Tの悲劇
芝樹 享
被験者候補生
早くも2回目の東京オリンピックから20年が経過した。僕は特殊な企業に応募した。
あまりにも条件が特殊なだけに、公募数は少ないと聞かされる。その上、高額の報酬が約束された。国立大学や私立大の4年分の授業料は、保証されるというのだった。応募内容には、特殊すぎる故の文言までがあった。
『非常に危険なため、生死の保証がありません』
数日後、僕宛『
僕を含め、数人の採用が決まったらしく、待ち合わせしたうえで、研究所のような広大な敷地に案内される。
そこで数ヶ月間過ごすことになり、最終的にひとりを被験者として迎え入れると、監査官がこたえた。
研究所の敷地には、ありとあらゆる娯楽施設があった。最初当惑するも、合格者は楽しんでいる様子だ。
研究所の目的が不明確なだけに、僕としては心から楽しむ気持ちにはなれなかった。
合格者らの中に唯一ひとりの女性がいた。彼女の名は
数ヶ月が過ぎたある朝、全身黒スーツの男に指定された部屋へと行くように指示される。
室内には個々に席があり、ネームプレートと番号の表示がある。それぞれに名前のある席につけ、と言うことらしい。合格者たちは有無も言わず、自分の名前のある席へと座った。
しばらくして黒スーツに身を包んだ三十代の女性が現れた。
「どうぞ、皆さん楽に聞いてください。早速ですが、これから最終的な試験を受けて頂きます。これにあなた方が耐えられるかどうかで、本来の仕事に入れるかどうかが決まってきます。よろしいですか?」
疑問に思うことを女試験官に訊いてみた。
「あの……」
「はい、何でしょうか? 戸岐原さん」
「ここに来てから、数ヶ月間過ごすように指示されましたけど、企業側の目的は何なのですか?」
率直に質問した。他の合格者たちも頷きを見せ、ここにいる誰もが疑問に思っていたようだった。
女試験官は、顔色をほとんど変えることなく淡々と語りはじめた。
「皆さんは外界と隔離されて数ヶ月間過ごしたと思います。ここでは私たち独自のルールに馴染んでいただくために、普通に過ごしていく中で個々の行動や性格をテストさせて頂きました。それだけお仕事が非常にデリケートなのです」
一同は納得したように沈黙した。
女試験官は、すました顔で僕ら被験者候補生をながめていた。
つづく
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