、俺も勇者も。


 この世界で一度ゲームオーバー……死が訪れれば、セーブデータのロードによる”やり直し”は出来ないのだから。


(幸い、修行の場の目星はついている…)


 グレンとして第二の生を受け十数年。


 魔王の血族故当たり前なのだが、身寄りのない幼子として彷徨っていた俺を保護してくれた孤児院の親父さんと、その娘のミアさん。


 前世の記憶が戻った当初こそ困惑したが、今ではかつての実家のように安心できるこの家ともそろそろ別れの時期だろう。


 原作でのグレンは孤児院に入らず、十代になる頃には既に盗賊として生計を立てていたが。


 転生者である俺がグレンとなった影響なのか、盗賊生活とは程遠い幼少期を過ごした。


 この時点で、全てが原作通り……ゲームのように進まない事が判明しているので今の内からガッツリとレベリングを行い、早急なパワーアップが必要なのだ。


(修行の話は既に親父さんにしてある……血の繋がりはないとはいえ、ミアさんをはじめとした孤児院の兄妹達との別れは惜しいが、何時までもここにいる訳にはいかねぇしな……)


(明日の朝、日の出と共にここを出よう)


(チビ共が起きてきてからじゃ、出て行き辛くなるしな……)


 一瞬、日頃から兄ちゃん兄ちゃんと俺を慕ってくれる弟、妹達の泣き顔を思い浮かべてしまい慌てて頭からその光景を追い出す。


(勇者の旅路の完遂……邪神との戦いに勝たねぇと、あいつ等も笑って暮らせねぇんだ)


 寂しくなるが、この別れを避けていてはいけない。


(それに、今生の別れってわけでもねぇんだ…)


 全てが終わったら、また会いにくればいい。




 ◇◆◇




 翌朝。


 目が覚めるとミアさんが俺の事を覗き込んでいた。


 何だ!? と思い、体を起こそうとして直ぐに今置かれている状況に気付く。


 ミアさんは俺の上に馬乗りになっていた。


「おはようございます、グレン」


「あ、ああ。 おはよう…ミアさん」


「ふふっ…まだ寝ぼけているのですか? ミアさんじゃなく、ミアでしょ? 」


 異常な状況に動揺しミアさんを久しぶりにさん付けで呼んだ結果、微笑みから一転…無表情と化したので慌てて何時も通り呼び捨てで朝の挨拶を再開する。


「おはようミア。 そんで、あの……取り敢えず上からどいてもらえるか…? 」


「ダメです」


 拝啓勇者様。


 貴方の未来の友人は、旅立ちの日から既に躓いております。

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