第4話 妻のアキと僕。 Min fru Aki och jag.

まずは最初にもう少し、僕・ヨウコについて話をしようかな。僕のことを知らないと、理解に苦しむ話もきっとこれから先に出てくるだろうから。


僕は子供の時、フィンランドから家族と共に隣のスウェーデンに移住してきた。僕が幼かった頃、フィンランドはまだまだ貧しくて、僕の両親は仕事もなかった。だから当時経済的にも安定していたスウェーデンに家族で移住することを決めたんだ。その後で、スウェーデンで妹が生まれてる。もう両親は数年前に他界したから、今僕の血の繋がった家族は妹だけだ。


僕は全く覚えていないけれど、移住の始めはスウェーデン語が全く分からなくて苦労したみたいだ。フィンランド語とスウェーデン語は、例えるならドラフトビールとフレーデルのジュースぐらい違う言語だよね。(訳者注:ニワトコの花を漬けたシロップを水で薄めた夏の飲み物)


フィンランドは公用語にスウェーデン語もあるから、普通に学校でフィンランド語とスウェーデン語をベースに、第三外国語で英語を勉強する。両親はちょっとはスウェーデン語が話せたみたいだったけど、僕はまだ学校に行く前の移住だったから、大変だったみたい。僕自身はそのことは全然覚えていない。ただ、悲しい思いとともに1つだけ記憶していることがある。


スウェーデンに移住して初めての夏、近所の新しい友達と遊んでいたら、その内の親切なママにアイスクリーム食べない?って聞かれたんだ。

でも僕は、まだスウェーデン語がわからなかったから、凄く似てる発音のワイングラスのことだと勘違いしてしまった。ワイングラスを食べるの?僕は不思議に思いながら〝ありがとう。でもいらないよ〟って言ったんだ。そしてそのお母さんは、僕以外の子達の分を買ってきた。皆美味しそうにアイスを食べているのに、僕だけいらないよって言ったから食べられなかった。誰も悪くないけど、僕が5歳の時だったから、よく覚えてる。子供の頃に食べ物のことで悲しい思いをした体験はよく覚えているものだよね。


この話を、アキがスウェーデン語を勉強している時に思い出して、何気なく話したんだ。アキも僕と全く同じ勘違いをしていたから、懐かしいなって思って。だけどアキはみるみる大粒の涙を溜めて、僕に飛びついてきた。今アイス食べたい?買ってきてあげようか?って。僕はその時、自分自身でも気がつかなかった幼い頃の心の傷を彼女の涙で癒してもらった気がして、思わずアキを強く抱きしめちゃった。アキが僕の妻で、本当によかったと思うよ。


ともあれ、僕はスウェーデンと言う国に移り住み、数年後にスウェーデン人の市民権を得て、ルンドの大学で経済とITを勉強し、このストックホルムに戻ってきて就職した。

今までに僕は何十人かの女の子と付き合ったし、軽いノリでセックスしただけの相手もいた。みんなも知ってるだろ?何と言ってもスウェーデンは、悪名高き〝フリーセックス〟の国だ。道端でいつでも盛ってるって他の国の人達が安易に想像しても、僕は別に不思議だとは思わないよ。実際道端のセックスしてる人なんて見たことないけど。

僕は女の子としか付き合わなかったけど、ゲイだったりバイだったり人生をより楽しんでいる人も多い。実際に僕のゲイの友達は、男性同士で結婚して子供を養子に迎えて育てている。とっても素敵なラブラブファミリーだよ。


前置きがかなり長くなってしまった。申し訳ない。

僕が結婚した女性は、日本人だ。名前はアキ、Akiと書く。日本の女性名では普通の名前らしいが、フィンランドではAkiは男性の名前に使われる。

日本人女性の名前を持つ僕ヨウコと、フィンランド人男性の名前を持つアキは、今から五年前にスウェーデンで結婚して夫婦になった。


スウェーデン人の皆なら当たり前に感じる〝サンボ〟だけど、アキはサンボのままでスウェーデンに住むのは嫌だ、結婚したいと主張した。(訳者注:結婚をせず同棲しているカップルで、法的にも殆ど結婚と同扱いされる)

日本という国では、結婚もしないで一緒に暮らし、子供まで作るというのは非常識らしい。スウェーデンじゃ普通なのにね。

僕は結婚でもサンボでも、とにかくアキと一緒に居たかったから、二つ返事で結婚を受け入れた。

あ、そうか。ということは、アキが僕にプロポーズしてくれたことになるんだね。後でアキに指摘してみよう。僕の妻は男前だねって言ったら、なんて言ってくれるかな。


今までに付き合った女の子たちは、とても楽しかったけれど、まあ普通だった。みんな美人だったしセクシーだったけど、予想の範囲っていうのかな。

でもアキはね、違うんだ。アキは毎日毎回僕をちゃんと驚かせてくれる。全然想像もつかないアイデアが突然出てきたり、どんな理由からそれにしたのって思う驚きのチョイスをする。全く予想がつかない行動をするんだ。だから毎日ドキドキする。毎回ハラハラする。僕はアキと出会ってからずっと、アキに夢中なんだ。


ああ、アキとの出会いはもっと長くなりそうだから、また今度書くことにするよ。

ちなみに今、今日の夕飯は僕の大好きな唐揚げだって連絡が来た。わお。急いで家に帰らなくちゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る